第261話 スパイダーカーニバル
手応えはあった。
読みは的中し、ネモフィラさんの胸の中心に着弾した。けれど、デリートできなかった。
「凄い……」
僕の弾はネモフィラさんに当たる前に、3基のアタックピースを貫いていた。おかげで威力が減衰し、仕留めきれなかった。
ネモフィラさんと僕の間にはアタックピースが散乱している。位置交換の前、アネモネさんが設置したものだ。僕の位置から頭・胸に向かうラインにアタックピースは置かれている。
アネモネさんは位置交換が読まれることも頭に置き、位置を入れ替える直前で急所へのラインにアタックピースを配置したんだ。
素直に――上手い。
アタックピースはシールドピース程では無いけど高い装甲値を持つ。3基も重ねればスタークのレーザー弾の威力の半分は削げる。
アタックピースを防御に使うなんて、僕の想定の中には無かった。
「な――んだコイツ……!?」
そんなファインプレーをしたのにもかかわらず、アネモネさんは動揺していた。
「スナイパーだよな。なんで近接でここまで立ち回れる……!」
「お姉さま、ログを見ていませんね。だからピースに手間取るんですよ。あの方は遠中距離戦において超一流のプレイヤーです。でも、近接においても一流レベルの出力を出せる人です。言ってしまえば、狙撃が特に上手いだけの万能型です」
ば、万能だなんてとんでもない。
近距離で多人数に囲まれたらアッサリ落ちますよ~……。
「ネモ。アレをやるぞ」
アネモネさんの表情が険しいものになる。
「!?」
僕はつい、アステリズムを戻してしまった。
いまの悪寒はなんだ? 僕の小動物的野生本能が全力でビビった。凄まじい気配を感じた。
「ダメです! まだ早い。いま使えば最後までもちません!」
「ちっ」
強力な気配が消えた。
この姉妹ちゃん、まだなにか隠している。それも、かなりヤバい何かを……!
「お姉さま、ここは」
「ああ、わかってる」
僕の正面に居るアネモネさんと、背後に居るネモフィラさんが同時に後退する。
(下がるの? 僕としてはやりやすくなるけど)
2人の分析も終わりかけだ。このまま戦闘を続ければ確実に仕留められる。距離を取ってジックリ構えてくれるのはありがたい。
(いや、なにか意図を感じる)
僕はスラスター出力の低いネモフィラさんに向かって加速する。
アネモネさんはもう遠い。アタッカーがあそこまで離れたらなにもできない。あっち側を警戒する必要は無し。僕は全火力をネモフィラさんに集中させる。
ネモフィラさんは大盾とシールドピースで僕が放った弾丸を綺麗に防御する。
(こ、この子……砲撃のセンスだけじゃなく防御センスも高い)
肩にキャノンを背負っているのは大盾で防御を固めるため。ちゃんと理由がある。
硬い砲撃手なんてどこでも重宝されるだろうね。
「……私達の戦いはここで終わりです」
壁を突き崩したような激しい音が倉庫内に響き渡る。
鉄棚を倒しながらなにかが近づいて来る。エンジン音、それにマップに映らないところを見ると……まさか、TW!?
「時間切れです」
棚を薙ぎ倒して現れたのは、巨大な円盤型の機械。
「ル〇バ!?」
巨大なル〇バだ。
もしアレと同じなら、地を這うことしかできないはず。
「ふふ。お楽しみはここからですよ」
ネモフィラさんが指を鳴らす。すると、円盤型TWの底から細長いアームが8本出てきた。ル〇バもどきは8本のアームで立ち上がる。アームは多関節で、そのアームで立ち上がったル〇バもどきの有様はまるで蜘蛛のよう。アームは10mぐらいの長さはあって、円盤は遥か高みにいってしまった。
僕は1度着地する。着地した僕を、8本脚TWは見下ろす。ネモフィラさんは円盤の上に飛び降りる。
「我が火緋色金特製TW、スパイダーです」
「そのままですね……」
8本のアームで歩く様は蜘蛛とかザリガニを彷彿とさせる。
「あなたにはこの子の相手をしてもらいます。楽しい時間でしたよシキさま。またお会いしましょう」
ネモフィラさんが逃げていく。僕は追いかけようとするが、スパイダーが円盤の側面から大砲を出し、大砲から網のようなレーザー波を吐き出して妨害してきた。範囲が広い。僕は大きく後ろに下がり回避、レーザー網は床に着弾する。レーザー網は床にぶつかると高出力の稲妻を数秒間発生させ、消失した。
「当たるとまずい――ね!?」
今度はアームが襲い掛かってきた。細く長い鉄の腕が僕を突き刺そうと連撃を繰り出してくる。連続突きだ。
「そ、そんなのアリ~!?」
僕は距離を取ろうとするけど、スパイダーはアームを高速で動かし、すぐに距離を詰めてきた。
「機動力もある! そして動きが気持ち悪いっ!」
スパイダーの円盤部分から機銃が生え、無数のレーザー弾を発射してきた。機銃は次々と顔を出し、弾の数も増えていく。更にバレットピースも30基近く展開してきた。
弾幕を避けて飛び上がり、円盤と同じ高度まで行くと、スパイダーは円盤側面の砲からレーザーサーベルを出し、円盤部分を高速回転させて攻撃してきた。僕は空中機動でサーベルを躱し、1度棚の上に足を置く。
「ふぅむ。なるほどなるほど……」
アームによる直接攻撃、機銃による連射、バレットピースによる包囲射撃、回転サーベル。それにあのレーザー網……恐らくは対スペースガールに特化したTW。多数の攻撃手段を持つ。
だけど、防御は薄いね。
「……一気に決めるよ」
僕はアステリズムを全て展開。相手のバレットピースを次々と撃墜していく。
(ピースの動きが単調過ぎる。射撃も下手……そっか。そもそも代理戦争では高い知能を持つAIは搭載できないんだ。だからこんなシンプルな対応しかしてこない)
バレットピースを全て破壊。するとアームを突き出してきたので、前進しながら最小限の動きで回避し、距離を詰める。
(アームの攻撃は見てれば簡単に躱せる)
次に機銃の攻撃だけど、これはΔシールドで反射し、反射したレーザー弾で機銃を破壊していく。あと相手にできるのはあの網を出すこと。案の定、スパイダーはレーザー網を吐き出した。僕はライトウィングで浮き上がり網を回避し、サーベルが届かない位置からスタークで本体を狙う。
「チェックメイト!」
タークの弾丸を3発円盤に撃ち込む。真ん中の方を適当に撃ったけど、1番ど真ん中に撃った弾に手ごたえがあった。スパイダーは中心から爆発し、動きを止める。
「わかりやすいね。攻撃にリソースを割いた分、やっぱり防御はお粗末」
ダメ押しにさらに4発撃ち込み。完全に撃破する。
「この程度なら足止めにはならない」
と思ったら、至る所からガシ……ガシ……と鋭い足音が聞こえてきた。
僕はライトウィングで天井付近まで飛び、辺りを見渡す。
「うっわぁ……」
僕を囲うように、スパイダーが大量発生。
その数は10機以上。
「アレだけの性能をもっていて、量産型なの……!?」
コンパクトにすることができて、スペースガールを逃がさないだけの機動性を持ち、高い攻撃性能も有している。そんなTWを低コストで作れるなんて。それにAI値が制限されているのに、『自律型TW』を成立させてるのも凄い。
これが火緋色金の技術力か。
「だけど、もう弱点の位置は把握した。武装も、搭載されたAIの思考パターンも把握した」
人間相手じゃ無いから緊張も無い。
「たったこれだけ……やっぱり、大した足止めにはならないよ」
素早く全部廃品にして地上に戻ろう。あっちが心配だ。
スパイダーの外観はピク〇ンのオニ〇ンみたいな感じです。





