13 バカ
「そろそろ中に入ろっか」
私達は約束を交わした後も、しばらくの間他愛のない話を続けていたけれど、気が付けば周りを歩く人が少なくなり、私達の姿は街灯に照らされていた。
「そうだね。いつの間にか日が落ちてたみたいだ。ずっと明るいから気が付かなかったよ」
「そう言えば、私達の街にはこういう灯りはあんまり無かったものね」
私はもうすっかり当たり前になっていたけど、この学校に来たばかりの頃は、新しい技術や常識を知る度に驚かされたものだ。
そんなことを考えながら席を立つと、不意にタイガから『学校は楽しい?』と、聞かれる。
「えっと、そうだね。うーん…」
突然だったので、何と答えるべきか私は少し考え込むけど、結局
「楽しい事も辛いこともあったけど、今は楽しい寄り…かな?」
と、素直に気持ちを伝える事にする。
「でも、どうしてそんな事を?」
今度の質問は、さっきの様な純粋な疑問からではないと感じたので、私は建物の中に向かいながら、その質問の意図を尋ねてみる。
「うーん。アルトが平気なら良いんだけど。この学校が合わないって感じてるなら、おれと一緒に戻らないかって」
「タイガと一緒に?」
「うん。なんか…アルト、おれと話す時以外、ずっと難しい顔してる気がするし」
そう言われて、私はペタペタと自分の顔を触ってみるけど、当然そんな事で表情が分かるわけもない。
「確かに昨日今日と、ピリピリしてるタイミングは多かったけども、普段はこんなんじゃないのよ?」
「そう?」
まぁ、実際の所そう見えてた理由も何となく分かってはいるけど、本人に直接『あなたが原因でモヤモヤしてたからだわ』なんて言うわけにもいかないだろう。
「それに、あなただって目標があってここに来たんでしょ?簡単に戻るなんて言うもんじゃないわ」
なので、私はそう言ってこの場を誤魔化そうとしたのだけど
「おれは、アルトに会うためだけに来たんだよ?」
とタイガは言う。
「なっ…!?ほ、本当にそれだけの理由で来たの!?」
「逆にそれ以外に理由が必要?」
「〜!あんたはバカ!本当にバカなんだから!!」
その真っ直ぐな視線と言葉に、私は周りに人が居るのも構わずに、つい大きな声を出してしまう。
「だって、アルトが居ない街はつまらなかったから」
「だからって、こんな所まで追いかけて来るなんて」
「アルトだって、いきなり遠くに行っちゃったじゃないか」
「うぅ、それはそうだけど…」
私は去年、この学校を受験したわけだけど、同時に地元の学校も試験を受けていたので、私が本気で街を出ると思っていた人は少なかっただろう。
ただ、私の家族とタイガだけは、私が狩った魔物を、換金して貯めていたお金がある事を知っていたので、私にとって隣の大陸に行くことが、夢物語ではないと知っていた。
「あの時、合格通知が届いた時、アルトの力が遠い所でも認められたんだって嬉しかったけど、それと同じぐらい悔しかった」
そう言って立ち止まるタイガと視線を合わせて、私は彼との目線の高さが、去年よりも縮まっている事に気が付く。
「アルトがここを目指すって言った時、本当は『頑張れ』じゃなくて、『おれも一緒に行く』って言いたかった」
「『一緒に行く』は言ってた気がするけど…」
「でも、おれにはアルトと違って、皆に認めて貰えるだけのお金も力も無かった」
「そうね」
最初にここを目指すと話した時、当然両親には反対され、担任からは無茶だと言われたけど、私は1人でも生活出来るだけの貯えはあると、そして、これ以上街に残っても、学べる事はもう無いと、納得してもらうまで説得したのだ。
「アルトが居ない1年間、ホントにつまらなかった。けれど、ようやく追いついた」
「…あなたって、本当に私の事が好きなのね」
実際に自分が経験したのもあり、彼が転入するまでに辿った道のりが、決して平坦なものでは無かった事が想像出来る。
彼がそれを乗り越えて、ここへ来てくれたことを嬉しくも思う。
「けれど、まぁ…私の中には、卒業するまで故郷に帰るって選択肢は無いかな」
だからこそ、私は彼にそう告げるのだった。




