19 向き合う
「あ、あのっ…昨日は、ごめん」
次の日、私はメリッサのアドバイス通りに、なるべく早めにタイガと話そうと、確実に彼に会えるであろう昇降口の近くに立っていた。
しばらく待てば、予想通り彼が登校して来る様子が見えたので、私は彼を生徒達の本流から外れた所へ呼んで、開口一番に謝罪の言葉を伝える。
「えっと?どうしたのかな?アルト」
けれど、それを聞いてタイガは、困惑しているようだった。
「ほら、昨日…ちょっと、タイガの事避けるような事しちゃったから…」
なので私は、そう言って彼に謝罪の理由を説明する。
すると
「あー。まぁ、いつもの事だからね。気にしてないよ」
と、本当に気にしてなさそうな声色でそう言うので、私はついそれを確かめるために顔を上げる。
「あっ、やっとこっち見てくれた!」
「えっ?」
嬉しそうにそう言う彼に、私はふと、あの試験の後から、彼の顔をまともに見れていなかったことに気が付く。
「アルトっていつも、何か失敗すると顔を合わせてくれなくなるから、分かりやすいよね。」
「い、いつもって。そんなこと無いもん!」
考えていた時間は何だったのだろうか。
いざ対面してしまえばなんて事ない、私の恐れていたような、失望に包まれた表情はそこに無く、いつもと同じ、いや、いつもよりも少し心配そうに、私を見つめる幼馴染みの顔がそこにはあった。
「それで、おれを避けてた理由は何だったのか教えてもらえるの?」
どうやら彼は、私がそうしていた理由にまったく心当たりが無いようで、無邪気にそう問い掛ける。
「うーん。ほら、試験の時、私の魔法あんまり良くなかったでしょ?それでがっかりさせちゃったかなって…」
「あー、そう言えばアルトって、新しい魔法とか失敗すると、いつも落ち込んでたよね」
「え?そ、そうだったかな?」
私は、おずおずとそう答えるのだけど、それを聞いてケタケタと笑う様子を見るに、私が落ち込んでたあの出来事は、彼にとってはいつもの事と言えるぐらいには見慣れたものだったらしい。
「それに、アルトの事だから、どうせ次の試験で挽回しちゃうんでしょ?」
「それが今回はちょっと難しいのよね〜」
こうして失敗すらも認められると、昨日はあんなに怖かった無条件の信頼が、私はびっくりするぐらい簡単に、受け入れる事が出来た。
そして、その上で期待に応えるには、まだまだ時間がかかりそうだということを、私は伝える。
「そっか。確か、魔法と魔術だっけ?」
「そうね。ちゃんと覚えてたのね」
それを、何となく理解してくれてたようなので、私はタイガに、以前スイネグ先輩と話した事、魔法と魔術が近いものではあるが、技術としては全く別のものであり、研究に協力する代わりに、それらの技術を先輩から教わる約束をした事を話す。
「なるほど。それは確かに時間がかかりそうだね」
「でしょ?」
「でも、やっぱりアルトはすごいや!」
「な、何がよ?」
話を聞いて、納得した様子のタイガだったけど、直後、興奮してそう返す彼に、私は少しびっくりする。
「だって、ここではアルトの得意な魔術が、全然使えないって事でしょ?それなのに、諦めないで新しい技術を覚えようとするなんて。おれだったらとっくに嫌になって、故郷に帰っちゃってるよ」
「一応、ある程度条件を満たせれば、発動させられるから、全くって訳じゃないんだけどね」
私は、彼の心からの賞賛に照れくさくなり、そんな事を言って誤魔化す。
「それに、私もスイネグ先輩を紹介してもらって無かったら、何にも出来ないって思って、挫けてたかも知れないわ」
確かに今は、アリアス大陸に居た時のような、爆発的な成長は無いのかも知れないけど、入学してから自分1人で練習していた時よりも、レイナや先輩達に会ってからの方が、知識や経験を確実に、自分の力に出来ている実感があった。
そして、それは気持ちの面でもそうだった。
「と言うか、挫けそうになったこと自体は何回もあったからね」
「そうだったの?」
「うん。けれど、この学校に来てから出来た、大切な人達が何度も支えてくれたわ」
『だから、あなたもそんな人が出来ると良いわね』
そうタイガに伝えようとした時だった。
「やぁ、すまないね話し中に。」
と、突然知らない男から声を掛けられるのだった。




