29 打ち合い
「ふぅ、スッキリした」
私との対戦を終えると、サヤカは大きく息を乱した様子もなくそう言う。
「サヤカ、あんた普段から身体強化使わないようにしてるでしょ」
「分かった?」
「当たり前よ!最後に打ち合ったときと、全然動きが違ったじゃない!!」
昨年度対戦した時も、打ち合いの中で確かに、サヤカの技術力が高いと感じる場面は多くあったけど、彼女がまだ身体強化無しの状態に慣れていないのもあって、わりと力任せで押し切れる時もあったのだ。
だけど今回、彼女の動きは以前よりも緩やかなように見えるのに、私は想像以上に苦戦を強いられた。
しばらく1人で練習している期間があったとはいえ、多少は私も技術を磨き、前よりも攻撃の速度や精度は上がっていたはずなのにだ。
「アルトの動きも、向こうに居たときよりだいぶ良くなってるように思ったけど、聞いてた以上にサヤカは強いんだね」
「魔法ありだともっと強いわよ?」
一応タイガは、私と居る時は前衛をつとめることが多かったので、通常の剣ならそれなりに扱える。
なので、隣で見ているだけでも彼女の強さを理解出来たのだろう。
実際、訓練所で本気の彼女と戦うと、私はまだ身体強化を纏っての動きに慣れていないので、まともに打ち合うことすら出来ない。
反対に道場で戦うと、体格差などもあって、彼女を吹き飛ばさないように、いくらか力を加減して打ち合う事が多かったのだけど、今日は彼女の挑発もあって少しずつ加減を緩めていき、最終的には全力で打ち合ったにも関わらず、彼女は清々しい様子で立っている。
「それじゃ、次…やる?」
一息ついたところで、サヤカはタイガに声を掛ける。
タイガも、最初は私達の打ち合いを見ていたけど、途中から少し離れて素振りをしていたので、準備運動はバッチリだろう。
道場に案内している時は、ここには木刀しか無いから使い方から教えなきゃとか、彼は剣主体で戦ってきたから、最近自分が使っているのが魔法だと自覚したばかりとはいえ、打ち合いの最中力が入りすぎたら、何かしら飛び出てしまうのでは?なんて、私が教えるのには不安な部分があったけど、サヤカが教えてくれるなら心強い。
「うん。お手柔らかにね」
タイガはサヤカにそう返して、彼女の正面に立つ。
2人が構えを取ると、道場の中は一切の物音を出すことを憚られるような静けさに包まれる。
「はっ!」
先に動いたのは、タイガだった。
先程までの私達の攻防を見ていたからか、容赦の無い踏み込みだ。
そこから振り下ろされる全力の一撃を、受けるのは危険だと感じたか、サヤカはそれを流すことも無く、ただ避けることに集中する。
「なるほど…」
「去年の………ンよりも強いかも…?」
今の一連の動きだけで、お互いの力量を把握したのか、どちらもなにかを呟いている。
「……っ!」
「くっ…」
今度は一瞬の隙をついて、サヤカがスッと音を立てずにタイガの足元へ踏み込み、そのまま中腰の姿勢から一気に木刀を斜め上に斬り上げる。
それをタイガはギリギリで躱すが、私はサヤカが身体強化無しに、あそこまで鋭い攻撃をした事に驚く。
そこからお互いに攻撃を仕掛けては避けてを繰り返すが、どうやらサヤカは相手の攻撃に当たらないように集中しているようで、私と対戦した時よりも距離を取り、一撃離脱の攻撃を繰り返すことが多かった。
対してタイガは、相手の受け流しを防ぐためか、力強く、それでいて素早い連撃を繰り出している。
普段使っている武器と違うからか、心なしか動きに迷いがある気もするが、それでも十分打ち合えているだろう。
しばらくして、2人が満足したところで休憩に入る。
どうやら、後は口頭で悪かった点を指摘してくれるそうだ。
「お疲れ様。さすがにタイガの相手は大変だった?」
タイガは私と背丈があまり変わらないとは言え、剣の扱いは私よりも上手だ。
私は彼女を労いながら、そんな事を聞いてみる。
「ん。精神的には。けど、体力的にはレアの方が疲れる」
「あら、意外ね」
「レアは、木刀以外でも色々攻撃してくるから」
確かに、私は剣術は慣れない部分も多いので、彼女との対戦では、体術も織り交ぜて使っていた。
それが身体強化無しの打ち合いでは、体格差の影響もあって、私が思っているよりも、サヤカが私の攻撃をさばくのは大変に感じたのかもしれない。
「それに比べて、タイガは純粋な剣術ばかりだから、逆にやりやすい」
「負けず嫌いだからね」
「…言われてみればそうね」
思い返してみれば、この2人の攻防はまるで本物の剣を使っているみたいに、お互い致命的な一撃を受けないようにしていたような気がする。
一応私も、相手の攻撃を意識しているつもりではあったけど、今日の2人をみてまだまだ足りてない部分があると思い知らされた。
そんなこんなで、休憩中にアドバイスを受けてまた打ち合ってを、繰り返してるうちに時間も過ぎ、道場から寮まで少し距離があるので、暗くなる前に帰ることにする。
「そう言えば2人は、今度の校外学習、もう班は決まったの?」
その帰り道で私は、これまでSクラスの友人が忙しそうにしていた理由を、知ることになるのだった。




