第269話 紫陽花
仙閥蛟竜。
六仙が選抜し、六仙が育てたオケアノス最強の部隊。
全員が優れた個人技を持つが、彼女達の真髄は連携にある。構成される99人がシキやロゼッタと同様に思考主体のタイプであり、高いレベルの戦術を共有できる。
シキとロゼッタが行ったフルスコアコンビネーション程では無いが、それに追随するレベルで意思のコネクトができる。
(ああ、美しい!)
ロゼッタが指揮棒を振るう度、全員がロゼッタの意思を汲んで一斉に動き出す。
(楽しい!)
彼女達を倒しに来た鉄巨人が次々と包囲され、集中砲火を受ける。1体、また1体と巨人が落ちていく。
「……心地良い連携だ。素晴らしい!」
ロゼッタの持つ指揮棒『コメント・タクト』は振るう度に指定した全員の視界にコメントを飛ばす。
旧来のゲームの中にも十字キー等でNPCや他プレイヤーに設定していた指示・コメントを飛ばす機能はあった。この武装はそれを更に細分化したもの。
指揮棒の持ち方、どの角度に振るか、どれくらいの速度で振るかで細かくコメントを切り替えることができる。コメントを飛ばす相手は脳波で指定できる。使いこなすにはかなりの練習とセンスが必要で、ロゼッタも完全にマスターしたのは最終戦の直前である。
無論、言葉で指示することもできるが、99人を自在に動かすには口1つでは足りない。この武装なら1秒の内に8個のコメントを飛ばすことができる。口で言うより遥かに早い。
「……っ!」
「100人が、完全に繋がっている……!」
アネモネ姉妹も2人の間では最高の連携ができる。できるからこそ、その数を増やすことの難しさを知っている。
完璧な連携は2人までが限界だと思っていた彼女達にとって、100人が連動して動く様は強い衝撃だった。
「耐えろ!」
アネモネが味方に指示を飛ばす。
「そうです! 耐えてください!」
ネモフィラも同様に鼓舞する。
アネネモ姉妹は方針を変える。応戦から忍耐へ。
ロゼッタは眉をひそめた。
「耐えろ、ね。耐えたらどうにかなるってことかな?」
彼女達はなにかを待っている。
その待っているものがなにであるかは、容易に想像できる。
「Ωアーツ……そろそろ切ってくれるかね」
いままでの試合で一切見せなかった文字通り秘密兵器。
火緋色金の人間以外、その内容は知らない。
Ωアーツが来るとわかっていてもロゼッタがやることは変わらない。耐えなくては使えないモノならば、時間を掛けずすり潰すだけ。仙閥蛟竜を使えるいまならそれができる。
アネネモ姉妹以外のスペースガールは全員処理した。
仙閥蛟竜も鉄巨人相手に多少削られはしたが、まだ80人以上は居る。残る鉄巨人はあと8体。押し切れる。
仙閥蛟竜はまた1体、鉄巨人を落とす。それを見たアネネモ姉妹は表情を変えた。
「試合終了まであと15分。5分余りますが、仕方ありませんね」
「ああ。ここで使うしかない……!」
アネモネが、ある物体を実体化させる。
それは……棒だった。機械の棒だ。両端が丸まっている、カプセルのような形の棒だ。大きさは容量11.5Lのペットボトル程。
流石のロゼッタも固まる。あの形状が何を意味するのか想像できない。
(機械のカプセル……? 何かを内蔵しているのかな。爆弾? 強化パーツ? ……ダメだ。まったくわからない)
アネモネとネモフィラは向かい合う。
「お姉さま、準備はよろしいですか?」
艶のある声でネモフィラが問う。アネモネは怯えたような表情で、
「う、うん……あまり、一気に入れるなよ……」
アネモネとネモフィラはジャケットのチャックを全開にし、腹部を露出させる。
晒される素肌。火照る両者の頬。好奇心を刺激され、唾を呑み込むロゼッタ。
「……始めます」
「……ああ」
姉妹が覚悟を決めると、2人のへそ部分にこぶし大の穴が空いた。アネモネとネモフィラは先ほど出した機械の棒を、互いの腹の穴に差し込む。
「んっ……!」
「くぅ……!?」
2人は徐々に徐々に腹の内に棒を埋めていく。棒を穴に押し込む度、アネモネとネモフィラから吐息交じりの声が漏れる。
「はぁ……はぁ……! ちょっ、もっとゆっくりやれって……! ペース、早っ……ねもふぃら……! 入れ方雑だって……!」
「す、すみませんお姉さま……私、まだ慣れてなくてっ……!」
「つっ!? ……ま、待った。ちょっと休っ……!」
「ダメですよお姉さま……時間がありません。それに、こういうのは勢いのままいったほうが……」
まるでポッキーゲームのように、2人は機械の棒を両端から収めていく。へそ部分に空けた穴に呑み込んでいく。
ロゼッタは前のめりになって、2人を観察する。
「こ、こうかな……あ、この角度だと、するする入っていく……」
「ばっ……!? 一気にいくなって!!! きっ、つい……!」
「す、すみません。私、調子に乗って……」
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
「お、お姉さま。大丈夫ですか? 汗、凄い……」
「いい……そのまま来てくれ……はやくっ!」
ロゼッタは動けずにいた。
隙だらけの2人。鉄巨人に守られているとはいえ、妨害は可能。でもできなかった。
ロゼッタを妨害していたのは、ロゼッタという人間の大部分を占める、『未知への好奇心』。
(隙だらけだ。だけど突っ込むことができない。この先を見てみたいという好奇心がトラバサミの如く我が足に噛みつき、一歩も動けない……!)
機械の棒が見えなくなる。
姉妹の腹が棒を全て呑み込んだ。
アネネモ姉妹の汗ばんだ腹部がベッタリと密着し、2人がおでこを合わせた時、2人を眩い光が包み込んだ。
「Ωアーツ」
「ユニゾン」
「「起動」」
アネネモ姉妹はポリゴンになって散った。
本来ならばデリートされた際の反応。だが散らばったポリゴンは消滅することなく、合わさっていく。
「まさか、あなたは……そこまで……!」
ロゼッタはすぐさまユニゾンの性能に勘づいた。
「あり得るのか? あなたの技術は、その領域にまで到達していたというのか――白星博士!!!」
ポリゴンが組み合わさり、新たな個体が誕生する。
濃紫のポニーテール。高いプライドと優雅さを感じる面持ち。中学生ほどの体。
背中には小柄な体に不釣り合いな、巨大なウィング。
白いスカートに、アメカジのパーカー。パーカーの前に付いたジッパーは開き切っており、その隙間からは肌が見える。鎖骨が、谷間が、へそが、ハッキリと見える。胸元には『Ω』のタトゥーが刻まれていた。
現れた少女から、大量の稲妻が放出される。稲妻を受けた大気は弾け、空間が揺れる。
圧倒的な存在感。アネモネとネモフィラの身体的特徴や装備を、ちょうど足したような姿。
ロゼッタはユニゾンの性能を確信する。
「見事だ……!」
ロゼッタはアネモネ・ネモフィラに対して『見事』と言ったのでは無い。このゲームの開発者であり、あのΩアーツの開発者である月上白星に対し、ロゼッタは『見事』と言ったのだ。
仮想の体の融合。
仮想の装備の融合。
そして、最も特筆すべき現象。それは、意識の融合。
「私の名は『紫陽花』。アネモネでも、ネモフィラでも無い。ただ1人の『私』」
もはや、ゲームの領域では無い。
「意識の融合……そんなことが可能だとはね。はは……あはははははははっ!!! さいっこう! さいっっっっこうだよ!! アインシュタインよりもニュートンよりもアルキメデスよりも、あなたはやはり異常で狂気な科学者だ……白星博士!!!」
Ωアーツ・ユニゾン。
効果――合体。





