14 大切
「そうなの?」
それを聞くと、タイガは意外そうな顔をする。
「気持ちは嬉しいけどね。でも、たとえどんなに辛い事が起きたり、タイガにこの学校が合わなくて、元の学校に戻るなんて事があっても、私は帰るつもりは無いわ」
「そこまで言わなくてもいいだろ?アルトは…おれの事が嫌いになったの?」
「あの頃と違って、1番では無くなったかもね。それでも、大切な存在である事には変わりないわ」
私の側にいたい。それだけの気持ちでここまで来てくれた事は嬉しく思う。
けれど、それを良しとして、この後も私の為の行動を続けさせるのは、お互いの為にならないと思った私は、心を鬼にしてそう告げる。
「そうなんだ…」
「えぇ。あなたにも、そういう時が来るかもね」
「そんな時、来るはずが無い…。おれの1番は、ずっとアルトだ」
案の定、タイガは落ち込んだ様な表情を見せるけど、私はここで優しくしすぎては駄目だと自分に言い聞かせる。
去年までだったら、私も心配そうな顔を隠せずにいただろうけど、今の私は、その時と比べれば、感情を隠すのがなかなかに上手くなったように思う。
「…私は、この学校に来てから、世界が自分の想像していたよりも何倍も大きいことを知ったわ」
それでも、新しい生活が始まってまだ2日目の幼馴染だ。
一足先にこの学校に通っていた身として、伝えられる事はあるだろうと、私は口を開く。
「ここには、私が街に居た時には想像もつかないくらい、いっぱいの人が居て、その人達が皆違う考えを持っているの」
「うん…」
「それに、違うのは人だけじゃない。タイガ、知ってる?この大陸って、魔物が全然森の中から出て来ないのよ」
「嘘だ。そんな事あり得ない」
面白いくらい素直な反応を見せるタイガを、私は可愛く思いながらも話を続けていく。
「それが本当なのよね。聞いた話だと、魔物の発生数自体も、私達の所と比べるとかなり少ないみたいで、大型の魔物なんかは、授業で森に行った時しか見てないわ」
「そんなに少ないんだ…」
「えぇ。だから、その時の授業で、初めて魔物を見たって子も結構居たわ」
「信じられないや…」
私達はある種、魔物と共に成長して来た様なもだったので、この事実にタイガは相当驚いたようだ。
「まぁ、そんな感じで、場所が変われば常識も変わる。私はこの1年でそれを学んだわ」
「常識が、変わる…」
「えぇ。きっとあなたも、これまでの経験からは想像もつかないような出来事に、幾つも遭遇すると思うわ」
「うはぁ…何だか聞いてるだけで、わくわくして来るよ」
それでも、これから訪れるであろう未知の予感に、タイガは子どもの様にはしゃぐ様子を見せる。
この先、タイガがこの場所でどんな経験をしていくのかは、私にも分からない。
けれど、幼馴染として自分の時みたいな辛い思いはして欲しくないと私は思い、彼に伝える言葉に、もう一言ぐらい付け加えてやる事にする。
「きっと、私がこの1年で色々と経験したみたいに、あなたも色々と学べることがあると思うわ」
「うん」
「もちろん、新しい出会いも別れもあるでしょうね」
「そう…だね」
「その上で、誰にも相談出来なくて困ってる。なんて事があれば、私を頼りなさい」
「アルト…何だかすごく大人になったみたい…」
以前のように、タイガの事を最優先で動く事は減るだろうけど、決して見放す訳では無いということを伝えてやれば、何故か彼がキラキラとした目でそう言ってくる。
「そんな事無いわよ。この1年で、変わらなかった事もあるから…」
「ふーん。よく分からないや」
「まぁ、何かあったら1年分先輩として、アドバイスくらいはしてあげるから、新しい出会いを大切にね!」
「アルトが言うなら…分かったよ。………今度は、置いてかないでね?」
どうやら、お互い別々の学校で過ごした1年間と言うのは、言葉以上に私達の間に距離を開けてしまっていたようなので、私はタイガの不安を拭い去る言葉を掛けてやる。
「私はどこにも行かないわよ。それに、どうせあなたの事だから、すぐに追いついて来るんでしょ?」
「勿論!おんなじクラスにもなれたしね♪」
その言葉を聞けば、タイガは不安が一蹴されたように、にぱーっと子どもみたいな顔をして笑う。
『だから…あなたこそ、私を置いてかないでね』
明日の実技で、今の自分を知られる事を、不安に思っている私の気持ちなんかに一切気付かずに。
『はぁ…私って、本当に感情を隠すのが上手くなったのね…』
幼馴染にすら悟らせないなんて、自分でも気が付いてなかった成長に、私は心の中でそっとため息を吐くのだった。




