第247話 イヴの戦い②
当然、脱落したプレイヤーと試合中のプレイヤーは通信できない。
シキ、ロゼッタ、ラビリンス。3人の助言を得ることはできない。
いま、この戦場に居る人間でこの窮地を突破するしかない。
「仕方ありません。こうなったらダメもとで主砲を撃ってみるしか……」
「やめた方がいい」
副長の指示をイヴが止める。
「その博打を外したら終わりだぞ。次の主砲装填までにあちらさんのフレアフィールドは復活するだろうからな」
「なら、どうすれば……」
イヴは頭を悩ませる。
「もう1度、手数重視の攻撃をしてみてくれないか?」
「なぜです?」
「さっきの一斉射撃の時、何か違和感があったんだ。もう1度やって、敵艦が修復する様を撮影してほしい」
クルー達は難色を示す。だが、副長は頷いた。
「……いざという時はあなた方の意見を聞けと、六仙様より指示を受けています。いいでしょう。その我儘を聞きましょう」
「助かるよ」
「ですが、これっきりですよ」
「了解だ」
スピカ・セーラスとアスター4は再び手数重視の一斉射撃を行う。フリーパーチサイドはまさかオケアノスサイドがまた同じ行動を繰り返すとは思わず、反応が遅れる。
戦艦が1隻減ったことで先ほどの一斉射撃より手数は減るも、相手の虚をついたことで全身に攻撃を命中させることができた。
「よし! 16点(180度)回頭! 距離を取るぞ!」
スピカ・セーラスとアスター4は敵艦に背を向け逃走する。
ブリッジクルー達は敵メインシップの様子を良く観察する。
イヴが集中して確認していたのは、復活する箇所の順番。『修理の優先順位』。
「これだ。副長さん! 相手の『核』の位置、割り出せるかもしれない」
イヴは電磁モニターをブリッジ中央に展開する。
モニターに録画した敵艦(被弾後)の様子が映る。
敵艦は戦艦中央下部→中央部→中央上部→戦艦前方→戦艦後方の順で修復していく。
「これを見ろ。敵メインシップは艦の中央下部から修復している。戦艦の『腹』の位置だな」
「それが何か?」
「アンタが不死身艦に乗っていたとして、全身にダメージを受けたらどこから直す?」
「それは……」
リィース副長はそこでイヴの言いたいことを理解した。
「急所! 急所に近いところから直します!」
「そうだ。急所、つまりはΩアーツ所有者の近くから直す。他を修復している内に攻撃を重ねられて、うっかりΩアーツ所有者が落ちたら最悪だからな。所有者と近い場所の方が修復速度も速いだろうし」
「最も素早く修理が行われた所、敵艦の腹に核があると?」
「可能性としては高い。1個前の一斉射撃の時も腹の方から復元されていったはずだ」
クルーの1人が手を上げる。
「はい! 私もお腹から復元されていくのを確認しました!」
イヴの予測が正しい可能性は高い。
だが、相手が敢えてこちらの思考を誘導するために修理の順番を弄った可能性もある。
「……」
副長は考え、1つの策を思いつく。
「音響弾を敵艦の腹に撃ち込みましょう」
「なんだそれ」
イヴは聞いたことの無い兵器の名に首を傾げる。
「杭のような形をした弾です。撃ち込んだ場所を起点に音波を発し、周辺の音響MAPを作ります。我々は音響弾によって作成されたMAPからターゲットの位置を特定し、主砲を撃ち込むというわけです」
「それ、最初から撃ち込んだらよかったじゃん」
「便利な反面、難点も多いのです。まず発する音波の範囲が狭い。戦艦に撃ち込んでも戦艦の内部全てのMAPは作れない。撃ち込んだ場所から20~30mが限界でしょう。更に射程が短い。弾自体が精密機械なので、あまり強い力で射出できないのです。射程は僅か50m程」
「確かに短いな。どうやって撃ち込む気だ?」
「サブシップに特攻させます」
ざわ。とブリッジが騒然とする。
「メインシップでそこまで接近するのは危ない。サブシップ未満の兵器では近づくまでに迎撃されてしまう。なので、サブシップにやらせるしか無い」
メインシップ同士で衝突した場合、間違いなく不死身艦の方が有利。メインシップで近づくのはリスクが高すぎる。だからと言って、サブシップを捨てる選択もまた重い。ブリッジクルーが不満気な顔をするのも仕方がない。
覚悟を決めたリィース副長の瞳を見て、イヴは「任せるよ」と手を振った。
「では、アスター4の艦長に連絡を」
リィース副長が即断したことには理由があった。その理由とは、残りの試合時間にある。
すでに第三階戦開始より51分が経過。残り9分。この残り9分というのが絶妙だった。逃げに徹しても、ギリギリサブシップを不死身艦から守り切れない時間。大事に抱えても、どうせサブシップは落とされると副長は判断した。
引き分けを狙うのならサブシップを抱えて逃走した方が良い。最終的にサブシップを囮にすることでメインシップはほぼ確実に逃げ切れる。だがリィース副長の頭に引き分けの選択肢は無かった。全チームの成績を考えると引き分けは悪くない。ただそれはあくまで数字の話。
逃げに徹して引き分けになれば、チームの雰囲気は微妙なものになる。『逃げて引き分け』という結果はチームの自信に陰りを作ってしまう。しかも軍外部のエース3人が脱落してからの逃走など、オケアノス軍兵士にとって惨めもいいところだ。
そんな状態で1番の強敵である火緋色金に挑むのは危険。ここはなんとしても取りたい場面であった。積極的に攻めた上での敗北ならばまだ受け入れられると、リィース副長は考えた。
「アスター4接近! 音響弾発射! ――命中!!」
「音響MAP出ます!」
アスター4の捨て身の突撃により、敵メインシップ中央下部のMAPとMAP内にある物体の輪郭データが手に入る。イヴはMAPをすぐさま確認し、ある点を拡大して中央の電磁モニターに映し出す。
「ここだ」
イヴが出した画像をクルー達は確認する。
その画像では人の形をした物体が背中を立方体の箱にくっつけていた。人の形をした物体は確実にスペースガールであり、箱はEN貯蔵タンクだろう。
スラスターを介してスペースガールとEN貯蔵タンクを繋げている図。
間違いなく、ここが狙うべき急所。
「よし。この場所にターゲットマーカーを!」
「はい!」
イヴはタバコを2本咥える。
「さぁーって、最後の仕事だ」
ターゲットの場所はわかった。あとはターゲットを有効射程内に収めるだけ。言うは易く行うは難し。なぜならターゲットは敵艦の腹、敵艦の下側だ。スピカ・セーラスの上部先端にある主砲を当てるのはかなり難しい位置だ。しかも現在、相手は背中側にいる。
敵艦の弾幕を掻い潜り、戦艦の向きを16点回頭させ、小回りの利かない主砲の射程に敵艦の腹を収める。普通の操舵手なら『ふざけるな』と言って両手を上げるような無理難題。
必要なのは射手の腕ではなく、位置取りを決める操舵手の腕。
イヴにこの戦いの命運は委ねられた。
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