25 そんなばかな
「どういう意味で捉えたのが知らんが、別に悪い意味で言ったんじゃないぞ」
私が、スイネグ先輩のレイナに言ったことを、言葉の通りに思ったのが分かったのだろう。
「あれは元々素養があっただろうからな」
先輩はそう私に訂正する。
「素養…?ですか?」
「そいつと似たようなものだろう」
「おれ?ですか?」
突然自分が指された事に、タイガは驚く。
「あぁ、父親が回復魔法を使うと言っていたからな。あいつが教えた時も、比較的早くに使えるようになったと言っていた」
「なるほど…」
けれど、先輩のその説明に、私とタイガは、これまでの話から納得する。
「と言うか、それなら私じゃなくてレイナを助手にした方が良かったんじゃ無いですか?」
考えてみれば、彼女は去年の時点でスイネグ先輩が助手に求める水準を満たしていたのだ。
それに思い至った時、私はついそんな事を言ってしまう。
「そうだな。俺の方が先に会ってたら、それも考えただろうが、残念ながらサクの奴が入学前から面倒を見ていたからな」
「入学式前から?」
それに対して、先輩からそこまで否定的でない答えが返ってきて、隣でタイガが、レイナとサク先輩の事情を説明されているのを、私は気分が少し落ち込むのを感じながら聞いていた。
「まぁ、使い勝手の良い助手を紹介してもらったから、今となってはどうでもいいんだがな」
自分で質問した事に勝手に落ち込んで、私が自己嫌悪に陥ってる間も、2人の話は続いていたようだが、いつの間にかその音は、私の耳に届かなくなっていた。
「…トレア教えてやれ」
「……」
「…アルト?」
「えっ?」
その事に気が付いたのは、2人から呼び掛けられ、心配そうに私を見るタイガの顔を見た時だ。
「おい、話を聞いてなかったのか?」
「あの…えっと…」
「アルト、気分悪いなら今日は終わりにしようか?」
「ううん、大丈夫よ。ちょっと考え事に夢中になっちゃったみたい」
2人から聞かれた時、まさかぼーっとしていた本当の理由を、言うわけにもいかないので、私はそう誤魔化す。
「それじゃあ、もう一度確認するが、アルトレア、お前は魔術をどの範囲まで使う事が出来る?」
「あ、えっと…それならさっき言った通り、見える範囲で魔素があるならどこでもです…」
幸いにしてその質問は、先程聞かれたのと同じものだったので、2人の話を聞いてなかった状態でも答えることが出来た。
「ふむ…ここまでは、お前自身が見せた事もあり、出来る奴が居ないわけでもないから、特別性は無いわけだが…」
そこで先輩は、言葉を区切るとタイガの方をチラッと見る。
恐らく、私が放心してる間に、彼が実演してみせたのだろう。
「お前はそれをどのくらいの速度で発動…いや、実際にやってもらったほうが早いか。おい、あの辺に火球を発生させてみろ」
「分かりました」
説明はその後でと言うことなのだろう。
私はとりあえず、指示が出た場所へ指を向けると『いきます』と言って、火球を発生させる。
「良いぞ。後はそれを…破裂させろ」
「えっ?でも…」
「やれ」
「分かりました」
そして、追加の指示が出されるけど、私がその内容にためらっていると、有無を言わさぬ口調でそう告げるので、私は仕方無くその指示に従う。
直後パァンと、訓練所の中に小さくない音が響き渡り、その周辺に居た人達にどよめきが広がる。
「さて、俺の言いたいことは分かったか?」
けれど、先輩はそれを気にした風もなく、説明を続ける。
「えっと、アルトの魔法は凄い!」
「魔法ではなく魔術だ。まぁ、今はそこはどうでもいい。俺が言いたいのは、これがアルトレアと他の奴との違いだと言うことだ」
タイガが先輩の質問に答えれば、先輩は無駄な問答を続けるつもりは無いようで、見れば分かるだろう?とでも言いたげだった。
「私としては、先輩の指示通りに魔術を使っただけなんですけど…」
未だに音の原因が分からずに、ざわざわとしている部分をチラチラと見ながら、私がいまいち良く理解出来てない事を伝えれば
「うーん、まぁ、いつものアルトと変わらないよね」
と、タイガも同意の意を示す。
「ふん、お前らにとってはあれが普通か。だが、あれと同じ事を、同じ条件でやれと言われて出来る奴は、俺を含めてこの学園にはほとんど居ないだろうな」
けれど、先輩から告げられた事実に、私達は衝撃を受けるのだった。




