第254話 最終日
来たる9月22日(日曜)。代理戦争最終日だ。
スピカ・セーラスのメインブリーフィングルームにて、最後の作戦会議が行われる。仕切りはロゼッタさん1人。六仙さんの姿は無い。
ロゼッタさんは火緋色金のデータ一覧を大型モニターに映す。
「火緋色金は全てにおいて強い。戦術、兵器、操艦技術及び艦隊能力、個の戦闘力、集団の戦闘力……まるで隙が無い」
ロゼッタさんは両手を上げ肩を竦めた後、腰に手を当てる。
「しかし、それはこちらも同じだ。これまでの戦いをえて、オケアノスの艦隊の練度も機兵の練度も極まっている。ハッキリ言って、今のオケアノスにも隙が無い。加えて、前回とある操舵手殿がアクロバティックに決めてくれたおかげで、軍の士気もとて~も高い」
ブリーフィングルーム内に笑い声が木霊する。隅の方に座っていたイヴさんは照れくさそうに顔を背けた。
ロゼッタさんの言う通りだ。なんだかいい空気。
「怖いのは相手のΩアーツだね。六仙も詳細は知らないらしい。これまでの戦いにおいても火緋色金はΩアーツを温存してきた。間違いなく我々に照準を合わせている」
Ωアーツを使わず全勝してきたのは僕達も同じだけど、僕達は隠していたわけじゃなく『無い』だけだからなぁ……。
やっぱり、オケアノスがΩアーツを持っていないのってかなりのハンデだよ。Ωアーツはどれも凶悪な性能をしている。狐倶里の狐火、KnightNightのブレイヴハート、フリーパーチのフェアリー・セル。どれもこれも戦局を容易に変える能力を持っていた。それと同等の物が火緋色金にも……要注意だ。
「あとはTWか。火緋色金はTWの生産能力に優れているのにもかかわらず、代理戦争ではほとんど使っていない。これもここで投入してくるんだろうね。ΩアーツとTW、この2つが大きな不確定要素だ」
TWすらも温存しているんだ。
これは対策が難しい。
「Ωアーツは見てみないとどうしようもないので割愛する。次にTWだが、前々から火緋色金は大型のTWを好む傾向にある。だから我々のTW構成を火力盛りにして対応する。大型兵器は火力兵器で撃ち払う。残念だが、対機兵に特化したおんぶにだっこロケットは容量の問題で無しだ。悲しむ気持ちもわかるが、受け入れてくれ……」
悲しんでいるのはロゼッタさんぐらいだと思います。
「プレイヤーで警戒すべきは3人……いや、1人と1組と言うべきか。まずはアネネモ姉妹。アタッカーのアネモネとボマーのネモフィラのコンビだ。連携力という一点で言えば彼女達の上は居ないだろう。彼女達を落とすにはこの強固な連携を乱す必要がある。ラビ君」
「あいよ」
ラビちゃんは最前列で返事する。
ちなみに、なぜかラビちゃんは用意された椅子に座らず、バランスボールを椅子代わりにしている。
「君はこの姉妹と相性がいい。今回は戦艦ではなく、この2人を落としてもらうよ」
Red-Lieの弾丸をどちらか片方に当てることができればそれで十分。
見えない敵と戦う人と、見える敵と戦う人。この2人で完璧な連携なんてできっこない。
「2人の絆をズタズタに引き裂いてやれ」
「あいあい。寝取ればいいってことね。お得意さんでござんす」
あの姉妹ちゃんはラビちゃんが担当か。僕としてはありがたい。だってもし僕が姉妹ちゃんと戦うとなったら必然的に1対2……緊張感がかかってしまう。相性が悪い。
「次にシノハ君だ。火緋色金の大エース。みんな知っていると思うけど、彼女はリアルでフェザー級の国内チャンピオン。このゲームの中でもボクシングスキルを駆使してくる」
え!? シノハさんもPPPさんと同じでプロボクサーなの!?
……火緋色金ってボクサーが集まるコロニーなのかな。ていうか、そんな凄いボクサーに僕、『顔面殴り潰す』って言われたの!? せっかく引いてた寒気がまた出てきた……。
「優れた動体視力、素早いステップ……彼女の強い点は多々あるが、中でも恐ろしいのはあの稲妻のようなジャブだ。あのジャブを1度でも喰らうと、そこから連打を喰らって落とされる」
「それについて聞きたかったんだよね~」
ラビちゃんが質問する。
「なんで夜暗は連打中動けなかったの?」
「彼女の使うウェイブアームの能力だ。名は『閃縛』。雷を操る武装だよ」
確かに拳から雷を出していた。
「通常のウェイブアームは手のひらにエネルギーの射出口があるが、閃縛は拳の部分に射出口がある。閃縛は射出口から電磁エネルギーを放出し、この電磁エネルギーを勢いの付いた打撃と共に打ち込むことで相手を0.15秒停止させることができる。シノハ君はその0.15秒の間に再度稲妻の1撃を打ち込むことで永続的な束縛に成功している」
「うへぇ。ジャブって0.15秒で出せるもんなんだ」
「実際、現実にも両拳のラッシュで1秒に7発以上打ち込むボクサーは居る。まぁ彼女の場合は片手でやっているようだが、アレは仮想体だからできることだね。しかし、もちろん仮想体だからって誰でもできる技じゃない。というか彼女以外にできる子はいないんじゃないかな? 天才的なボクシングセンスを持つ人間が、人生捧げてボクシングに打ち込み続けた結果辿り着いた領域だろう」
うん。アレはきっと、月上さんでも真似できないものだと思う。
ツバサさんの絶対音感のように、現実に持つ特殊なスキルをゲーム内でも活かしているタイプだ。
「運営は対応しないんだね。そんなハメ技みたいなの」
「できるのが彼女だけなのだから、対応するのは大げさだと考えているのかもね。それに、結局は拳の間合いまで近づかないといけないんだ。リスクは背負っている。あのコンボを成立させるために拡張パーツの枠やステータスも費やしているみたいだしね」
このレーザーが飛び交うゲーム内で拳の間合いまで近づくなんて大変だもんね。
戦闘を見る限りシノハさんのウェイブアームはカムイさんが持っているウェイブアームのようにエネルギー弾は飛ばせない感じだった。完全なる超インファイター。勇気のいる選択だ。
「ちなみにガードナーのように装甲が厚い相手には麻痺の効果時間が短くなり、コンボが途切れてしまうらしい。でも、ガードナーは基本的にスラスターにステポを振らないからね。コンボが途切れても、その後のシノハ君の追撃を躱すのは至難の業だ」
コンボの最中で痺れが途切れたとしても、その後の立ち合いは圧倒的にシノハさん有利の状況で始まる。微かな時間とはいえ、シノハさんの方が早く動けるからね。
しかも相手はチャンピオンになっているボクサー。拳の間合いにおける読み合いは正しくプロレベル。痺れが早く解けても最悪な展開になることは確実。
「閃縛は麻痺攻撃の他に拳から電磁のシールドを展開する能力も持っている。だけど、防御範囲は拳の周りだけ。防御力は高いが長く展開することはできない。銃は持っておらず、ピースは特に特徴のないシールドピースを採用している。彼女についてはこれぐらいだね。対策は単純。ひたすら距離を取って遠距離攻撃! 近づかないことが大切」
拳の間合いでは凶悪。
逆に言えば、拳の間合いにさえ入らなければ怖く無い。
「彼女の処理は我が軍が誇る秘密兵器に任せよう」
秘密兵器? と僕が首を傾げると、ロゼッタさんは僕をチラッと見て、ニコっと笑った。
あ、僕がやれってことですね。了解です。
な、なんか他の人も僕のことをチラチラ見てくる……み、皆さん、もしかしてシノハさんの相手をするのが僕だって気づいてらっしゃいます?
(ラビちゃんがアネネモ姉妹を、僕がシノハさんを倒すと……)
近接武装しか持っていないなら、遠距離型の僕が有利か。
しかしシノハさんかぁ……戦いたい相手ではあるけど、怖いなぁ……。
「すみません! 作戦会議中失礼します!」
ブリーフィングルームにオケアノス軍の人が入ってきた。
入ってきた人はブリーフィングルームの後ろから声を張る。
「表に火緋色金のシノハ、アネモネ、ネモフィラの3名が来ています! 来客者は『シキとラビを出せ』と言っていますが、どうしますか!」
嫌な予感……!
ちなみに相性の問題でシノハはツバサには絶対勝てない。





