第268話 ひみつへいき
オケアノスメインシップ『スピカ・セーラス』は敵サブシップの防衛網を突破し、火緋色金メインシップ『クイーンズ・キャッスル』に迫っていた。
クイーンズ・キャッスルは超長距離射程の主砲でスピカ・セーラスを狙うも、イヴの操舵により悉く躱されてしまう。機動力においてはスピカ・セーラスの方が上であり、クイーンズ・キャッスルを捉えるのは時間の問題だった。
だがメインシップ同士は一定の間合いに入るとどうしても静止する。睨み合いの時間になる。互いに主砲を警戒するゆえだ。
イヴを抱えるスピカ・セーラスとて、接近しすぎると主砲に当たる。敵艦の全景が見えない位置だと回避は難しい。
両艦は中距離で激しく撃ち合う。大量のミサイル・レーザーが飛び交う。
両軍はメインシップより機兵部隊を放出する。機兵部隊は的が小さいため戦艦に搭載された火器で狙うことは難しく、敵艦の武装を削ることに向いている。さらに張り付くことができればフレアフィールドを展開されても内側で暴れることができるため、放置はできない。
戦艦同士の撃ち合いは互角。火器の性能はクイーンズ・キャッスルが上ではあるが、スピカ・セーラスはその機動力と器用な立ち回りで火力差を消している。こうなると、ものを言うのは機兵戦の結果だ。
「ロゼッタ、膠着状態ってやつだぞ。どうする?」
イヴの問いにロゼッタは一言、
「待つ」
ロゼッタは戦局を冷静に見ていた。
「先にカードを切ったら負けだよ。なんとかして相手に先にカードを切らせたい。足が止まっているなら、主砲で焦らしてみるかな」
「敵艦、動きます!」
クイーンズ・キャッスルは戦車が使うようなキャタピラを戦艦底面に出し、キャタピラを回転させ、地上を走り出した。
その速度は凄まじく、スピカ・セーラスの攻撃が空振り始める。
「次から次へと面白い物を出す。イヴ君、この距離を保ったまま張り付けるかい?」
「お安い御用で」
イヴがスピカ・セーラスを動かし、敵艦を追う。付かず離れず、絶妙な位置をキープする。イヴが距離とポジションを保ち続けてくれるおかげで、スピカ・セーラスの攻撃もまた当たるようになった。
「ドンマイ。キャタピラを使ってもウチの操舵手からは逃げられないよ。さてさて、次の手を拝見しようか」
「火緋色金メインシップ! 機兵部隊放出!」
クイーンズ・キャッスルから新たな部隊が出撃する。その部隊の先頭には火緋色金のエースコンビ・アネモネとネモフィラが居た。2人はワイバーンを装備し、空を駆け、オケアノス機兵部隊を襲撃する。
「カードを切ったか」
オケアノスの機兵隊は押されだす。
「機兵部隊、まずいです!」
「更に敵艦よりTW展開! 鉄巨人です!!!」
鉄巨人。それは直径10mの人型TW、巨大人型ロボットである。
機動性、攻撃性に優れるが、的が大きいため戦艦なら簡単に対応できる。だが、クイーンズ・キャッスルは鉄巨人を展開するとすぐさま鉄巨人と二手に別れた。
スピカ・セーラスは鉄巨人に対応したいが、鉄巨人に構っているとクイーンズ・キャッスルを逃してしまう。しかし鉄巨人を無視してクイーンズ・キャッスルを追うと鉄巨人の手により機兵部隊が壊滅する。火緋色金はここに来て勝負手を打ってきた。
「鉄巨人は機兵戦に参戦する動きです!」
「どうするロゼッタ! どっちを追う!?」
「メインシップだ」
ブリッジクルーが漏れなく慌てる中、ロゼッタは笑った。
「……ようやく、腹の内を見せてくれたね」
火緋色金はエースに続き、溜め込んでいたTWも出した。これを処理すれば、丸裸だ。
ロゼッタはまた艦長席を立つ。
「おいおい、お前またかよ」
「これが最善だ。リィース副長、全指揮権を委ねる。吾輩は機兵戦を制してくる」
「わかりました」
「現状維持でいいからね。張り付いて攻撃してフレアフィールドを削ってくれ。それと、秘密兵器を出すから」
リィース副長は敬礼で応える。
(前回の対戦でリィース副長が思っていた以上に柔軟であることがわかったからね。作戦がシンプルな時は任せきっていい)
ロゼッタはリィース副長に艦長席を譲り、自身はワイバーンに乗り出撃する。同時に、スピカ・セーラスからコンテナが投下された。コンテナはパラシュートを使って地上に降りる。地上に降りたコンテナからは大量の人影が飛び出す。人影の大群とは別ルートで、ロゼッタは鉄巨人とスペースガールが集う戦場へ向かう。
「お、やってるやってる」
ロゼッタが単独で現れると、すぐさまアネネモ姉妹が対応した。
「たった1人でこの戦局を変えられると思ってるのかよ!」
「ふふ。無謀、ですね」
火緋色金のスペースガールは30人、鉄巨人は20体いる。一方で、オケアノス側のスペースガールは10人程しか残っていない。
「君達はバンバン兵力を投入するね。もうメインシップには最低限の人員しか残っていないだろう」
「それがどうした?」
「ここさえ押し切れれば、メインシップ内の戦力などどうでもいいことです」
ロゼッタは指を鳴らし、鳴らした指でネモフィラを指さす。
「そのとーり! その通りだよネモフィラ君! 吾輩も君と同じ考え。そう、ここなんだ。ここで勝てればもう勝負は決まる。君達姉妹さえ落とせれば、残るはΩアーツだけだ。Ωアーツ1つぐらいならば、残りの戦力で対応できる。ここがターニングポイントなんだ。だから吾輩はずっと戦力を出し惜しんでいた。わかるかい? ここを取るために、オケアノスはずっと最低限の戦力しか出していなかったんだよ」
ネモフィラは笑う。
「なるほどなるほど。ここに今まで温存していた戦力を投入するわけですね」
「はんっ! 精々100がいいとこだろ。100人程度、鉄巨人10体で十分さ」
「その100人が雑兵ならばね」
「強がりはやめてください。もういいですお姉さま、どうせこの方の目的は時間稼ぎ。とっとと落として差し上げましょう」
「いや、待て……」
アネモネは何かを感じ取り、ロゼッタから距離を取った。
「さすがに勘が良い。勘の良いアネモネ君と、頭の良いネモフィラ君。君達は本当に良いコンビだ」
ロゼッタの周囲に、次々と影が現れる。
白い制服、青い竜を背負った兵士たちが現れる。
彼女達の目に光はない。まるで傀儡のように人間味は無いが、彼女達もれっきとしたオケアノス兵だ。
アネネモ姉妹は現れた集団を見て、目を見開いた。
「嘘だろ……! あの制服……背中に青い竜が描かれたあの制服は、六仙の親衛隊――!」
「仙閥蛟竜!?」
総勢99人の精鋭部隊・仙閥蛟竜。
その強さはまさに竜の如く。
「さすがに火緋色金の幹部は知っているか」
「戦力をセーブしていたのは、この戦いだけでなく……」
「そういうことさ。君達と同様、こちらも最終戦まで隠し玉を持っていたわけだ。ま、出さなかったと言うより、出せなかったと言う方が正しいかもだけど」
ロゼッタは右手に指揮棒を実体化させ、握り締める。
「仙閥蛟竜は六仙にしか扱えないって聞いたけどな!」
「これよりその話はデマとなる」
ロゼッタは悪役のような嫌味な笑みを浮かべる。
「仙閥蛟竜の諸君、覚悟したまえ。吾輩の指揮は六仙ほど易しくはないぞ」





