41 思惑
「習熟度が高い…」
スイネグ先輩の説明が終わった後も、サヤカはそう呟いてしばらく何かを考えているようだった。
まぁ、今まで周りの人が皆出来るのに、自分だけが出来なかった事の理由が分かったのだ。
それも、自分の技術が未熟だったからではなく、むしろその反対だったのだから、その心中にはきっと複雑な感情が渦巻いてることだろう。
「ちなみに、魔術を教えるって言っても、何から教えれば良いんでしょうか」
ひとまずサヤカは、自分の気持ちに整理が付くまで放って置くとして、私は先輩に、今後の方針について尋ねておく。
「何から…とは?」
「いえ、正直なところ、サヤカの技術が高いせいで、普通の魔法が使えないのなら、先輩がその感覚を教えた方が良いのかなって…」
元々サヤカに魔術を教えるつもりだったとはいえ、それはさっきまでの話だ。
不調の原因が、彼女の技術力の問題だと言うのなら、先輩の方が魔法に関してうん百倍も知識があるのだから、私なんかが魔術の基礎を教えるよりも、先輩が何か魔法を上手く使うコツだとかを教えた方が良さそうだと思ったのだ。
「あぁ、俺もそれは考えてはいたんだがな。だが、さっきの様子を見る限り、俺ではどうも力不足のようだったからな」
「えぇっ!?先輩がですか?」
「っ!…な、なに?」
なのに、そうしない理由が先輩の力不足だなんて言うから、その意外さに私はつい大きな声を出してしまい、考え事に夢中になっていたサヤカがびっくりしている。
「先輩なら、魔力について研究してますし、感覚の部分についても言語化出来たりするのかなぁって、勝手に思ってたんですけど…」
「それをやっても良いんだが、上手く行けば問題無いが、下手すると普通の魔法を覚えられないばかりか、最悪、魔力の操作も今より稚拙になる可能性があるからな」
「あ〜、やっぱり出来るんですね。でもそっか。そういう可能性もあるんですね」
けれど、彼女は驚いてるばかりで、会話にはいる様子は無かったので、私達はそれに構うことなく話を続ける。
「と言うか、先輩が教えられないレベルなのに、私なんかがアドバイスしたら、それこそ変な癖とかついちゃうんじゃないんですか?」
「馬鹿か?そんな事言ってたら、誰がこいつにものを教えられるんだ。それに、魔法と魔術は同じ魔素を扱うものだが、必要な技術が全く違う。最悪でも下手な魔術を使う奴が生まれるだけで済むだろう」
これは…信頼されてるのか、馬鹿にされているのか、判断に迷うところだったので、私は一応確認
「とりあえず、変に先輩が魔法を教えるよりは、私が魔術を教えた方がサヤカの為になるって事ですよね?」
「あぁ、そうだ。まぁ、後はその方が俺の研究に役立つと言う理由もあるがな」
「それが一番の理由だったりしませんか?」
「さあな」
「むぅ」
私への返答に付け足された言葉を聞いて、私はジトッと疑いの目を向けるが、先輩にそう言って躱される。
「まぁそう言う訳で、これからサヤカには私が色々教えていくから、よろしくね?」
「ふぇっ!?な、なに?」
と、先輩との話が一段落ついたところで、私はサヤカに声を掛けて現実の世界に引き戻す。
「えっとね、先輩と相談したんだけど、サヤカには先輩から魔法を教えるよりも、私から魔術を教えた方が良いんじゃないかって」
「そう…なの?」
やはり彼女は、私達の話を聞いてなかったようなので、結論の部分だけを簡単に伝える。
「うん。その方が、サヤカのその技術力を残したまま、新しい事を覚えられるんじゃないかって先輩が」
「魔術は空気中の魔素を扱う技術だからな。上手く行けば、それを応用した魔法を使えるようになるだろう」
いまいち良く分かってないサヤカに、私が受け売りの言葉を伝えれば、それを先輩が補足してくれる。
「応用…難しそう…」
「確かに。私が今のところ出来てないことだし、それは私には教えられなそうだなぁ」
それを聞いて、サヤカは不安そうな表情を見せるけど、私も同じ気持ちだ。
「その辺りは、お前の幼馴染の魔法が参考になるだろう。ふっふ…最近は研究に金がかかるようになっていたと思っていたが…」
そんな私達に、先輩はちょうど良いアドバイスをくれるけど、私はその後に思わず漏らされた呟きを聞き逃さなかった。
先輩にしては、やけにあっさり研究を丸投げしたり、いつもよりも丁寧に教えてくれるとは感じていたけど、どうやら私達の為だけでなく、金銭的な思惑もあったようだ。
私は、そのことを突っ込もうかとも思ったけど、いつになく機嫌が良い先輩の姿を見て、『まったくもう…』ため息を吐くだけにとどめるのだった。




