第248話 イヴの戦い③
最後のサブシップ、アスター4は敵メインシップの砲撃により撃墜される。
互いにメインシップ1隻。
残り時間は7分。
「……1つの操作ミスが命取りだな」
操縦桿3種、ペダル8種、小型レバー18種、ボタン92種、その他デバイス35種、合計156種。これが操舵手に与えられたコントロールデバイスの総数。これに加えて脳波センサーと電磁キーボードで細かい修正を行う。
大多数の操舵手は与えられたデバイスの6分の1程しか使っていない。アシスト機能に操艦を補助させればそれだけのデバイス操作で事足りる。
だがイヴは全てのデバイスを操作する。アシスト機能は最小限にし、手が足りない分は脳波でカバーする。
イヴは全ての操舵デバイスを同時に駆使することができるインフィニティ・スペース唯一の存在。ただし、それができるのは全力の時に限る。イヴも普段は操艦の4分の1をアシストに頼っていた。全てのコントロールを自分1人で管理する場合、脳の疲労が半端ではないからだ。最初から全力を出していたら、試合の中盤で脳疲労により退場していただろう。
だがもう終盤。たったの数分。ならば、全開で頭を回しても最後まで耐えられる。
「こっちの上とあっちの下を同じラインに入れることができれば、主砲をターゲットに当てられるな?」
「はい。できますか?」
「さぁな。やってみないとわからん。まずはケツ見せているこの状況をどうにかしないとな」
現在スピカ・セーラスは逃走し、敵メインシップに背中を見せていた。
相手は不死身艦。正面から睨み合うのは危険すぎる。だが主砲を当てるためには敵艦を前に置かないとならない。
「正面! 障害物です!」
オペレーターの1人が叫ぶ。
正面には2個の巨大な岩塊。迂回すれば相手との距離が詰まってしまう。
「そら!」
イヴは正面の巨大な岩塊と岩塊の間に突っ込む。
2個の岩塊の隙間は戦艦の横幅よりやや狭い。このまま進めばぶつかる。オペレーターの1人はぶつかると確信し、目を瞑った。
「ほいっと!」
しかしイヴは戦艦を傾け、戦艦の横の出っ張りを縦向きにさせ横幅を減らし、ほとんど速度を緩めずに岩塊の間を通り抜けた。
「凄い……」
リィース副長が感嘆の声を漏らすのも無理は無い。
ブリッジクルーを多く経験した者ほどイヴの技量の高さがわかる。いつもは象の如く重い動きの戦艦が、鹿の如き軽快さで動いているのだ。操舵手1人でここまで変わるものかと、リィース副長は苦笑いする。
しかし相手は不死身艦。超絶技巧をもってしても振り切れない。敵メインシップは岩塊にぶつかりながら無理やり隙間を突破。削り取られた装甲はすぐに復活する。
多少のダメージは構わず、目の前に障害物があろうが全速力で突っ切ってくる。イヴが上手く障害物を躱しても距離を詰められてしまう。
「このまま逃げていても、障害物を前にする度に距離を詰められますよ!」
リィース副長の忠言。
イヴは口に咥えていた2本のタバコの内、1本を右手で握り潰す。『大人しく見ていろ』という意思表示だ。
「それは障害物によるだろ」
スピカ・セーラスの前に、とある巨大な障害物が現れる。
「まさか――」
それは、スモールコロニー。先ほどシキがコロニーキャノンを放ったコロニーである。
「コロニー!? そうか、これなら……!」
「さすがの不死身艦でもコロニーを体当たりで壊せるものかよ!」
イヴはスピカ・セーラスを操作し、コロニーの天面すれすれを飛ぶ。一方、スピカ・セーラスを追う敵メインシップは天面からかなり離れた場所を飛ぶ。さらに敵メインシップはコロニーを避けるために大幅な減速をしてしまった。
イヴとフリーパーチ操舵手の技量差が、そのままコロニーとの距離に現れている。イヴが天面のすぐ近くを飛ぶ中、相手は遥かに遠くを飛ぶ。現在敵艦はスピカ・セーラスよりかなり後ろで、スピカ・セーラスより『上』を飛んでいる。
(よし、理想的な位置関係。後は艦を反転できれば……)
戦艦の向きを真逆に向けることは難しい。右や左に曲がってUターンすれば軸がズレる。かといって一旦停止し、旋回させるのもナンセンス。
ならばどうするか。クルー全員が疑問に思った時だった。
「バク宙するぞ!!!」
「「「「「――――え……?」」」」」
イヴはバク宙と言ったが、イヴがやろうとしていることを厳密に説明するならば、
①速度を緩めず、縦方向にUターン。
②そのままスモールコロニー対して背面飛行。
③自艦上部(主砲)と敵艦下部 (ターゲット)のラインを合わせる。
④主砲発射。
である。
「「「「「ええええええええええええええぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!????」」」」」
ハッキリ言って、無茶苦茶である。
「「「「「やめろおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」」」」」
当然、優等生集団であるオケアノス兵は止める。だが喫煙不良ロリは止まらない。
「いくぞ! 主砲発射のタイミング、間違えるなよ!」
天地が入れ替わる。
スピカ・セーラスの先端が持ち上がり、弧を描き、縦にUターンする。そのままコロニーに背面を向け飛行する。相手から見たらひっくり返っている状態だ。
誤算だったのは、弧の大きさ。
(飛び過ぎだ……!)
本来ならば敵艦と同じラインになるはずだったのに、スピカ・セーラスは敵艦より上を取ってしまった。
「このまま降下したらフリーパーチのメインシップとぶつかります!」
「こ、降下ってどっち!? 上下わかんないっ!」
「コロニーに近づく方!!」
「イヴさん! ここは直進して、1度すれ違いましょう!」
「いやダメだ! これ以上モタモタしていたらフレアフィールドが復活する! このタイミングで決めるしか無い!」
イヴの取った選択肢は、
「敵のメインシップに突っ込むぞ! 主砲の角度を変えるなよ! ぶつかる前に真っすぐ飛ばして当たる位置に入れてやる! 主砲発射までフレアフィールドも展開するな!!」
イヴの指示に驚いている時間は無い。クルー達はイヴの指示に反射的に従い、行動する。
(焦るな。丁寧に、1つずつ条件をクリアしていけ。全ての指先に思考と反射を灯せ……!)
イヴは僅かな時間で戦艦の角度・位置を調整。主砲の直線上にターゲットを置く。
(主砲角度良し。ターゲット直線。条件、オールクリア……)
イヴはにやりと笑った後、右手で銃を作り、頭上に向けた。
「寸分狂いなし」
主砲が敵メインシップに突き刺さるギリギリで、主砲担当のクルーが発射ボタンを押し込む。
主砲発射。メガレーザーは真っすぐ伸びていき、敵艦のENタンクの1つとΩアーツ所有者を呑み込み敵艦を貫通した。これで敵艦の修復能力は消滅した。
だが、戦いはまだ終わりじゃない。
――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォン!!!
凄まじい轟音と共に、互いのメインシップは大きく揺れる。
メインシップ同士、巨大な質量同士の衝突だ。主砲発射がギリギリだったために、スピカ・セーラスはフレアフィールドを展開することができなかった。
互いに衝突の衝撃で大破していく。両軍のブリッジは瞬く間に吹き飛んだ。しかし撃墜判定はブリッジの有無で行われるのではなく、あくまで損傷率の高さによって行われる。
敵艦の修復能力は消えている。だが敵艦は主砲の直撃を受けるまでフェアリー・セルによって損傷率0%だった。主砲に貫かれたが、動力部は無事だ。心臓部分は生きている。
スピカ・セーラスはこれまでの戦いでダメージを蓄積させている。だが敵メインシップと違い主砲の直撃は1度も受けていない。
損傷率の上昇はどちらも凄まじく、先にデッドライン、損傷率75%を超えたのは――





