第262話 『それでも』
シキが地下2階でTWに囲まれている一方で、ラビリンスは地下3階にて7つの指定配電盤の破壊に成功していた。
「うっしっし。あと3つで仕事おーしまいっと」
ラビリンスの居るフロアはシンプルな居住地。ビルが多く、他フロアと比べ天井は高い上、見晴らしもいい。スモールコロニーに似た景観だ。
ラビリンスは次の配電盤を目指す。その途中で、
「ん~?」
巨大な円盤型TWが道路上に居るラビリンスの周囲を囲んだ。その数は8機。
「あらあら。これまためんどそうなのが来たね」
円盤からアームが生え、立ち上がる。
TWスパイダー。シキが戦っていた物と同タイプ。
「なにこれ蜘蛛? 趣味悪いね」
スパイダーから大量の弾がばら撒かれる。ラビリンスは持ち前の回避能力で弾を華麗に躱していく。
「そらよっと」
トリックアームからワイヤーを射出。近くのビルの窓に喰い込ませ、ワイヤーを縮めビルの窓まで飛んでいく。
ラビリンスはその調子でビルの面を駆け上がり、屋上まで行く。スパイダーはレーザー弾でラビリンスの居るビルを攻撃、破壊するが、ラビリンスはすぐさま別のビルの屋上へ飛び移る。
「私、火力無いからさ~。巨大兵器はいちいち相手にしてらんないんだよねぇ~。一旦上に逃げるかな」
ラビリンスはすぐ近くの公園にエレベーターを見つける。地下にあるエレベーターは天井まで昇降路が続いているため発見しやすい。
ラビリンスは屋上から飛び降り、スラスターで勢いを殺し、ノーダメージで着地。そのままエレベーターのボタンを押そうとするが、踏みとどまる。
エレベーターは鋼鉄で出来ている。中が見えない。中に何があるかわからない。
ラビリンスはボタンを押した後、エレベーターから距離を取る。エレベーターの扉が開くと、ボオォン!!! と爆発音が鳴り、エレベーターから黒煙が吐き出された。
「トラップか。怖いことするね」
エレベーターにトラップを仕掛けるのは簡単だ。上の階にエレベーターを呼び、中に爆弾を仕掛けてからB3Fのボタンを押し、扉が閉まる前に外に出ればいい。
(起動キーは扉の開閉だろうね。自分達が使うエレベーターを予め決めておいて、他のエレベーターには工作員が爆弾を仕掛ける。そうやって相手の進軍ルートを絞っていくわけだ)
爆発音を聞きつけ、スパイダーが集まってくる。
(ん~。上の階へ行っても、エレベーター前で待ち伏せとかされてたら面倒だね~。狭いエレベーターの中じゃこの回避の天才ラビちゃんもできることが限られている。あまりエレベーターの中で戦いたくは無い。明らかに敵さんの手垢が付いているこのエレベーターは使いたくないね)
スパイダーがラビリンスの背後のビルを突き破り、ラビリンスの後ろを取る。
スパイダーはアームを使い、ラビリンスを狙う。
「もう~! 鬱陶しいなぁ!」
アームがラビリンスに向かって伸びる。ラビリンスはアームを回避し、アームを足場に駆け上がる。
まさに韋駄天。アームを引っ込める間を与えない。
「鬱陶しいから~~~~!」
ラビリンスはそのままスパイダーの上を取り、逆手に持ったダガーで円盤を斬り刻む。
瞬撃。一瞬の内に7本の斬撃を円盤に刻んだ。
ラビリンスは斬り抜けた勢いで空に飛び出す。
「お命頂戴しちゃうよん♪」
スパイダーは機能を停止させた。すると、スパイダーの円盤が内側から破られた。
円盤の中から人影が飛び出す。
「っ!?」
弾丸の如き速度で距離を詰められた。
突如ラビリンスの目の前に現れたのは、拳に機械を嵌め込んだ黒髪の女性だ。
「シノハ……!」
雷速のボクサー・シノハが、ラビリンスをジャブの射程に収めた。特殊外套を纏った彼女は、眉間に皺をよせ、拳を握る。
スパイダーは囮。シノハはずっとスパイダーの中に隠れ、ラビリンスが確殺の距離に来るのを待っていた。
「……この手は読めなかったでしょ?」
チャージ式ブースターによる一瞬の間合い詰め。あのラビリンスでも逃げることはできない。
TWからの飛び出しは完全に予想外、虚を衝かれた上での超加速。幾重に重なった悪条件。最悪の展開――
(集中集中集中集中――! 1撃避けられれば活路はある!!)
稲妻の如き左拳が飛んでくる。空中、スラスターも残り僅か、絶賛動揺中。にもかかわらず、ラビリンスはジャブを躱した。胸に向けられたジャブを体を捻って躱した。流石のシノハも目を見開く。だが、
「ショット」
ズガン! と、背中に衝撃が走った。
80m先に居るスパイダーからのレーザー弾をスラスターに受けてしまった。スラスターが故障し、スラスターが使用不能になる。ワイヤーを伸ばす暇は無い。空中を移動する術を失ってしまった。
(回避後の隙を衝かれた……!)
次のシノハのジャブは躱せなかった。左拳が腹部に突き刺さる。
1撃当たれば痺れ、痺れている内に次のジャブが繰り出され、当たり、痺れ、打たれ、痺れるを無限にループする。
ガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!! と、ジャブが連続で腹部に突き刺さる。落下しながらも、シノハはスラスターを巧みに使ってジャブを当て続ける。
連撃を浴びて、ラビリンスの胴体は破壊された。腹から真っ二つにされる。さらにシノハは念入りに右のストレートでラビリンスの胸部を、心臓部を破壊する。
「~~~~~~っっ!!!」
悔しさで顔が歪む。
試合はまだ中盤にも入っていない。自分がやるべきことはまだまだ多くある。なのに、こうもあっさり――
「残念だったねアネモネ、ネモフィラ……コイツには、アンタ達が相手する程の価値、無いよ」
シノハは屈辱的な言葉を吐いた後、右拳でラビリンスの顔を3度殴り、打ち抜く。
スラスターが故障し、胸を打ち抜かれた時点でラビリンスにできることは無かった。シノハはただ距離を取れば、ラビリンスは勝手に落ちていた。顔面を打ち抜いたことに意味は無い。
ただの、死体打ちである。
負けの少ない人生では無かった。けれど、ここまで屈辱的な敗北は、ここまで後味の悪い敗北は無かった。
囮、不意打ち、多対一。ルールの内ではあるが、ここまで悪条件を突きつけられての敗北。普通の人間ならば『仕方ない』と流せる敗北である。しかしラビリンス――百桜千尋の胸の内は煮えたぎっていた。
古式レイと並んで歩きたいのならば、『それでも』勝たねばならない勝負だった。
ラビリンスは地下の空中で散り去った。





