第267話 早撃(打)ち勝負
僕は正面にΔシールドを展開する。防御を固めることで、布被りアステリズムを無視して僕を攻める、という選択肢を消す。
シノハさんに迫る3基の布アステリズム。
布アステリズムとシノハさんの距離が30mになったところで、3基の内2基の布アステリズムからレーザー弾を発射する。布を貫通し、飛び出たレーザー弾をシノハさんはシールドピースで処理する。
僕は弾を撃っていない布アステリズムを突出させ、シノハさんに突撃させる。
「中身はピースか! それならっ!!」
シノハさんは右拳で突撃してきた布アステリズムを狙う。
アステリズムならば拳で砕けると考えたんだ。甘い。
「炎纏」
拳と衝突する寸前で、布アステリズムは纏っていた小麦粉を焼き尽くし、紅蓮の弾丸と化した。
「炎の玉!?」
アレは緋威を被ったアステリズムだ。色は小麦粉で誤魔化した。
紅蓮の弾丸は僕の脳波で自由に弾道を変えられる。いくら超人的な反射神経を持っていても、ここから避けるのは不可能。
「……くっ、そ!!」
シノハさんは腕を引っ込めようとするけど、間に合わない。
紅蓮の弾丸がシノハさんの右腕を焼き尽くす。
「ちぃっ!!!」
シノハさんは紅蓮の弾丸を追い、電磁シールドを展開した左拳で紅蓮の弾丸を叩き落した。アステリズム1基と緋威が消滅する。
「一気に決める!」
シノハさんにスタークとアステリズムで猛攻を仕掛ける。
「上等……!」
シノハさんはシールドピースでアステリズムの弾を受けつつ、スタークの連射はステップで躱し、包囲射撃の僅かな隙を衝いて弾幕を突破する。
「調子に乗るな!」
シノハさんはギュッと左拳を握りしめ、背中のスラスターから大量のエネルギーを吐き出した。
(しまった、距離感見誤った!)
僕は右足を上げる。シノハさんは超高速で突進してきたが、僕の上げた足裏にシノハさんのお腹が当たった。僕は右足を伸ばし、シノハさんを蹴り飛ばす。蹴られながらも、シノハさんは左拳を出してきた。
シノハさんの左拳が、鼻先数センチを通る。
「あと3.5センチ……!」
(あ、あ、あっぶな~~~~~~~~!!!!)
確実に勝てるとか言っていたクセに、いまホント危なかった。反応が0.01秒遅れていたらやられてた。
でもこれでシノハさんのブースターは20秒のチャージタイムに入った。
油断ダメ。この20秒のチャージタイム中に決めよう。
「こういう技、見たことある?」
シノハさんは左腕を脱力させて下ろし、肘を曲げ、振り子のように右へ左へ揺らす。
シノハさんはダッシュで僕との距離を詰め、左拳を出す。そのジャブは鞭のようにしなり、独特な軌道で僕の顔面を狙ってくる。
あの高速ジャブより速度は無いけど変則的。当たれば当然、あのジャブループが始まり撃墜される。
とは言え、当たることは無い。このジャブはシノハさんの動画で見たことがあるし、狙いは読める。
僕は拳の軌道を見切り、3発のジャブを躱した後、上空に逃げた。
「フリッカージャブ、ってやつですよね」
「知ってたんだ。そういや、私の試合を見たんだっけ――ね!」
シノハさんは僕が上空に居るにもかかわらず、フリッカージャブを放つ。僕はすでに間合いの外に居るのに。
「!?」
シノハさんがフリッカージャブを放つと、左拳の先から電磁の細い弾丸が射出された。僕は弾丸を頬に掠らせ、動きを麻痺させる。
「ジャブが、飛んだ!?」
「フリッカースナイプ。見せるのはこの試合が始めてさ」
麻痺した僕に向かってシノハさんは飛び上がる。
麻痺はすぐに終わる。通常の麻痺打撃より拘束は短い。けど、シノハさんの突進に対する対応が遅れた。このままじゃ悪い体勢で拳の間合いに入ってしまう。
(拾っておいて良かった!)
僕はインナーの胸ポケットに左手を突っ込み、大量のネジを握り締め、シノハさんの目前に投げた。
「――――」
シノハさんは反射的に、左拳でネジを払った。同時に、展開してたアステリズム達の一斉射撃がシノハさんの全身に刺さる。
「くっ!?」
シノハさんの左目がレーザーに焼かれて消失する。全身の耐久値もかなり減った。
シノハさんの動きが緩んだので安心して距離を取る。
(反応が良い人は、反応させてから狩ればいい)
反射神経が敏感な人は特に『目』に来る攻撃に対して自動的に防御しがちだ。梓羽ちゃんもネコジャラシを目の前で振ると即猫パンチで迎撃するからね(そしてネコジャラシは粉砕される)。いまのネジなんて、どうせ受けたところでダメージにならないのに反射的に払ってしまった。敏感さは時にノイズになる。
僕とシノハさんは10mの距離を空けて着地する。
(良い位置だ)
僕の4m後ろにはエレベーターがある。最悪、エレベーターに退避できる。
僕は腰のホルスターにあるG-AGEに右手を掛け、スタークはデータ化した。シノハさんはボクシングの構えを取っている。シノハさんのブースターはすでにチャージを終えている。
距離10m。シノハさんのブースター加速の間合い。そして、僕のG-AGEの間合い。
シノハさんはもうボロボロだ。右腕は無く、左目も無い。ここで僕を逃がすと勝ち目が無くなる。シノハさんにとってはここがラストチャンス。
「勝負だね」
「はい。僕の早撃ちとシノハさんの早打ち、どちらが早いか……」
シノハさんの表情は険しいままだ。
僕はつい、言葉を挟んでしまう。
「余計な感情は要りませんよ」
なにを言っているんだろうか。
余計な感情を抱いてくれている方が、僕はやりやすいのに。
「この早撃(打)ち勝負。僕は、あなたの全力と……やりたい」
シノハさんの顔から力が抜ける。
「はっ! はははっ! 馬鹿だねアンタ。敵に塩送ってどうするんだよ。そうだね……いいよ。やろうか」
迷いが消える。
「真っすぐ行ってぶん殴る」
「ただ素早く……撃つ」
普通に銃を引き抜いて撃ったとして、間に合わない。
ホルスターからG-AGEを抜いて、構えて撃つ時間は無い。
一連の動作の中で、なにか1つを省略しないと勝てない。
「……」
「……」
激しい爆撃の音が鳴り響いている。音が耳に届いている。なのに、『静か』だ。
集中している。僕も、シノハさんも。
脳みそが痺れる。胸の内がヒリつく。
「――――」
「――――」
うん。いつ来ても大丈夫。
神経が、この辺り一帯まで通っている。
それはシノハさんも同じ。シノハさんの神経に、肌が当たっているのがわかる。
互いに互いが、手のひらの上。
これをやりたかった。
「 」
「 」
すぐ近くのビルに、ミサイルが落ちた。その爆発音がゴングとなった。
シノハさんのスラスターが火を吹き、電光の如く加速した。僕は銃をホルスターから抜かず、銃にホルスターを被せたままホルスターをベルトから引きちぎり、銃口を起こす。
(省――略)
銃を持つ手の中指でホルスターを弾き、トリガーまでを露出させ、人差し指をトリガーに掛け、ホルスター越しに撃つ。G-AGEの弾丸はホルスターを突き破り、接近してきたシノハさんの左の膝に直撃し破壊した。射撃の衝撃でホルスターは吹っ飛び、G-AGEは完全に露出する。
(銃を完全に起こす時間は無かった。けどこれで)
片足を失ったことでシノハさんの体幹がブレた。左拳の速度が緩む。
僕はバックステップを踏み、後退。左拳は僕の目の前を空振る。
僕はアステリズムで背後のエレベーターのボタンを押し、エレベーターの扉を開く。それを見たシノハさんは獣のように叫ぶ。
「逃げるのかシキ! こんな……ここまで滾らせておいて、逃げるのかぁ!!!」
僕はシノハさんを無視し、エレベーターの中に入り、アステリズムで閉ボタンを押す。
シノハさんはエレベーターの直前まで迫るが、シノハさんがエレベーターに入るより先に、扉は閉まった。
エレベーターは硬い。
一般的に破壊できないもの。
だからシノハさんはこう思っているはずだ。『シキは地下に逃げた』と。
僕はG-AGEをエレベーターの扉に向ける。
シノハさんもG-AGEの存在は知っているはずだ。でも多分、詳しい情報は無い。フリーパーチが握っていた程の情報は無い。『かなり高威力な実弾銃』程度の認識のはず。
メガレーザーですら破壊できないエレベーターを貫通できるとは毛ほども思っていない。この1撃は読めない。
G-AGEはあらゆる装甲値を無視する。だから、装甲値が硬いだけのものなら貫通することができる。弾丸が通ることはすでに検証済み。シノハさんの位置はレーダーで見えている。
「これで、KOだ」
僕はG-AGEの引き金を引き、弾を発射する。弾丸はエレベーターの扉を貫通する。
扉に空いた穴からゴォオン!!! と、弾丸が鋼鉄を貫く音が響いた。
僕はアステリズムにボタンを押させ、エレベーターの扉を開く。扉の前では額に穴を空けたシノハさんが跪いていた。
その顔は、笑っていた。
「油断――」
シノハさんはギュッと左拳を握る。
「したな!」
シノハさんがスラスター加速し、僕に迫る。スラスターで姿勢を制御し、左拳を出してきた。
ゴオォン!!!
僕は難なく、G-AGEでカウンターを決めた。G-AGEの弾丸がシノハさんの左肩を破壊した。握られた左拳は放たれることなく、エレベーターの床に落ちる。
「この間合いで、なんで完璧に……!」
「飛び出すタイミングが視えたからです」
シノハさんの飛び出し攻撃は速いけど必ず直線。
飛び出すタイミングがわかれば、弾を置いてカウンターを決められる。
「シノハさんはラッシュを繰り出す直前、左拳を握りしめる悪癖があります」
僕の言葉を受け、シノハさんは呆気に取られる。
「それさえ見えれば攻撃のタイミングはわかる。と言っても、カウンターを決められるまでに時間はかかりましたが……」
タイミングがわかっていて、動きも直線的なのに、対応できるまでに時間が掛かった。
カメラ越しに見るのと直で見るのでは体感速度が全然違った。速かった。
両腕を失ったシノハさんは力無く倒れる。
「ピーさんはきっと気づいていましたよ。最初の対戦でラッシュの出だしをカウンターで潰してましたから」
「アンタの言うことが本当なら、なんでクイーンは今まで……!」
味方の明確な弱点、普通に考えれば指摘しないはずが無い。
「それは、シノハさんに期待しているからじゃないでしょうか」
「私に……?」
「ピーさんがシノハさんに厳しく当たるのも、シノハさんになにも教えないのも、シノハさんが『宿敵』となることを望んでいるからだと僕は思います。あ、あくまで僕の勘ですけ……ど。すす、すみません! 偉そうに……なに言ってんだって話ですよねっ!」
恐る恐るシノハさんの顔を見る。
シノハさんは微笑んだ。まるで憑き物が落ちたような表情だった。
「そういうことか。全部……わかった。感謝するよ、シキ」
シノハさんはポリゴンになり、散り去った。
僕は大量の空気を口から吐き出す。
「ふ~~~~~! お、思っていた倍、手強かった~~~~~っ!!!」
どうやら火緋色金は誰も彼もが最終戦まで実力を隠していたみたいだ。シノハさんの動きは動画で見たものより格段に鋭かった。
ロゼッタさんが心配だ。きっとあの姉妹ちゃんは防衛に居る。姉妹ちゃんにも恐らくいままで見せていない手札がある。
「早く救援に向かわないと……」
と、進みかけた足を止める。
「違う違う! まずはこっち!」
空では両軍のサブシップが激しくぶつかり合っている。まずはこの戦場を落ち着かせないとね。
ラビちゃんが居ないからやることが多くて大変だ。
『聞こえるかい? お嬢さん』
声が頭に響く。
「その声は……パロさん!」
『その通り。百戦錬磨のキャプテン=パーロックだ。今回もアスター2を担当する。前回まぁまぁ粘ったことが評価されてね、今回は正式な艦長さ』
第三回戦でアスター2は僕が居なくなったあと徹頭徹尾逃げ回ったらしい。最終的には撃墜されたわけだけど、この逃走劇のおかげで相手の合流を遅らせることができたそうだ。ロゼッタさんが笑い混じりに語っていた。
『この艦隊の指揮はお嬢さんに委ねる。頼むからなんとかしてくれ』
「わ、わかりました」
相変わらず全て任せてくる。やりやすいからいいけども。
早くここを突破して、ロゼッタさん達と合流したい。急いで敵のサブシップ4隻を叩こう。
(お願いしますロゼッタさん、イヴさん。メインシップが落とされることだけは避けてください……!)





