エピローグ
代理戦争が終わってから3日が経ちました。
月上さんが乱入したあの1件は瞬く間にインフィニティ・スペースの話題をかっさらいました。ロゼッタさん、イヴさん、ラビちゃん、ネスさん……他にも多くの方が驚き、僕は質問攻めに遭いました。
皆さんが1番知りたがったのはやはり、『シラホシがオケアノスに手を貸した理由』です。
それもそのはず。オケアノス軍は何度か月上さんを倒しに月に遠征に行っていた。僕も1度、その戦いに巻き込まれている。関係が良好なはずが無いのです。
結論から言うと、月上さんはオケアノスに手を貸したわけでは無かったのです。
月上さんを呼んだのはオケアノスではなく、僕だ。
六仙さんと話し合った後、僕が通話で依頼した。月上さんは快くOKしてくれた。
『あなたがアンノウンに行くために必要なら、私はやる。ただ、勘違いしないように言っておいてほしい。私が味方するのはあくまでシキ。オケアノスに味方するわけでは無い』
とのことだ。
そして、これはありがたい言葉でもある。オケアノスの味方じゃない。つまり、ピーさんを落としたのはオケアノスの人間じゃないということ。これがとても大切なのである。
この先、オケアノスは火緋色金とも外交をする。色々な事を求めて。もしもオケアノス軍が火緋色金軍を直接叩いていたら軋轢が生まれ、外交は上手く進まないだろう。でも、火緋色金を倒したのが『部外者』ならば問題ない。屁理屈だと言われてしまう可能性は大いにあるけど、軍vs軍の構図にならなくて済んだのは大きい。遺恨は少なく済むはずだ。
ちなみに火緋色金の進軍ルート等を月上さんに送ったのはフリーパーチ戦で落ちた後のタイミング。月上さんは長時間月を離れられないため、進軍ルートを確定し、移動時間を短くする必要があった。
ピーさんを撃墜し、火緋色金を撃退した月上さんはすぐさま月に戻り、月上さんの留守を狙って月に到来した賊一団を撃滅したらしい。そして、あの人はまた月の守護神に戻った。
何はともあれ、面白いぐらいに丸く収まったのでした。
そうそう、千尋ちゃんが言っていたけど、後日、シノハさんが千尋ちゃんに謝りに来たそうだ。素直な謝り方じゃ無かったらしいけど、無駄に攻撃したことを謝罪したようだ。
シノハさんと言えば、火緋色金の星王であるピーさんが王を辞めるって風の噂で聞いた。月上さんに負けた責任を取るつもりなのかな。シノハさんがきっと引き留めるだろうけど、玉座についていないあの人はちょっと想像できない。
代理戦争が終わるとラビちゃん・ロゼッタさん・イヴさんはオケアノス軍から離れた。イヴさんはまた運送業に戻ったけど、ロゼッタさんとラビちゃんは姿をくらました。
ロゼッタさんは火緋色金に出入りしているとこれも風の噂で聞いた。ロゼッタさんはΩアーツのユニゾンに興味を示していたから、もしかしたら姉妹ちゃんに会いに行っているのかもしれない。
千尋ちゃんは「武者修行している」とだけ言っていて、ラビリンスがいまどこに居るかは教えてくれなかった。関連性があるかはわからないけど、最近月上さんと千尋ちゃんが良く話しているのを見かける。それも妙な光景で、月上さんは普通に話していたけど、ラビちゃんは懸命にメモを取っていた。
ラビちゃんは軍を離れる際に六仙さんから宇宙船を1つ借りたらしいけど……まさかね。そういえば、月上さんとピーさんの戦いを、ラビちゃんは無言で、ジッと見つめていた……ラビちゃんの居場所について1つの予想が生まれるけど、さすがに無いか。
僕が言えた義理じゃないけど、団体行動のできない人達だ。次のランクマッチまでには全員を見つけ出さないと。
ましゅまろスマイルの皆さんはU20に向けて気合を入れていた。特にニコさんが燃えていた。なんでも、U20に参加するプレイヤーの中に凄く強いガンナーの人が居るらしい。黒い双銃でどんな敵をも撃ち払うそうだ。一体どんな人だろうか。時間ができたらU20の試合を見るのも悪くないかもしれない。
オケアノス軍は当然、アンノウン・プラネット攻略に向けて準備をしている。六仙さんは今度、また星王会議を開くみたいだ。六仙さんはアンノウン・プラネットの攻略に、他コロニーから支援を受けようと考えている。人材や武装を借りる気だ。その代わりアンノウン・プラネットで得たアイテムや情報を分配するつもりなんだろうね。ピーさんの件がどう影響するか。
ましゅまろスマイルのライバル、紅蓮の神翼は年末のアンリミテッドシリーズに焦点を当てている。まだカムイさんを連携に組み込んだ戦術が上手くいかないらしい。あの人に連携をしろと言うのが無理な話だ。でももし、カムイさんがツバサさん・レンさん・クレナイさんと完璧に連携を取ったなら、これほど怖いチームも居ないだろう。僕の居るクレイジー・バレットもアンリミテッドシリーズに向けて頑張らないと。まずは目指せAランクだ。
皆それぞれ動き出している。
インフィニティ・スペースはいま、激動の時代に突入したのだ。そんな中、僕はゲームにログインすることもなく、知らない道を歩いていた。
「この辺、かな」
今日この日、僕は月上さんに呼ばれ、よくわからない高そうなホテルの前に足を運んだ。石油王とかが住んでそうな真っ白なホテルだ。
もうすっかり夕方。客が入っている。どの人も金持ちそう……。
「うっわぁ……場違い過ぎる……」
ホテルの名前は『MoonTopHotel』。きっと月上さんの家が経営しているホテルだろう(名前的に)。
「お待たせ」
月上さんがホテルから出てきた。良かった。月上さんは僕と同じで制服だ。
もし月上さんがドレスで出てきたらどうしようかと思った。
「つ、月上さん。ここでなにをするんですか?」
「こっち」
月上さんは特に説明せず、ホテルに入っていく。僕は怯えながらもついて行く。
月上さんは顔パスでドンドン中へ入っていく。エレベーターを使い、上へ上へと行く。
月上さんはエレベーターから降り、高層階のなにやら高そうな大部屋に入る。その部屋の、更に奥――何も質問せずついて行った結果、辿り着いた場所は屋内プールだった。
「えぇ!?」
壁一面ガラス張りのプール。夕陽の光に照らされたプールは情緒があって……素敵だ。部屋の明かりはブルーライトで、なんだか大人っぽい。
広々とした空間、丸いプール。場に居るのは、僕と月上さんだけ。
泳ぐつもりかな? でも水着じゃないし。
僕が悶々としていると、月上さんはプールサイドにブルーシートを敷いて、プール内の冷蔵庫に入っていたクーラーボックスでブルーシートを押さえる。
「こっち」
ポンポンと、月上さんはブルーシートを叩く。
クーラーボックスを挟んで僕らはブルーシートに座り、ガラスの壁から空を見上げる。
「あ、あの……」
「月見」
「え?」
「あなたと月見がしたかった。代理戦争のお疲れ様会」
月見?
確かにここなら、月が良く見えそうだ。
「つ、月見ですか。いいですね。好きですよ。僕も……月を見るのは」
日が暮れていく。
「あ、あの、月上さん!」
「なに?」
「この度はありがとうございました! 月上さんのおかげで、オケアノスは無事で済みました!」
「感謝する必要は全く無い。あなたを代理戦争に巻き込んだのは私なのだから、私も何かしなくちゃ割に合わない」
月上さんはどこか嬉しそうだ。
「それに、あそこに行ったおかげで楽しい戦いもできた」
「え!? えぇ!?」
ぴ、ピーさんとの戦いのことだ。
なんだろう、この気持ち……月上さんが楽しいことは良いことなのに、なんか、複雑だ。
「ももも、もしかして……」
「なに?」
「あの戦いで、ま……満足、しちゃいました……?」
不安が隠せない。
声が震えてしまう。
もし、アレで満足してしまったなら、僕は……、
「馬鹿なこと言わないで」
月上さんは小さく笑う。
「楽しかった。けれど、満足はしていない。月で……待っている人が居るから」
外が暗くなり、ブルーライトの光が月上さんを照らす。
月上さんの宝石より綺麗な瞳が、僕を捉える。
(今更だけど、本当に……綺麗な人だ)
僕は照れて顔を逸らしてしまう。
「これ、良かったら食べて」
月上さんはクーラーボックスを開く。
クーラーボックスの中には飲み物と、あと大福があった。兎の形をした大福だ。ど、どれも高そうで、おいしそう!
「ぼ、僕! 甘い物好きなんですよ! い、いただいていいですか!?」
「どうぞ」
僕はアルトカップを手に取り、蓋を開け、中の大福をひとかじり。
大福の中には生クリームとあんこが詰まっていて、痺れる程に美味しかった。つい、僕は大福を口に詰め込んでしまう。
「ほ、ほうひいでふ!」
「……」
月上さんはなぜか無言で、膨らんだ僕の頬をつついてきた。早く飲み込めと言いたいのだろうか。
僕は大福を味わって、お茶で口の中をサッパリさせる。すると、
「月、見えた」
暗くなった夜空に、月が浮かんだ。
欠けた月、三日月だ。
「ごめんなさい。満月じゃなくて」
「僕……三日月好きです。しなった弓のような感じが、狙撃手心をくすぐります」
「へぇ。もしかして、あなたは弓でも狙撃できるの?」
「はい! ……あ、現実じゃやったこと無いですけど」
ゲームの中では弓でも長距離狙撃できる。
「月、綺麗ですね」
僕が言うと、月上さんはジトーっと僕のことを見てきた。
「え!? どど、どうかしました?」
「別に」
月上さんはどこか呆れたような感じだ。
どうしよう。変なこと言ったかな。なにか、巻き返しの一言を言わねば……!
「つ、月よりも、月上さんの方が……綺麗ですけどね!」
言ってから、自分の失言に気付く。
(な、なにを言ってるんだ僕は!!!)
恐る恐る月上さんの顔を見る。
月上さんは大福を頬張り、びよーんと餅皮を伸ばしていた。か、感情が読めないっ!
「すすす、すみません! ぼ、僕なんかが、大それたことを……!」
僕は立ち上がり、1歩、2歩と後ずさる。続く3歩目、僕の足は水に触れた。
「あ」
ここがプールサイドだということを忘れていた。
――冷たいプールに背中から落ちる。
「むごごごご!!」
足はつく。冷静に足をつけて、顔をプールから出す。
「ぷはぁ!」
僕が顏を出すと、月上さんがプールサイドから手を伸ばしてくれた。
夜空を背景に手を伸ばす月上さんは、神々しくさえ思えた。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です……」
僕は月上さんの手を掴む。
「つ、月上さん」
「なに?」
こみ上げてきた言葉を口にする。
「今日も、これまでも、本当に……ありがとうございました!」
頭にこれまでの出来事が蘇る。
梓羽ちゃんにインフィニティ・スペースを貰って、あの世界で月上さんに出会って、僕の中に目標が生まれた。
シーナさん、ニコさん、チャチャさんとチームを組んで、ツバサさんを倒した。G-AGEのクエストも、もう懐かしいや。
オケアノスに行って、イヴさんと仲良くなって、最高の狙撃銃・スタークを譲ってもらって、ラビちゃんと戦って……月上さんを模倣したロボットに負けたこともあったね。その後に、月上さんと一緒に、夏祭りに行った。
それからピラミッドでソルニャーとカムイさんと初めて会って、ロゼッタさんの率いるメーティス軍とも戦った。
千尋ちゃんが転校してきて、3人で遊んだこともあった。そうそう、3人で一緒に、高校のeスポーツ部とも戦ったっけ。
アステリズムを求めて行った場所でピーさんと出会って、代理戦争が始まって……コナちゃん、夜暗さん、ペテルさん、シノハさん。多くの強敵と戦った。あの人達との戦いは、僕を大きく成長させてくれた。
そしてこの僕が、自分でチームを作った。名前は『クレイジー・バレット』。大切な……本当に大切な、僕のチームだ。
僕なんかには過ぎた思い出の数々だ。
でも、そんな素晴らしい思い出の中でも、1つ、一際大きく輝く記憶がある。
僕の『はじまり』は間違いなくあの夏の日の屋上だった。
月上さんと初めて、生身で話した日。
これから先、一生忘れることの無い、かけがえのない思い出――
「どうしたの? 今生の別れみたいに。これからだってずっと一緒に居るでしょ」
いつものクールな顔。
この人は変わらない。
まだ、『愛情』を知らずに生きている。
負けない限り、撃ち抜かれない限り、この人は変わらない。
だから、必ず撃つ。
必ず撃ち抜く。
僕の銃弾で、この人の胸を、心を撃ち抜いてみせる。 心を掴んで見せる。
僕は月上さんに向けて、心からの笑顔を披露する。
「はい!」
これは、僕、古式レイの……ボッチなスナイパーの物語。
そして、そんなボッチな僕が、ある人の孤独を埋めるまでの物語だ。
これにて『スナイパー・イズ・ボッチ』完結です。
いつかなんらかのきっかけで本を出せるようになったら、また再開します。そんな奇跡が起きてくれればですが。
ご愛読、本当にありがとうございました。書いていて本当に楽しいキャラクター達でした。
物語としてはここで完結。ただ、実は打ち切りが決まるまではこの章のラストの話はまた違くてですね。書いてはあるので、出そうと思います。こことは別に、『スナイパー・イズ・ボッチ 蛇足噺』というタイトルで短編として出します。せっかくここで区切りがついているのに、蛇足を繋げたくないのでね。見たい人は見てね、って感じです。1000文字ぐらいで終わり。次の章のボス予定だったキャラクターの話です。完全なる蛇足なので見る人は自己責任。明日の18時に出します。
さらに!
『完結記念! キャラクター人気投票&ベストバウト投票開催!』
スナイパー・イズ・ボッチで好きなキャラクター3人を感想欄で教えてください! レイとシキ、千尋とラビリンスとかは同じキャラクターでカウントします。インフィニティスペースでの名前で書いてくれた方がわかりやすいです。
それとスナイパー・イズ・ボッチで1番好きな戦闘を教えてください!(例:シキvsシーナ等) どっちも今後の創作活動の参考にします。
投票期日は5月末日まで! 6月に投票結果を作者ページで公開します。
票数が少なかったら恥ずかしいので中止します笑
ここまで読んでくれた皆様に多大なる感謝を!
もしよろしければこのタイミングで作品に評価を付けてくださいませ。作品ページ下部の【★★★★★】より評価は付けられます!
それと念のためブックマークを付けることもオススメします。万が一、作品に動きがあったら再開すると思うので、ブックマークを付けておけば本作の進展を見逃すことはありません。
僕は打ち切りのショックが癒えたらまた新作を書くので、その時はまたよろしくお願いします!
また文章で会えることを願って、さようなら!
……いやしかし、今後シキを書かないと思うと寂しいね~( ;∀;)





