10 魔法?
「先輩…それはどういう意味で言ってますか…?」
私は、スイネグ先輩が呟いた事に、気が付けばそう問い掛けていた。
「どういう…か。言葉通りの意味だが。わざわざ説明が必要か?」
「いえ、今の言葉で十分です…」
「言われた通りにしたつもりだったんだけど、変なことしちゃったかな?」
タイガは、私達の短いやり取りに、何か予定外の事が起きているのを察知したのだろう、不安そうにそう尋ねる。
困惑しているのは私も同じだった。
だが、この中で唯一、スイネグ先輩はこの結果を予想していたようで、1人落ち着いたまま逆にタイガへ質問をしていく。
「今のは普段通りか?」
「一応、そのつもりだったけど…」
「私から見ても、いつも通りのようでした」
「教わった者の中に、この大陸出身の奴は居るのか?」
「はい、父がこちらの出身です」
「なるほどな」
その答えを聞くと、先輩は納得したように頷く。
「なるほど。なかなかにどうして、お前の周りには面白い奴ばかり居るんだろうな」
「私にも分かりませんよ」
私の周り、がどこまでを指すのか分からないが、確かにメリッサ以外の私の友人は、普通とは違う魔法を使っているかもしれない。
とか思っていると
「ここまで来ると、メリッサと言う奴とも会ってみたいものだがな」
「話したこと無いんですか?」
「サク達から話を聞いたぐらいだ」
と、先輩も同じ人物の事を頭に思い浮かべたようだった。
「えーっと、2人は何の話をしてるのかな?」
そこまで話したところで、完全に置いてけぼりになっていたタイガが、堪えきれなくなったようにそう言う。
「あっ、ごめんごめん。話が脱線しちゃったよね。」
タイガとしては、特段変わったことをしたつもりは無いだろうに、私達ばかりがこうして騒いでいるので、なんとも居心地の悪そうな顔をしている。
私としても、彼の事を蔑ろにする意図はなかったのだけど、先輩の呟いた言葉があまりにも衝撃的過ぎたのだ。
だって、彼の推察が正しければ、タイガはこの大陸に来てまだ数日だと言うのに、既に魔法を使いこなしているということになる。
広義の意味での魔法ではなく、魔法と魔術の片一方の意味としての魔法をだ。
その事実を私は、まだ上手く飲み込めずにいるけど、それは隣で頭にはてなマークを浮かべているタイガも同じようなものだろう。
と言うか、彼はまだ魔法と魔術の違いを教えてもらっていないはずなので、余計にこの状況を飲み込めずにいるだろう。
「でも、本当に魔法でしたか?今の」
念の為に私は、再度スイネグ先輩に確認をするけど、疑ってしまうのも仕方がないだろう。
だって、今タイガが使用したのは、空気中に炎のカーテンを生み出す技だ。
どこからどう見ても魔術にしか見えなかった。
「だったら今度は集中して見るんだな。おい、今のをもう一度やれ」
「分かりました…」
それでも、先輩の指示の元、再びタイガが魔法を使用する場面を、魔力を纏いながら観察すれば確かに見えた。
それは、魔力を空気中に放出した後に発動させていて、普通の魔法とは少し過程に違いはあるが、タイガの魔力で発動された紛れもない魔法であった。
「これは…どう言うことでしょうか…」
私は、目の前で見たものが信じられなかった。
それと同時に、1度は消えたはずの不安が、また戻ってくるのを感じていた。
これまで、小さいときからずっと一緒だった幼馴染みが、魔法を使えたこと…。
そして、それはつまり、彼がアリアス大陸の感覚を持ちながら魔法と魔術を十全に使える、まさしくスイネグ先輩が求めていた人材であることを示していた。
「俺に聞くよりもそいつに聞いた方が良いんじゃないか?」
「それは…そうですね…」
スイネグ先輩が、ぞんざいな態度を取るのはいつもの事なはずなのに、今の私には、それがまるで彼が私に興味を無くし、どうでも良い存在に成り下がったが故の言動に感じた。
『あぁ…もしかして、メリッサもこんな気持ちになったのかな』
私は心の中でそんなことを考えるけど、その暗い気持ちを悟られないように気を付けながら、タイガに質問をするのだった。




