42 休日の呼び出し
「ごめんね。休みの日なのに」
とある日の休日、私はタイガを連れて研究室に向かっていた。
と言うのも、スイネグ先輩が『アリアス大陸に詳しい奴から話を聞きたい』なんて言うものだから、急遽私の幼馴染であるタイガに来てもらうことにしたのだ。
「全然平気だよ。と言うか、もっと呼んでくれても良いのに。結局この前の街案内以来、誘ってくれないし」
「だって、一貫性が無いじゃない」
この前、レイナやサヤカと一緒街案内をした時もそうだけど、いきなり誘ったというのに、彼が毎度のように気にしてないと言ってくれるのは、素直にありがたかった。
まったく、この学校で再会したときは、偉そうにお互い距離感を大事にしようなんて言ってたくせに、結局平日の放課後は魔術の練習に付き合わせる日も多く、休日もこうして度々自分達の都合で、彼の事を振り回してしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
それでも、毎回文句の1つも言わずに呼び出しに応じてくれるのだから、私は本当に良い幼馴染も持ったものだ。
「アリアス大陸に居た時は、四六時中引き摺り回されてたんだし、別に気にしないんだけどなぁ」
「うっ…悪かったとは思ってるわよ」
「いやいや、気が付いたら1人で森に入って死にかけてたり、良く分からない魔法を発明して体調を崩したり、むしろ一緒に居ない時の方が不安だったよ」
「本当に反省してるわ…」
ただ、改めて過去の行いを幼馴染の口から聞かされると、いかに自分が傍若無人な振る舞いをしていたのかを思い知らされる。
それと同時に、そんな振る舞いを許してくれていた幼馴染には、今更ながら頭が上がらない。
「だからさ、アルトが困った時はもっと前みたいに、いくらでも声を掛けてよ」
「そーゆーのはダメって言ったでしょ」
「アルトに頼られるの、嬉しいんだけどなぁ」
「だからこそよ…」
タイガがそう言ってくれるからって、これからもずっとその優しさに甘え続ける訳にはいかない。
じゃないときっと、私はこのままでは彼に頼り切りになってしまうだろうから。
「私もあなたも、もっと色んな人と関わっていかないとだからね」
なんてもっともらしい事を私は言うけど、実際のところ、私よりもタイガの方がクラスに馴染んでるように見える。
彼の性格ゆえか男女共に好かれてるようで、お昼には何人かのグループで食堂に向かうのもよく見かける。
休日だって本当は、私の呼び出しが無ければ、新しく出来たであろう友人と遊びに行ってるはずだ。
対して私は、流石に2年目ともなれば日常会話をする人も増えてはきたけれども、クラスの中に友人と呼べるような人は、いまだにメリッサ1人しかいない。
今でこそ同じクラスに居るし、同郷のよしみでタイガとはこうして話す機会も多い訳だけど、来年私は、自分がAクラスに残れている自信が無い。
そうなると恐らく、どんなに仲が良かろうとも、クラスの変わった友人と、今までの距離感で付き合い続けるのは難しいというのは、この前の集まりで嫌と言うほど実感させられた。
だから私は、彼の為だからと嘯きながら、少しずつタイガと距離を空けていくことに決めたのだ。
そう決めた矢先に、こうして彼を呼び出す羽目になっているのは、なんとも間抜けな話だけど。
「それにしても、アルトはあの先輩の事を、随分と信頼してるんだね」
スイネグ先輩の研究室まであと少しというところで、タイガから不意にそんな事を言われる。
「えっと、そう見える?」
それが、あまりにも脈絡も無く言われたものだから、私は驚いてそれだけを返す。
「うん。だって、この前の呼び出しも、今回もアルトの用事ってよりは、その人の指示でしょ?」
「まぁ…そうね。一応私も関わってる部分はあるけれど、基本的に先輩の研究のお手伝いで呼んでるわね」
「そっか…」
「ちょっと、何が言いたいの?」
続いて、意図の分からない質問をしてきたくせに、私の答えにタイガは、そう一言だけ漏らして、研究室の扉の前に立つ。
「いや、おれも頑張らなきゃなって」
「はぁ?」
そして、そう言いながら扉をノックするタイガに、私は困惑の声を上げる。
「何よそれ。…頑張らなきゃいけないのは、私の方なのに…」
そんな私の疑問には答えず、先に研究室へ入るタイガの背中に、私はそう小さく愚痴をこぼして、後を追いかけるのだった。




