第246話 イヴの戦い①
スピカ・セーラス、メインブリッジ。
操舵席に座る白髪ポニテの童顔女子は咥えていたタバコを落とした。
「おいおい、マジかよ」
スピカ・セーラス操舵手――イヴのMAPから、シキ、ロゼッタ、ラビリンスのプレイヤーアイコンが消失した。
イヴは落としたタバコを拾い、指に挟む。
「エース組が全滅だと……! これやばくね?」
「落ち着いてください」
現指揮官、副長リィースがなだめる。
「相手もシーナ、ニコ、クレナイ、ガーネット、ペテルの5名が落ちています。となれば、ここからは艦隊戦の力が物を言う」
機兵戦(スペースガールの戦い)では『おんぶにだっこロケット』の活躍によりオケアノスが僅かに優勢。ただし決定打になるほどの戦力差は無い。機兵同士の戦いはこのまま泥仕合になるだろう。
一方、艦隊戦ではオケアノスが圧倒的に有利。操艦技術・戦艦性能共にオケアノス側が大幅に上であり、更にサブシップの数もオケアノスの方が1隻多い。
オケアノスはメインシップ1隻とサブシップ2隻、フリーパーチはメインシップ1隻とサブシップ1隻。このまま順調に進めば負けることは無い。
「艦隊戦で我々が負けることは無いです」
「そ、それもそうだな。悪い、無駄に取り乱した」
「フリーパーチの最後のサブシップを削り切れば、3方向からの多角攻撃でメインシップを落とせます。皆さん、最後の踏ん張りどころです」
リィース副長が指揮し、陣形が動き出す。
リィース副長はスピカ・セーラスで敵メインシップを抑え、アスター3、アスター4で敵サブシップを狙う構え。ただしアスター3はすでに損傷率が凄まじいため、やや下がり気味の位置に置く。
リィース副長の指揮は見事に嵌まり、アスター3とアスター4の一斉射撃で敵サブシップを撃墜することに成功する。
「サブシップ撃墜!」
「よし。一気に決めます。アスター3とアスター4を指定の位置に。スピカ・セーラスは敵メインシップの正面へ」
アスター3が敵メインシップの右へ、アスター4が敵メインシップの左へつく。正面からはスピカ・セーラスだ。敵メインシップを完全に包囲する。
「一斉射撃! 撃てぇ!!!」
前と左右からの包囲攻撃。敵メインシップはフレアフィールドで攻撃を受ける。
「今です! 主砲用意!」
スピカ・セーラスの上部先端より主砲が顔を出す。
「メガレーザー! 撃てぇ!!」
メガレーザー発射。
スピカ・セーラスのメガレーザーは敵メインシップのフレアフィールドと衝突したが弾き飛ばされた。だが同時に、敵メインシップのフレアフィールドが息を潜めた。
「フレアフィールド消失! 敵の守りはシールドピースのみです!」
「シールドピースは手数で突破できます。レーザー砲の方式を収束式から拡散式に変更! クラスターミサイル・連装機関砲用意!」
フレアフィールドを削るための威力重視の武装から、シールドピースを避けるための手数重視の武装へと切り替える。
流れるような指揮。綺麗に、完璧に、相手を崩していく。
「敵艦全面、隈なく狙ってください。――撃てぇ!!」
メインシップ1隻とサブシップ2隻による一斉射撃。
フリーパーチのメインシップはシールドピースをフル稼働させるも弾幕を防ぎ切れず、次々と被弾する。全身に攻撃を受け、全身から煙を出す。
オケアノス兵の誰もが息をついた。安息した。
完璧な勝ちパターン。手応えからして、確実に装甲及び武装のほとんどを破壊した。次に主砲を撃ち込めば終わりだ。後は流れ作業で終わりの――はずだった。
「こいつは……!」
いち早く異変に気付いたのはイヴだった。
武装の破壊には成功した。装甲の破壊にも成功した。問題なのは、破壊したはずの武装・装甲が、次々と復活していることだ。
破壊した場所から大量の光の粒が溢れ、光の粒が被弾箇所を覆い、次の瞬間には修復していた。
「なんだありゃ!?」
「どういうことです……!?」
「戦艦が、復活していく……」
徐々に、徐々に、光の粒がメインシップを直していく。
戦艦中央下部→中央部→中央上部→戦艦前方→戦艦後方と、順々に傷が癒えていく。
「あの粒子は、まさか」
リィース副長は考え込む。
「なにか心当たりがあるのか? 副長さん」
「フリーパーチに不死王と呼ばれるプレイヤーがいます。そのプレイヤーが所有しているΩアーツ『フェアリー・セル』がまったく同じ効果を持っています。光り輝く粒子で破損個所を覆い、修復する」
妖精の細胞、フェアリー・セル。
この最終局面までシーナが隠してきたフリーパーチのΩアーツ。シーナが下す最後の一手。
エース級であってもメインシップの攻略は単独では不可能。そのメインシップを更にΩアーツで補強することで、盤面を決定的にする。
たとえシキであってもフェアリー・セルを搭載した戦艦はどうしようもない。どちらかと言うと、怖いのはラビリンスの方だ。ラビリンスならば修復中に艦内に侵入し、艦内を制圧することが可能。だからシーナは優先的にラビリンスの排除にかかった。
現在オケアノスサイドにはラビリンスどころかシキもロゼッタも居ない。オケアノスにとって、まさに絶望的な一手である。
「プレイヤーだけじゃなく戦艦も直せるのかよ!」
「ええ、問題はそこです。フェアリー・セルはプレイヤーに対してしか使用例が無かったため、我々は勝手に戦艦までは直せないと考えていた。しかし、実際は……」
「戦艦にも使用できたと」
敵メインシップは完全に復活する。
「どうするんだよアレ……不死身艦じゃないか。チートだ」
ブリッジ内に暗い空気が蔓延する。
「いけない! サブシップ2隻を戻してください!」
リィース副長は慌てて指示を出すが、一手遅かった。
不死身艦、ゆえに、多少のダメージは無視し無理ができる。
敵メインシップはアスター3に接近。アスター3は武装を展開し、応戦するが、敵メインシップは無視。攻撃を全て体に受けつつも突撃。体当たりでアスター3を撃墜する。
「アスター3撃墜! アスター4は本艦のラインまで戻りました!」
状況はひっくり返った。
「どうすれば突破できる?」
イヴは冷静に聞く。
「フェアリー・セルを発動しているプレイヤーを葬るしかありません。そのプレイヤーの核さえ破壊すればフェアリー・セルも消滅します」
イヴは新しいタバコに火を点け、椅子の背もたれに全ての体重を乗せる。
呑気な態度を見せるイヴに対しクルーは厳しい目線を向けるが、イヴは体を脱力させながらも全開で頭を回していた。
(落ち着け、よく考えろ。いくらΩアーツの副次効果でENに補正を受けているとはいえ、1機のスペースガールのENでメインシップを直し切れるはずがない。恐らく、ENを大量に貯蔵しているタンクと、フェアリー・セル所有者は連結しているはずだ)
メインシップの修復速度はかなりのものだった。ENに常時余裕が無いとあそこまでの速度は出せない。ここから推測するに、メインシップのENタンクにΩアーツ所有者が直接連結している可能性が高いとイヴは考える。
(少なくとも戦艦外部に所有者がいることはあり得ない。粒子は内側から溢れていた。メインシップのどこかに居るΩアーツ所有者、そいつの位置さえわかれば……主砲で狙って消し炭にできる)
相手はすでにフレアフィールドを使い切っている。主砲は簡単に通せる。しかし、フレアフィールドもいつまでも消失しているわけじゃない。冷却とENの補充が終わればまた復活してしまう。そうなればもう終わりだ。なんとしても、このクールタイムの内に決めるしかない。
イヴは操縦盤の端に、タバコの火を押し付ける。
「あるはずだ。見逃しているだけで、どこかにヒントが……!」
こんな試合、自分にとってはどうでもいいことのはずだった。
頼まれたから乗っただけ。報酬が高いからやっているだけ。そのはずだった。
――『最も局面を動かせる人物をエースと呼ぶなら、第三回戦のエースは僕でもラビちゃんでもロゼッタさんでも無く、最高の操舵手のイヴさんですよ』
試合前のボッチスナイパーの言葉がイヴの心を動かす。
「エースなんてガラじゃないし、オケアノスを勝たせたい気持ちも特に無い。だけど、ここで何もできずに落とされるのはダサすぎる。運送屋のプライドにかけて、勝利を運んでやるよ……シキ」
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