第257話 ナデナデ
第五回戦開始1時間前。
最終戦が目前に迫る中、僕はロゼッタさんを探し回っていた。
ロゼッタさんに聞きたいことがあるんだけど……見つからない。
「どこだろう……」
メインシップの通路をひたすら歩く。
オケアノス兵の人にロゼッタさんの居場所を聞く? 無理無理。知り合いじゃない人に話しかけるのは無理!
通話は繋がらないし。どうしようかな。
「おーい、シキ」
喫煙室から誰かが僕を呼んだ。
喫煙室に入ると、イヴさんが1人でタバコを吸っていた。
「なにウロウロしてんだ?」
「い、イヴさん。その……ロゼッタさんを探しているんですけど、見つからなくて……」
「あー、ロゼッタならサウナ室に居るんじゃないか?」
「サウナ室!?」
そんなの戦艦の中にあるの!?
「試合前はいつもあそこに居るぞ。二回戦の時も三回戦の時も、試合の1時間前ぐらいにあそこに入っていくのを見た」
「そうなんですか……場所はどの辺りですか?」
「機関室のあるフロアだ」
戦艦の心臓部。なんでそんなところにサウナ室を……。
「なんでも、サウナを作れる条件の揃った部屋がそこしか無かったそうだ。ロゼッタが言ってた」
じゃあロゼッタさんが作ったんだ。自由だなあの人。
「わ、わかりました。情報ありがとうございます」
「おう」
イヴさんの言葉を信じ、機関室のあるフロアに足を運ぶ。
「この辺……だよね」
メインシップの機関室の近くに木製の扉を見つけた。扉を開くと、ぶわっと煙が飛び出してきた。
温かい空気が体を包む。部屋の中は凄い熱気だ。
「やぁ。なにか用かな?」
ロゼッタさんはバスタオル1枚を巻いて、木造りのベンチに腰かけていた。
「ほ、ほんとに居た……」
タオル1枚のロゼッタさんの体が目に飛び込んでくる。
前にラビちゃんがチラッと言っていたけど、ロゼッタさんスタイル良いなぁ……現実の体に倣っているとしたら凄い。胸は大きくて、それ以外はスラっとしている。ちょっと細めだけど、ナイスバディってやつだ。僕とは大違い。
「し、質問がありまして……でで、でもお取込み中みたいですので、大丈夫です……」
「試合に関することかい?」
「はい……」
「なら話したまえよ。君も入ってさ。ほら、脱衣所は正面の部屋にある」
「え!?」
サウナに入るのはちょっと……。
「仮想空間のお風呂は嫌いかい?」
「そういうわけでは無いんですけど……」
「のぼせることは無く、ただただ温かい空間で精神を研ぎ澄ますことができる。リアルでもサウナは好きだけどさ、バーチャルのサウナも中々良いよ」
「仮想空間でサウナに入ったことはあります。嫌いでは無いです。ただ、タオル1枚になるのが恥ずかしくて……」
ロゼッタさんと違って貧相な体だし……。
「はっはっは! ホント、シャイガールだねぇ。別にいいじゃないか。どうせ仮想の肉体だろう?」
「そうですけど……」
「それとも、吾輩とここで2人きりになるとイケナイ気持ちを抱いちゃうのかなぁ?」
ロゼッタさんは胸元を強調して挑発してくる。
むぅ……確かに良い胸だけど!
「ううぅ、わかりました、わかりましたよ。入ります……」
脱衣所で衣服をデータ化させ、脱衣所にあるバスタオルを体に巻く。
そのままサウナ室へ入る。
「うわぁ、久しぶり……」
体を心地いい温かさが包み込む。この部屋だけは全部木で出来ていて、ヒノキの清々しい自然の香りが精神をリラックスさせる。
ただリアルと違って体がほぐれていく感覚は無い。体の内側にある疲労が溶けだすあの感覚はリアルでしか味わえない。でもリアルと違ってキツさが無いのは嬉しい。のぼせることは無いからね、安心して入れる。肉体的快感は薄いけど、精神的快感は強い。
しかし――
ズドドドドドドッ!!!
ブオォン! ブオォン!
シューーーーーーーーーーーーーー
機関室の近くゆえに、機械が駆動する音が響いている。
戦艦の心臓の音が直で届いてくるよ。さ、さすがのミリオタの僕でも、戦艦が好きな方の僕でも、この音はちょっとなぁ……もっと深く戦艦が好きな人なら、この音も愛せるのだろうか。
「……」
木のベンチの上で天井を仰ぐロゼッタさんの体をまじまじと見る。その後で自分の体を見る。
ロゼッタさんはバスタオルに大きな丘を2つ作っているのに、僕は平原だ。恥ずかしいので、僕はタオルをきつく巻き、無理やり小さな丘を作った後でベンチに座った。
「シ~キくん。君はこっち」
「え? ――うわぁ!?」
僕はロゼッタさんに抱き上げられ、ロゼッタさんの膝の上に乗せられた。
す、凄い。頭が、首の後ろがフカフカだ。ロゼッタさんの胸が、太腿が、腕が、僕を包み込む。に、匂いもなんか……大人の香り。
あれ? どうした僕! なんでドキドキしてるの!?
「あああ、あの、ロゼッタさん、これはいいいい一体……!?」
「前の戦いで言ったろう? 頬っぺたプニプニと頭ナデナデの刑だってさ。これより刑を執行する」
ロゼッタさんは僕の頬っぺたをつまみ、引っ張ったり、潰したりする。頭もくしゃくしゃにされる。
「あわわわわわわわ……!?」
「いやぁ、まさかこんなウブな反応をされるとは思わなかったよ。このまま、試合そっちのけで君を虐め尽くそうかな~」
「な、なに言ってるんですか!」
「冗談だよ。顔真っ赤にしちゃって可愛いね~。どれだけ高いスキルを持っていても、まだまだお子様だね~」
そりゃ、ロゼッタさんに比べたらまだ子供だけど……。
「それで、吾輩に聞きたいことってなにかな?」
「あ」
本題を忘れていた!
「は、はの……って、喋っている時は頬っぺた触らないでください……」
「はいはいっと」
ロゼッタさんは僕から手を放す。
「あの、シノハさんが使っていたあのウィングについて聞きたくて……ロゼッタさんなら知ってるかなぁっと」
調べてもあのウィングの詳細は出てこなかった。
きっと、あまり使われていないウィングなんだ。
「ああ、アレね。アレはチャージ式ブースターだよ。ウィングの一種ではあるけど、ウィングと違って常時スラスターを強化するものでは無い」
「初めて聞きます。調べてもあんまり詳しい情報は出て来なくて……」
「珍しいからね。性能は至ってシンプル。『20秒でチャージ完了し、1度の加速でチャージしたENを全て放出するウィング』だよ」
大方予想していた通りだ。
聞きたかったのはチャージ時間。これを知れたのは大きい。
「20秒チャージした分を1度に放出するため、凄まじい加速力になる。デッドラインは15m。あのウィングは1度の加速でこの距離を瞬く間に詰めてくる」
「小出しにはできるのですか? 5秒溜めて加速とか……」
「できない。必ず20秒溜めなくちゃいけないし、必ず1度の放出でウィングに貯蔵したENを全て使わないとならない」
爆発的加速力を得るためにそれなりのリスクは払っているみたいだ。
(あの加速に意識を乗せられるんだ。やっぱり基礎的なスペックが高い。ウェイブアームもチャージ式ブースターもあの人だから使えるんだ)
「どうしたんだい? さすがのシキ君もシノハ君は厳しいのかな?」
僕は「いえ」と即否定する。
「シノハさんのデータを色々と見ました。強い人です。でも、勝てます」
「お、珍しいね。自信の無い君がそこまで断言するなんて」
「一回戦の時の僕なら負けていたと思います。でも、今なら勝てます」
ロゼッタさんの声色が変わる。
「……それってつまり、君は一回戦の時と比べて強くなっていると?」
僕は「はい」と頷く。
「二回戦目の時、僕、これ以上無いほど絶好調だったんです」
「うん。良い動きをしていたね」
「三回戦目の時は二回戦目の時より絶好調だったんです。それで、今日は三回戦目の時よりも絶好調なんです」
ロゼッタさんは言葉を発しない。僕がわけわからないことを言ったせいだろう。
「おかしいですよね。二回戦目の時にこれ以上無い絶好調だったのに、三回戦目の時はそれよりも、今はさらに三回戦目の時よりも調子が良い……矛盾してるなぁと思って、考えて、それでこの矛盾の答えに気づいたんです」
僕はロゼッタさんの膝を離れ、正面に立つ。
「調子が良かったわけじゃない。僕は回を追う毎に調子を上げていたわけではなく、回を追う毎に成長していたのです。いつもより強い自分を、調子のおかげだと勘違いしていた」
「……なんだって?」
いつもより指が器用に動く。いつもより足が速く動く。それを調子のおかげだと思っていた。
でも違った。ただ僕の技術が上がっただけだった。指の動かし方が、足の動かし方が、前より上手くなっていただけだった。
「代理戦争の前の段階では絶好調時にしか出せなかった力が、今は平常時に出せるようになっている。自分のスキルはもうこれ以上そこまで伸びないと思っていたので、成長していることに気づかなかったみたいです」
「君は……」
ロゼッタさんは苦く笑う。多分、僕の勘違いに対して呆れているのだと思う。自分で言ってても思うよ、変な話だなって。
「初めてロゼッタさんと戦って、∞バーストに目覚めた時、僕は色々なコツを見つけました。射撃のコツ、格闘のコツ、戦術のコツ、回避のコツ……他にもいっぱいのコツを、あの万能感の中で見つけたんです。それで今は、それらのコツを回収している段階なんです。代理戦争はコツを掴む場としてこれ以上無いものでした。どんどん回収が進む……!」
つい、笑ってしまう。
自分の可能性が広がっていく感覚が、僕の頬を緩ませる。
「ロゼッタさん……僕はまだまだ強くなれます」
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