16 おもい
「では、アルトレア。始めてくれ」
先生がそう言うと、少し離れた場所に設置された、大小様々な板が魔力で覆われる。
試験の内容は毎回違うものになるのだけど、今回はどうやら的当てのようだった。
決められた時間内であれば、何回でも好きなように魔法を使って良いみたいだけど、流石にAクラス。
タイガを含むほとんどの人が、初撃でほとんどの板を破壊、または命中させていた。
彼らの様子を見る限り、中に1つ2つ程、特別硬い板もあるみたいだったけど、それがどの板になるかは、ランダムのようだった。
「とりあえず、やれるだけはやってみる…けど!」
私はそう呟くと、まずは幾つもの火球を目の前に生み出し、左手を振り被る事で、それらを的へ向けて発射する。
ゴゥッ ドカドカッ ボウッ
と、命中率は6割7割程だったが、その内の半分以上を破壊する事に成功する。
「やっぱりいまいちね。次はっ!」
攻撃が当たったにもかかわらず、きれいなままの的を見て、魔術の火力不足を悟った私は、さらなる威力を求めて次の手を準備する。
と、ここで私はある違和感に気が付く。
「まさか…」
「残り、30秒」
「くっ…それでも、やれるだけは!はぁっ!!」
時間が無いので、私は本来やろうとしていた事を諦めて、再び火球を先程より数を少なく、威力を重視したものを打ち出す。
「そこまで!」
結果は、新たに的が1つか2つ壊れただけだったが、先生から合図が出た為、私の試験はここで終了だった。
前にスイネグ先輩が『試験の中には、魔術を使う者には不利なものが多い』と言っていたが、その意味を私はこの試験で実感させられた。
「おつかれ、アルト」
そして、落ち込む間もなくタイガから声を掛けられる。
「あっ…タイガ…えっと…」
「うん?」
「あー…いや、何でも無いや。タイガも試験お疲れ様」
「うん。お疲れ様」
『今の見ていた?』とは、聞けなかった。
私の事が大好きな幼馴染の事だ。
聞くまでもなく、初めから最後までしっかり、私が試験を受ける所を見ていただろう。
「アルト。何か調子悪い?」
私は、タイガの前で無様な姿を晒してしまったショックと、彼に失望されてしまうのではないかと言う不安で、いつもよりも口数が少なくなっていた。
「ううん。大丈夫よ」
この時も、そう言って彼に笑いかけるのが精一杯で、心の中は、どうやって言い訳をしようかという思いでいっぱいだった。
「私、何でメリッサがサク先輩達から距離を置いたのか、分かった気がするよ」
あの時、彼の言葉に乗って調子が悪かったふりをすれば、今こんなに悩む必要は無かったかもしれない。
だが、そうした嘘はすぐにばれるだろう。
「どうせ、今日の試験が無くても、遅かれ早かれ気付かれるものだって、覚悟はしていたつもりなんだけど…」
私は、メリッサに語りかけながら、少しずつ滲み出してくるものが、眦から溢れないように、上を向いて目を瞬かせる。
「こんなにも…怖いんだね。期待に応えられないことって」
けれど、これ以上震える声を、抑えることができない私は、静かに目を閉じて、それが頬を伝うのを感じながら、その場に立ち尽くす。
「そう…だな…」
そんな私を、メリッサは一言そう呟いて、慰めるでも無く、ただただ正面から見つめていた。
「メリッサは強いね」
ようやく気持ちを立て直したところで、私は彼女にそう声を掛ける。
「何だよ急に」
そんな私に、彼女はいつも通り面倒くさそうな態度で返事をする。
「私、知らなかったよ。人からの期待がこんなに重いなんて…」
「あー、やっぱあの幼馴染関係なのか?」
「うん。メリッサ、聞いてくれる?」
「ふんっ」
「ふふっ、ありがとう…」
私がそう聞くと、メリッサは鼻を鳴らして、近くの階段に座り込んだので、お礼を言って、私もその隣に腰掛ける。
「何から話せば良いかな」
私は、彼女にどこから話すべきか、何をどう話せば良いのか悩んでいた。
だって、家族やタイガ以外に、こんな風に自分の事を話すなんて、ほとんどしたことがないんだから仕方がないだろう。
「別に、思い付いたことから話せば良いだろ」
「長くなっちゃうかもしれないんだけど…」
「まぁ、今日はこの後どうせ暇だったからな」
そんな私を、メリッサは急かすこと無く、好きなように話せと言ってくれる。
「それじゃあ、相談したいんだけど…
彼女のその態度に、私は心の中で感謝しながら、抱えている悩みを打ち明けていくのだった。




