第279話 最終決戦③
シラホシは黄金のレーザーに呑まれる。
だが、
「また新しい武装か」
シラホシは無傷だった。
「あなたは∞アーツとの戦闘経験が無いんだね」
「なんだと?」
「私がいま使ったのも絶光。全ての∞アーツは3秒間だけインフィニティ・スペース最大密度のENシールドを纏うことができる。そして、再使用まで1分の時間を必要とする」
「そうかそうか。全∞アーツ共通だったか。道理で、汎用性が高いわけだ」
レーザーが当たる刹那、シラホシは白銀のオーラを纏いレーザーを弾いた。おかげで無傷。だが、絶光はシラホシにとっても奥の手だった。
「凄い。私にコレを使わせるなんて……褒めてあげる」
「……あぁん?」
明らかに年下の少女からの超上から目線の賛辞。
PPPはつい普通にガンを飛ばしてしまった。
「くくく……この私を見下ろすメスが居るとはな」
PPPは両腕を広げる。
「恐らくこれも、全ての∞アーツに搭載された機能なのだろうな」
PPPは両拳を勢い良く合わせる。
「このままの状態ではどうせ平行線。オケアノスを落とす余力は無くなるが、仕方あるまい。お前を倒すことができれば、オケアノスを落とす以上に価値のあるものが手に入る。インフィニティ・スペース最強の称号が手に入る……!」
PPPの全身に、赤い光の線が走る。光を宿した部位が次々と活性化していく。
「ファイナル・ラウンド」
凄まじい光がPPPの体より発せられる。
『強制武装解除まで、03:00』
システム音声が響いた。
シラホシはPPPの使った機能を知っている。
「名前は違うけど、それと同じ機能はゴッド・アクセルにもある。∞アーツで底上げされたステータスを更に強化し、加えて全ての武装の性能を跳ね上げる。代償として、3分後に∞アーツは強制解除される。∞アーツの終の一手」
「そういうこと、だ!」
PPPが初めて、シラホシの背後を取った。
シラホシの速度を、白い流星の速度を、PPPが上回った。
「……!」
「遅いぞ流星!」
PPPのジャブが放たれる。シラホシはなんとか剣で受けるも、剣ごと弾き飛ばされ、宇宙を漂う壊れた宇宙船に背中を打ち付けた。
「どうした? お前も早くラストウェポンを発動しろ。それともこのまま――貪られるかぁ!!?」
PPPの連撃が炸裂する。
シラホシは防戦一方。拳は徐々にシラホシの体を掠めるようになり、シラホシは全身の耐久値を削られていく。
押されているのはシラホシ。なのに、PPPは見た。
高速戦闘を繰り広げる中、PPPは確かに見た。
――残念そうに、ため息をつくシラホシを。
「あなたは強い。でもそれが天井なら、私に『愛』を抱かせてはくれない」
シラホシの瞳が、暗闇に落ちていく。
反対に、その頬は赤くなっていく。
「何を、言っている……!」
「私は愛を抱きたい。愛を知りたい。足りない。あなたでは、足りない……!」
シラホシは深い悲しみを抱いていた。
PPPは間違いなく『強者』だった。『王者』だった。それでも、シラホシは愛を抱くことができなかった。
最高の食材を最高の料理人が調理し、極上の料理が出来上がった。空腹の自分が、その極上の、常人ならば口にした瞬間に泣いてしまうぐらい美味い料理を、食した。なのに、自分の舌は満足しなかった。
深い絶望だ。だが、心が折れることは無い。まだあるから。ジャングルの奥地で見つけた珍味が、まだ控えているから。
「惜しかった……でも決して届きはしない。これから先も、ずっと」
シラホシの右眼に、∞の紋章が浮かぶ。
「シキ。やっぱりあなただけだ。私の宇宙を照らしてくれるのは」
「シキ……? お前、私のプリンセスを知って――」
ザッ! と、今度はPPPが背後を取られた。
「!!?」
次の瞬間、PPPは全身に斬撃を受けた。
ファイナル・ラウンドによって装甲値が強化されているから生き残っているが、通常時なら――いまの攻撃で終わっていた。
「速い……さっきまでとは、まるで!!!」
六仙の使うレギオンのように、シラホシのゴッド・アクセルも脳波数値によって強化させる。
∞バーストによりシラホシの脳波数値は倍以上に膨れ上がった。武装の性能は先程までと比べ1.78倍。さらに、
「はは! それでこそだ!!!」
PPPは格闘戦を仕掛ける。
凝縮された時間の中、121の読み合いが発生する。その121の読み合いの内、引き分けが42、PPPが勝ったのは16。残りの63回は全てシラホシが読み勝った。
拳の間合いで、PPPが完全に読み合いで負けた。
「お、まえ!!!」
脳のキレも、段違いに上がっている。
これが∞アーツと∞バーストを合わせた力。
∞×∞の終わりなき進化。
「あの子に、ちょっかいかけたらしいね」
シラホシは分身を展開。
PPPに近づいた分身に実体を移し、斬り抜け。さらに接近していた分身に実体を移し、斬り抜け、それを延々と続ける。分身を使ったコンボが炸裂する。
PPPは絶光で無理矢理コンボを拒否するも、すぐさままた斬られてしまう。
シラホシはENで無数の剣を作り、PPPを囲い、発射させる。PPPはギリギリで全ての剣を叩き落すが、シラホシが手元の剣から放った飛ぶ斬撃を体に受け、耐久値を減らす。
「それはいけないこと」
シラホシの瞳がさらに暗く、深々と、堕ちる。
「――アレは、私のものだ」
生まれた時から怖い物知らず。
スラムで生まれ、スラムを制圧し、拳1つでスターダムを駆け上がり、力で全てを覆した女王。
どんな相手も、顎を上げて挑発した。
そのPPPが生まれて初めて、他人を恐れた。
「ちいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃ!!!!!!」
PPPは拳を振り回し、レーザーを乱射。強引にシラホシに防御させ、距離を取る。
「認めるよ。お前は強い」
PPPは右手で左腕を掴み、左腕を外す。
手に掴んだ左腕が変形を始め、右腕と合体していく。黄金且つ、禍々しく巨大化した右腕ができる。
PPPは拳を握りしめ、拳に大量のENを溜めていく。
「正真正銘、私の最高の1撃だ。メインシップのメガレーザー……アレの30倍の出力といったところか。どこへ逃げようと無駄だ。攻撃範囲もまた異次元。分身を展開したところで意味は無い。全ての分身を呑み込むだけの範囲攻撃だ。どう受ける?」
シラホシは当然、つまらない選択は取らない。
「面白い」
シラホシは白銀の光を3秒纏い、そして光を宇宙に散らせた。飛び散った光はPPPの背後まで飛んで行く。
「お前というやつは、とことん面白いな!!!」
シラホシは絶光を無駄撃ちしたのだ。
絶光で生き延びる、という選択肢を捨てた。そんなつまらない、シンプルな防御方法は使わない。そう態度で示したのだ。
「私はあなたの攻撃を受けない。必ず、回避する。私は白い流星なのだから、回避で魅せる」
「良く言った! 白い流星……お前との戦いは間違いなく、私のベストバウトだったよっ!!!」
PPPは右拳を引き絞り、全身全霊で振り抜く。拳の先から、惑星を貫ける程の黄金のレーザーが発射される。
「燃やせえええええええええええええぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!!!」
PPPの視界には黄金色しか映らない。
それだけ凄まじい攻撃範囲、それだけ凄まじい出力。当たれば誰であろうと即死だ。避ける隙間もありはしない。
「Prime(最良)にしてPinnacle(絶頂)にしてPerfect(完璧)!!! それが私! PPPだ!!! この宇宙にクイーンは只1人! 私以外は全て等しくメスだ!!!」
砲撃が止む。
PPPの眼前に広がる宇宙には何もない。塵1つ無い。
勝った……などとPPPは思わない。そんな凡庸じゃない。
PPPは静かに、負けを悟った。
「ちっ」
PPPの喉元に、背後から刃が添えられる。
PPPの背後にはシラホシの姿があった。
「何をした? 避けられる間合いじゃ無かっただろ」
「さっき絶光を散らせた時、絶光に隠して幻影粒子も飛散させた。ちょうど分身1体分の幻影粒子を」
もしも普通に幻影粒子を散乱させたらPPPは間違いなく幻影粒子を見逃さなかっただろう。
絶光の中に隠すことで、幻影粒子を安全にPPPの背後に運ぶことができた。
「幻影粒子をあなたの背後で結集させ、分身をあなたの背後に生成した。後は簡単。砲撃の瞬間に分身に実体を移せばいい」
最初から勝負は決まっていた。
PPPの∞アーツがファイナル・ラウンドの反動で解かれる。これで、シラホシの1撃で確実に仕留められる状態になった。
「背後の警戒を怠ったことは無い」
「うん。でも警戒しても察知はできない。私の分身の最も強力な点、それは視覚でしか捉えられないステルス性。気配も無ければ殺気も無く、音も無ければ匂いも無い。レーダーにも当然映らない。あなたの超人的な勘の良さを駆使しても、分身を察知するのは不可能。現にあなたは分身を利用したバックアタックには被弾している」
PPPは悔しそうにするわけでもなく、むしろ清々しい顔をしていた。
「あーあ。セコいだろそれ」
「うん。セコ技。でもあの子には通じない」
「……シキか」
2人の間に、もう敵対心は無かった。
互いに生まれもっての強者。ゆえに、通じる心がある。
「いつか見せろよ。お前とシキが戦う姿を」
「任せて。全宇宙同時中継する」
「シキvsシラホシ、宇宙タイトルマッチか。フッ、己が出ない戦いに心を躍らせるなど、初めてだ」
シラホシの刃が、PPPの首を落とした。
これにて決着。
PPPの撃墜を確認した火緋色金艦隊は完全に撤退。オケアノスに迫る脅威は跳ねのけられた。
こうして、本当の意味で代理戦争は終幕となった。
このシラホシvsPPPは六仙が懸念していた通り、これまでの代理戦争の試合を喰らう程に盛り上がってしまった。ゲーム史に残る一戦となった。最後までこの戦いを追えたカメラマンもまた、賛辞されて然るべきだろう。
白い流星。間違いなくこのゲームの中心と言えるプレイヤー。
彼女は空っぽになった宇宙で闇の先を見つめる。彼女の瞳には、一体何が映っているのだろうか。
次回、最終回。





