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第三話 黒い刺客



「おい、お前、魔力が使えないんだってな? おい聞いてんのか」


 薄暗い森の中、フラウは今日も今日とて自然の糧を探していた。

 生まれ育ったアルストラ王国を追放される事となったフラウは、人里離れた妖精の森と呼ばれる場所に居を移していた。居を移したと言っても、廃屋となっていた丸太小屋をなんとか改修して雨風を凌いでいるだけなのだが、今のフラウにはこれが精一杯だった。


「おい、こっち向けテメェ。やってやるかんな。こっちは本気だかんな!」


 フラウは基本的に戦う事しかしてこなかった。食事の用意や寝床の確保などは仲間のローウェンに任せていたし、困った時には魔法を使ってなんとか解決していた。しかし、その二つの手段も各国の王達との契約によって断たれていた。


「あー、もうキレちまったよ。頭カッチーン。もう許してやんねぇから」


 国を出る時に各国の王達と結んだ契約は三つだった。

 一つ目は魔力の制限。これによってフラウの魔力は基本的な生活魔法しか使えない程度までに制限された。二つ目は交友関係の制限。かつての仲間や友人などと連絡を取る際は王国を通すことが義務付けられた。三つ目は他国への入国禁止。これによってフラウはどこの国にも属さない場所での生活を強いられる事になった。


「無茶苦茶な契約だよなぁ。でも、殺されるよりはましか」


 フラウは手に取ったどんぐりをさっと確認してからポケットに入れた。


「あ、ところで、君は誰?」


 数分前から小さな影がフラウの周りをぐるぐると走り回っていた。


「お前、なんで私の事を無視するんだよ。コノヤロウ」


 小さな影が足を止めて言った。影の正体は小さな子どもだった。歳は十四くらいだろうか。黒い髪の毛を胸の辺りまで伸ばしており、やけに気の強そうな顔をしている。


「ごめんごめん、ちょと考え事をしてたんだ。で、君は誰だったかな」


「わ、私はリリィ。お前、勇者フラウだろ」


「うん、そうだけど。あ、でも、勇者の肩書きはあげちゃったんだった。ただのフラウだよ。もしくは元勇者のフラウかな。よろしくね」


 フラウが右手を差し出すと、リリィと名乗る少女はその手を強く叩いた。


「うるさい! 私はお前を殺しに来たんだ。と、父さんの敵討ちだ。覚悟しろ!」


「父さんの仇? 誰の事だろう」


 フラウが聞き返す間もなく、リリィはどこからか短刀を取り出していた。その短刀からは黒い魔力が発せられており、フラウはそれを見て唇を噛んだ。


「あぁ……君か」


 魔力感知の能力が制限されていてもフラウには分かった。この子どもは魔王ウェルザの娘だ。自分が手にかけた男の、一人娘だったのだ。


「初めまして、リリィ――いや、久しぶりかな。大きくなったね。僕は君になら殺されてもいいと思ってたんだ」


 フラウがそう言うと、リリィは悲しそうに笑った。


「なんだよそれ。ふざけたこと言うなよ。私はお前の事をずっと憎んでたんだ。父さんの仇、いや、魔王ウェルーー」


 リリィがその名前を口に出そうとした時、鋭い風切り音が辺りに鳴り響いた。


「ルリアさん、やめてください。この子は、そのー、知り合いの子どもなんです」


 騎槍の穂先がリリィの顔の前で揺れていた。その白銀の切っ先を見たリリィは小さな悲鳴を上げ、その場にぺたんと座り込んでしまう。

 どこからかこの騎槍が恐ろしい速度で放たれていた。フラウはそれをいち早く察知し、リリィの顔に到達する前に騎槍の柄を掴んで止めていた。


「今、その子どもが言いましたよね。父の敵討ちだと。魔王ウェルザの敵討ちだと。つまり、その子は魔王の娘なのでは?」


 冷たい声が上空から降り落ちる。それと共に微かな魔力の気配もフラウは感じ取っていた。


「いや、いやいや、ルリアさんの聞き間違いですよ。この子は、そのー、昔立ち寄った港町で知り合った……ウェル。そう、ウェルの子どもなんです。いやぁ、懐かしい、懐かしいなぁー。そうか、ウェルの子のリリィか。本当にウェルそっくりだ」


 フラウは腰を抜かしてしまったリリィを持ち上げ、大事そうに抱き寄せた。それは知り合いの子どもを抱き上げるという演技であり、ルリアの攻撃を抑止する為でもあった。いくら王国から派遣された騎士といえど、現場の判断で自分を殺す事は出来ないだろうと考えたのだ。


「あなた、その子の父親を殺したんですか? それなのに、その子に対してそんなに馬鹿げた態度を取っているのですか? 正気ですか?」


 ルリアの冷たい声が今度は背後から聞こえた。


「事故だったんです。魔族との交戦中の不幸な事故で」


 フラウにとって幸いな事にリリィはこの状況を理解した上で黙っている様子だった。フラウの胸の中で口を閉ざし、静かにフラウを見上げている。


「そこの子ども、彼が言ってる事は本当ですか?」


 ルリアの声がすぐ目の前から聞こえた。しかし、彼女の姿は見えない。


「ほ、本当。でも、私は許せなくて。私一人でここまで来た。いや、来ました」


 リリィは言葉遣いとは裏腹に頭の良い子どものようだった。感情的にならず、自分の目的の為に合理的な判断が出来る子どもだ。


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