第212話 借り人競争
借り人競争。
それはレース中盤に札を1枚めくり、その札のお題にあった人を見つけ、連れ出し、ゴールまで行く競技。
まさに、地獄のレース。
(はぁ。憂鬱だなぁ……まだ徒競走の方がマシだよ)
お題によっては赤の他人を連れ出す必要がある。僕にそんなことできるはずがない。
種目決めの時に断ればよかったんだけど、僕にそんなことできるはずがない。
体育祭って必要かな? やりたくない人の方が多いって絶対。大半は休憩だから体力づくりにもならないし、こんなのただの運動部の自慢大会だよ。やりたい人だけやる形式にしてほしい。
嫌だなぁ。帰りたい。帰って苺ミルク飲みながらプラモ作りたい……静かな部屋で、ゆったりと。
「ううぅ……お腹痛くなってきたぁ……」
「気合入れなよレイちゃん」
後ろを見ると、千尋ちゃんがいた。
「あれ? 千尋ちゃんも?」
「うん。対抗リレーの予行練習にちょうどいいから立候補したんだ。って、自クラスの布陣ぐらい把握しときなよ」
「ははは……千尋ちゃんが対抗リレーに出るのは知ってたんだけどね」
後ろの列だから僕の次のレースか。
「頑張って優勝狙おうぜ旦那! この私がいる組が優勝できないとか、ありえないからね!」
「……ここでも負けず嫌い出してる……」
なんて喋っていると、僕の番がきた。
(うっわぁ……この緊張感やだぁ……!)
泣きそう。心臓が張り裂けそうだ。
せめて仮想体だったなら、ここまでガチガチにならないのに……。
「位置について、よーい……」
パン! と、空砲と共に走り出す。
『白組速いです! 紅組、頑張ってください!』
紅組は僕だ。
無数の観客。その近くを走る僕達競技者……緊張でカチコチだ。足と手が一緒に出ている……!
「や、やっとここまで来た」
レース中盤。すでにマラソンを走ったかのように疲労困憊。
長机に置かれた札。僕は余っている最後の札を取る。
お題は――
「えぇ!? ど、どうしよ……あ、そうだ。あの人なら……!」
コース周辺に張られたロープの外を見る。
ロープ前に集まっている人だかりの前から2列目に目当ての人を発見。
「居た!」
僕はコースから出て、ある人をコースに引っ張り出す。
「ちょ、なによ一体!?」
「すみませんニ叶さん……来てください!」
「まさか、私が借りられ人!? ――わ、わかったから……引っ張るなって!」
僕は二叶さんと一緒に走る。
けど段々と置いて行かれる。
「おっそぉ! なにやってんのよ!」
「すすす、すみません……人の目が多すぎてぇ……!」
「あーもうっ! 仕方ないわね!」
二叶さんが僕の手を引っ張る。
中学生に手を引かれる高校生。観客の人達にクスクスと笑われてしまっている。
「まったく……! あっちでもこっちでも世話が焼けるわねアンタは……!」
「す、すみませんニ叶さん……」
なんとかゴール。もちろん5着、ビリだ。
「結局ビリだし」
「すみませぇん……」
「で、お題はなんだったの?」
「これです」
お題――『怖い人』。
「あ・ん・た・ねぇ~~~~っっ!!!」
「ひたいっ! ほっへたつままないでくだはい~~~~っ!?」
「こら」
二叶さんの頭にチョップが下される。チョップの使い手は梓羽ちゃんだ。
「人の姉になにしてるか」
「え!? あ、いや、これは……」
二叶さんは僕の腕に自分の腕を絡ませてくる。
「私たち、実は仲良しなのよ! これぐらいのスキンシップいつもしてるわ! ねっ! お姉さん♡」
「ええぇ~!!?」
な、仲良し!?
噛み合わせ悪いにも程があるコンビなのに!?
「……ああ、アンタ、話合わせないよ! 協力したんだから!」
「は、はいぃ……」
僕は笑顔を作り、話を合わせる。
「う、うん……僕達仲良し~」
「えへへ……仲良し~」
しかし……馴れ馴れしいニ叶さんは違和感が凄い……。
「さっき初対面って言ってなかった?」
「それはあれよ。その……初対面だと思っていたら、実は初対面じゃなくて……」
嘘は言ってない。
「……相性悪いでしょ」
さ、さすが梓羽ちゃん。鋭い。
話を変えよう。
「あ、梓羽ちゃん! 帰ったらお姉ちゃんちょっとお説教あるよ!」
「説教? お姉ちゃんが私に??」
ニコさんの話が本当なら、ニコさんが言っていた『ニコさんが貸したゲームを姉に横流しした女の子』は梓羽ちゃんだ。
愛情が込められたプレゼントを他人に流すなんて、人として良くない。ちゃんと言わないと。
「お説教したければどうぞ。ただ、私もカウンターでいっぱいお説教するけどいいよね? 言いたいことは山ほどあるから」
「……勘弁してください」
僕の1発に対してカウンターが100発ぐらい飛んできそうだ。ここは戦略的撤退。
「ん? なんか騒がしいわね」
二叶さんの言葉で僕も周囲が騒がしいことに気づく。
わああああっ!! という大歓声が響いた。
僕達の次のレースで何かあったみたいだ。コースを見ると、千尋ちゃんが誰かと走っている。アレは……ツバサさんだ。
千尋ちゃんがツバサさんを引っ張っている。ツバサさんはサングラスと帽子で変装しているけど、千尋ちゃんとツーショットになり、注目を浴びた結果、正体がバレたみたいだ。
2人がゴールに近づくにつれ、会話が聞こえるようになる。
「き、キミねぇ~! お忍びで来たってわからない!?」
「だってさ、お題が『面白い人』なんだもん。ツバサちゃんと言えば抱腹絶倒の一発芸じゃん♪」
「いつツバサがそんなことしたの! せめて『美人』とか『歌が上手い人』ってお題で連れていきなさいよ!」
何やらワイワイ騒ぎながら走っている。しかも超速い。圧倒的差で1位だ。
映画で共演しただけあって、やっぱり知り合いなんだなぁ。そっか、ツバサさんが見に来たのって千尋ちゃんだったんだ。しかし、あのツバサさんが振り回されるなんて、さすがは千尋ちゃんだ。
「ほら、帰るよニ叶。ここ邪魔になる」
梓羽ちゃんが二叶さんの手を握る。すると、ニ叶さんは梓羽ちゃんから目を背けた。
「わ、わかってるわよ!」
梓羽ちゃんとニ叶さんは外に掃けていく。梓羽ちゃんと一緒の時は可愛いものだねニ叶さん。
借り人競争も終わったし、あと僕が出るのは玉入れだけだ。玉入れはみんなの視線が籠に集中するから怖くないぞ。一気に気が楽になった。
僕は千尋ちゃんに目を向ける。千尋ちゃんはツバサさんと一緒にスマホでツーショットを撮っていた。
(千尋ちゃん。さっきの走りを見るに、調子良さそうだ)
大嫌いな体育祭だけど、今年だけは楽しみが1つだけある。
ラストプログラム。チーム対抗リレー……月上さんが居る白組vs千尋ちゃんが居る紅組。必見だ。
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