第258話 オケアノスvs火緋色金開幕
聞きたいことも聞けたので、僕はサウナ室を出た。
最後、ロゼッタさんは僕にこう言った。
『他人に畏怖を抱いたのはこれで3度目かな。吾輩も君はすでに完成された素材だと思っていた。成長の余地はさほど無いと思っていた。だが、それは誤りだったわけだ。これ程嬉しい誤算は無いよ。君とチームを組んで良かった。君が完成していく様を特等席で観察できる。人の脳を研究する身として、君の成長を間近で見られることはとてつもなく大きい。いいよシキ君……クレイジーに暴れまくれ』
ただ成長しているってだけの話なのに、ロゼッタさんは大げさだ。
タオルからいつもの服に着替えて、エレベーターでメインシップの艦上へ出る。
このスピカ・セーラスは会場の上を飛んでいる。僕はスピカ・セーラスの上に大の字で寝転がって、空――宇宙を見上げる。
透明な膜の先に見える宇宙は星々に照らされていて、綺麗だった。
「下が騒がしくなってきた」
そろそろ試合か。僕はリストバンドを確認する。
今回はスピカ・セーラスからスタート。序盤は艦上から相手のスペースガールを狙撃する。シノハさんの姿を確認できたら倒しに行く。それだけ。後は自由。
「あー、いたいた。こんなとこでなーにしてんの?」
僕は体を起こし、後ろを見る。
そこには逆立ちのラビちゃんが居た。
「な、なんで逆立ち……?」
「普通に歩くのに飽きてたからだよっと!」
ラビちゃんはジャンプして頭と足の位置を入れ替える。
「どう? シノハちゃんに勝てそう?」
「さっきロゼッタさんにも同じこと聞かれたよ。大丈夫。なんとかなると思う」
「一応私もシノハちゃんの動画見たけどさ~、ジャブだけ警戒してもダメだよ。あの反射神経もエグいエグい。正面からじゃどんな攻撃も回避しそうだ」
このゲームの中では反射神経・動体視力・身体能力全て大幅に上昇している。だから上級者レベルになると正面からの射撃ならば躱せてしまう。
シノハさんは上の上、トップレベルの反応の持ち主。ラビちゃんの言う通り、正面からじゃ如何なる射撃にも反応するだろうね。
だけど、
「それも含めて大丈夫。僕、あの人より反応が良い子を知っているし……倒し方も心得ている」
「ほ~、頼もしいね」
「ラビちゃんこそ、あの姉妹ちゃんを倒せる?」
「うーん、どうだろうね。昔のアネモネちゃんは良くて中の上ってレベルだったけど、ログを見るにかなり上達している。前は居なかった妹のネモフィラちゃんの存在もあるし、一筋縄じゃいかない。それになーんか隠し玉を持ってそうなんだよね……」
あの自信家のラビちゃんが『勝てる』と断言しないなんて珍しい。
それだけの強敵なんだ。
「なんとかするけどさ。シキちゃんには任せられないし」
「う、うん。2人ともかなり接近してくるし、常に2人行動だからね……あまり戦いたくない。緊張するから」
「でも前回は1対2でも勝てたじゃない」
「アレは色々と特殊で……相手の片方が慣れた相手、ニコさんだったっていうのもあるし、ペテルさんもあまりプレッシャーを与えてくるタイプじゃなかったから……」
「あ~、そっかそっか。緊張の度合いは相手にもよるんだっけ」
「姉妹ちゃん、特にアネモネさんは恐ろしい……グイグイ来るタイプは僕、すっごく緊張しちゃうから。お願いラビちゃん、絶対倒して!」
「どこまでいっても陰の性分は変わらないね~」
僕はラビちゃんの左手を、右手で掴む。
「え? どったのシキちゃん……」
「前回の戦いと言えばさ……」
ラビちゃんは体を強張らせて、顔を僅かに紅潮させた。
「ねぇ、ラビちゃん……」
「え? えぇ!? ちょ、シキちゃん……いきなりそんなっ……!」
僕はラビちゃんの耳に口を寄せて、呟く。
「――僕のバニー姿をシーナさんに見せたって、ホント?」
「……」
ラビちゃんは逃げようとするけど、僕はラビちゃんの左腕を脇に挟んで捕まえる。
「さ、さっき、シーナさんから聞いたよっ! ぼぼ、僕の……バニーガール姿の3D映像を被ったって! そそそ、それもすんごく……え、エッチな感じで……!」
「いやいや! シキちゃん! アレはやむを得ずだね! 隙を作るために仕方なくだよ仕方なく! 戦術だよ戦術!」
反省の色なし。
「……知ってるラビちゃん? 仮想空間では痛みは最初からカットされてるけどね、こういう感覚は設定しないとカットされないんだよ?」
僕はとあるアイテムを実体化させる。
それは『くすぐり棒』と呼ばれるアイテム。プラスチックの棒の先に羽毛でできた玉が付いている道具だ。
「ちょ、シキちゃん……まさか、覚えてるの!?」
「……胸の周り、だよね。ラビちゃんの弱いとこ。子供の頃、ダーツで僕が勝った時に教えてくれたよね……!」
「待ってシキちゃん! 試合前にシャレになら――」
僕は服の隙間からくすぐり棒を押し込み、ラビちゃんの胸の周囲をくすぐる。
「にゃははははははは!? ななな、なんでぇ!? なんでこの感触はデフォでカットしてくれてないのゲームマスター様ぁ!!?」
「も、もうあのバニー写真は捨てること! それに、僕に化けるのもやめること! わ、わかったぁ!?」
さすがの僕も怒り心頭だよ!
艦内の出来事だったから、外に映像は流れなかった。けど、もしも映像で流れていたら……仮想の姿だとしても恥ずかしくて死ぬ!
「お、お許しよぉ……! し、しかし……陰キャな子に責められるこのシチュエーションは中々捨てがたい部分もある……この責め慣れてない感じがグッドぉ……!」
(ぜ、全然反省してない……!?)
頬を膨らませて、更にくすぐりを強めようとした時だった。青い稲妻が僕らの全身に走った。
「このタイミング!?」
「危なかった……あと少しでおしっこ漏らすとこだったぁ……!」
全身の感覚が消え、視界が一変する。
僕はスピカ・セーラスの格納庫に転送されていた。
『ステージ名・廃都市3。戦闘開始します』





