12 動揺
「あ、あの人って誰のことよ」
あの人が誰を指すのかなんて、分かりきっているのに、虚をつくようなタイガの質問に、私は動揺しながらそう聞き返す。
「誰って。そりゃ、さっきのスイネグって人?」
「な、何でそんなこと聞くのよ!」
「んー、気になったから?」
「気になったって…」
「なんか、あの人にはいつもと違う感じがしたから」
タイガは私の質問にそう答えるけど、彼が純粋な好奇心で聞いて来ているのが分かったので
「好き…好きねぇ…うーん」
と、私も改めて自分のスイネグ先輩への気持ちを確認する。
私はしばらく考えていたけど、その途中でレイナの事をおもいだすと、
「私は…あの人の事、好きじゃないよ」
と、タイガに答える。
「好きじゃないの?」
私の答えに、タイガは意外そうな顔をする。
「うん、私のは尊敬とか、そう言う感情に近いのかな」
「尊敬…」
「そう。好き…ではあるのかもだけど、タイガが聞いてる感じのとは違う気がする」
「どういう事?」
「う~ん。私の友達に、絶対に恋してる!って感じの子が居るんだけど、それと私の気持ちは別だなって」
「そうなんだ」
私の答えに、タイガが納得してないような表情をするので、私は今の答えに少し付け足す。
「どちらかと言えば、昔の、あんたが私に魔法を教えてくれた時の気持ちに近いのかも」
「おれ?」
「うん。なんて言うか、私の世界を広げてくれた人。あの時の感覚と同じ気がする」
「そうか」
それを聞いてようやく、タイガは納得したような、照れたような表情をする。
「でも、好き…かぁ。考えたこと無いなぁ」
今の質問の後、私はまだ寮に戻って一人になりたくなかったので、近くのベンチに座り込み、目の前を歩く人たちを見ながらそう呟く。
「考えたこと無い?」
同じようにタイガも、私の隣に座るとそう聞き返す。
「私、なんとなく大人になったら、タイガと結婚するんだって、漠然とそう思ってたから」
「………それは、おれもかも」
今の私達の言葉を、メリッサ達が聞いたら変に囃し立てるかも知れないけど、幸いにして周りには知らない人達しか居ない。
「恋愛感情とかそんなんじゃなくて、ただ単に、あの街で一番仲が良いし、自然とそうなるのかなって」
「うん。おれも、一番良くアルトと遊んでた気がする」
私の故郷は、そこまで小さい訳じゃないけれど、それでも同年代のグループで親しい人と言うのは、あんまり多くはなら無いだろう。
私の場合は特に。
「街の人の多くが顔見知りで、大体は親同士の仲が良い所で家族になる。」
「その中で、たまにミネガン先生みたいに、外から来た人が街の人と結婚することもある」
「まさかあの堅物先生が結婚するなんてね」
私達は、自分達が卒業した頃の街の様子を思い出しながら語り合う。
「好きって、なんなんだろうね」
『好き』とは、心惹かれること。
そう言葉で表すのは簡単だけど、感情としてそれを考えた時に、それがどういう気持ちなのか私には想像がつかない。
「私は、タイガの事を好きだって思っているけど、きっと、レイナの好きとは違うんだろうなぁ」
彼女がサク先輩へ向ける感情は、私から見ても特別なものだと分かるけど、私が皆へ向ける気持ちにそこまでの熱量は無い。
「好きって、難しいの?」
私の呟きに、タイガは問い掛ける。
「そうね、難しいわ。」
私の答えに、彼は『そっか』と呟くと、私達はそっと周りの音に耳を澄ませる。
「けれどここには、街にいた頃よりも沢山人がいるし、私にもあなたにも、いい人が現れるかもね」
「アルトはおれ以外の人と結婚するの?」
「うーん。仲のいい人は出来たけど、家族やあなたよりも大切な人はまだ居ないわ」
「ふーん。アルトよりも気の合うやつなんて居なそうだけどな」
「ふふっ、私もそう思うわ。」
人に言っておきながら、私にはまだ、自分が将来誰かと人生を共にしている姿が想像付かないので、タイガの意見に同意だった。
「まぁ、この先どんな出会いがあるか分からないし、お互いに特別な人が見付かるかもしれないし、見付からないかも知れないわ」
「見付からなければ?」
「その時はその時じゃない?」
「なら、卒業までに相手が見付からなかったら、おれが嫁に貰ってやるよ」
「そうね。どうせ街に戻ってもあなたぐらいしか相手が居ないし、その時はよろしくお願いするわ」
まだ、これから3年ここで過ごす間に、お互いの関係がどう変わっていくのか分からないけど、私達はそんな他愛のない約束に笑い合うのだった。




