15 期待
キーン、コーン、カーン
「よーし、それじゃあ今日はここまでだな。お前ら、試験が終わったからってだらけるなよ」
終業のベルが鳴り終わると、担任がそう言って放課後となる。
進級後すぐの試験を終えたことで、クラスはザワザワと騒がしい様子だったけど、私は浮かない気持ちで帰りの支度をしていた。
「おーい、アルトー!一緒に帰ろーぜ!」
3日目にして、早くもクラスに馴染みつつあるタイガは、その喧騒を意に介さずに、大きな声で私の名前を呼ぶ。
けれど、
「あっ、ごめん。今日は友達と行くところがあるから。メリッサ、行こ」
と私は、運良く今日はまだ教室に残っていた彼女へ声を掛けて、そそくさとその場を後にする。
「おい、急に何なんだ?こんな所まで連れて来て。今日何か約束してたか?」
本当は、教室で呼び掛けた時点でそう言いたかったのだろう。
人気が無い場所に着いたと思ったら、メリッサがそう聞いてくる。
「ごめん…ちょっと、あそこを離れるのに利用しただけ…だけど、残っててくれて良かった…」
「はぁ…まぁ、何となく予想はつくけどよ」
それでも、あの場で無駄に騒がずに付いてきてくれたのは、彼女の優しさだろうか。
私がタイガの誘いを断ったのには、勿論理由があるのだけど、その理由に心当たりのあるメリッサは、急かすような事をせずに、私が話すのを待ってくれる。
私は、そんな彼女に感謝しつつも、心を落ち着けるために深く深呼吸をする。
そうして私は、今日の学校での出来事を思い出していた。
「おらー、テスト受けてない奴はさっさと並べー」
お昼を食べて午後一番の授業で、私達は教室を出て実技試験を受ける準備をしていた。
この学校では、グラウンドを整備する都合もあって、午前中にCクラス以下の人達が、午後にBクラス以上の人達が試験を受ける事になっていた。
その中でも、Sクラス、SSクラスともなれば、試験の方法は多岐に渡るそうで、結果私達のクラスが先に試験を受けることになる。
「あれ?アルトは並ばないの?」
今年は、もう意味が無いからなのか、出身大陸毎に分けて試験と言うことも無いので、私は段々短くなる列を眺めながら、少し離れた所で自分の番を待っていたのだけど、そんな私を見付けたタイガから声を掛けられる。
「うん。もう少し後から並ぼうかなって」
「でも、まだ受けてない人のほとんどが並んでるし、このままだと最後になっちゃうんじゃない?」
タイガは面倒くさいことはさっさと終わらそうと言わんばかりに、先頭集団の所へ並び、試験を受けて来たようだった。
「まぁ、別に最後でも良いかな。タイガは終わったなら、別に私の事持たないで他の人と話してても良いのよ?」
「ううん。おれ、久し振りにアルトの魔法見たいからいいよ!」
試験が終われば、一応自由時間となるので、試験を受ける人の邪魔にならない所で、お喋りして居る人の姿もちらほらと見受けられるようだったけど、タイガはどうやらそれに混ざるつもりは無いようだった。
「そんなに期待しても、今の私は大した事無いわよ?それよりも、さっきのあなたの魔法の方が凄かったわ」
「それでも、去年のアルトと比べてもまだまだだよ」
どうやらタイガは、試験では昨日とはまた違った魔法を使ったみたいだったけど、その威力、精度は、他のAクラスの人と比べても何ら遜色の無いものだった。
それに比べて私の魔術は、去年リュウレンから『おままごとのようだ』と、揶揄された時から、あまり大きな進歩を見せていなかった。
「そんな事無いわよ。ほら、昨日聞いたと思うけど、魔術って、魔素が薄いと使いづらいから…」
「それは聞いたけど、あんまりよく分からなかったなぁ」
「とりあえず、あんまり期待しないでってことよ」
出来ることなら、そんな姿をタイガには見られたくないけど、その気持ちは彼には伝わらないようなので、私は諦めてそう言い残すと、彼から逃げるように列の最後尾へと向かうのだった。




