09 単純
「うぐぅ~。もう教室に居ない…。これだと話しかけるタイミングが無いよー」
2年生になって2日目。
今日はまだ授業は無かったけど、新学期早々筆記試験が行われ、更に明日実技の試験があることを帰りのホームルームで説明される。
私は、今日の試験の手応えだとか、明日の実技に向けて何をしようだとか、このクラスで唯一と言って良い友人であるメリッサと話そうとしたのだけど、やはり昨日のあの男との一件が尾を引いてるのか、休み時間には1度も話し掛けられず、今も気が付けば教室から姿を消しており、私はまた、1人ポツンと取り残されてしまっていた。
「どうしたの?さっきからずっと唸ってるけど。そんなに今日の試験難しかった?」
しばらくの間、私がメリッサの事を探すべきかどうか悩んでいると、何時から見ていたのか、タイガからそう声を掛けられる。
「違うわよ。この後どうするか考えてたの」
「もしかして忙しい?」
「そんなことはないけど。どうしたの?」
「ほら。昨日スイネグさんが、放課後第2訓練所まで来てくれって言ってただろ?けど、何処にあるか分からないから、アルトに案内して貰いたくて」
彼は、私の周りにあまり人が居ないことで緊張が解けたのか、昨日よりも大分砕けた調子でそう言う。
「あー、そんなこと言ってたのね」
いつの間にそんな話をと言う気持ちだったけど、恐らく私が先輩の言葉にショックを受けている間にそのような話をしていたのだろう。
「ダメかな?」
その事を考えて私が黙っているのを見て、不安そうにタイガがそう聞くので、私は『まぁ、良いわよ』と返事をすれば、『やった!ありがとう!!』なんて、彼は嬉しそうな表情を見せる。
「来たか」
それから、私とタイガが訓練所へ向かうと、珍しい事に既にスイネグ先輩がそこで待機していた。
「今日は、何も持ってきて無いんですね」
「必要ないからな」
遠目に見て、先輩にしてはずいぶんとすっきりしていると思っていたけど、聞いてみればどうやらその通りらしい。
「今日はよろしくお願いします」
「あぁ」
そうして、2人が軽く挨拶を済ませたところで、役目は終わっただろうとこの場を去ろうとしたけど、その前に先輩が、私とタイガが一緒に来たことに疑問を覚えてないことに気付く。
「あの…今日って、私も居た方が良いんですか?」
そこで、念のためと思い、ここに残るべきかを聞いてみる。
「当然だろう。でなければ、何の為の助手だ」
「そうですよね」
それを聞いて先輩は、何を言ってるんだといった顔でそう言うと、すぐにタイガの方へ向き直り、何かしらの…恐らく魔法と魔術の違いを説明し始める。
対して私は、努めて平静に答えたつもりだけど心の中では嬉しさを堪えるのに必死で、何を話しているのかが頭に入ってこない。
だって、仕方がないと思う。
昨日から、私が先輩の助手で本当に良いのかとか、タイガが先輩に認められたら、私の存在意義が無くなってしまうんではないかって考えてたのに、あんな風に居て当然だと言われたら、嬉しくない筈がない。
実際は、先輩はそこまで考えてなくて、ただ私が1人で勝手にそう感じているだけなのかもしれないけど、こんなことで簡単に不安が吹き飛んでしまうなんて、私はなんて単純な奴なんだろうと自分でも思ってしまう。
と、いつまでも放心してる訳にもいかないので、私はここで意識を2人に戻すと『詳しい事は後で説明する。とりあえずは、お前の魔法を1度見せてみろ』『何でも良いんですか?』『あぁ』と、ちょうど話が終わったのか、タイガが魔術を発動させるところだった。
「何でもかぁ。アルト、どのくらいのを見せれば良いと思う?」
「適当に簡単なもので良いんじゃない?」
そして、タイミング良く彼が質問してくるので、私は自分の時の失敗も踏まえてそう答える。
「よし!じゃあ…炎よ!!」
タイガはそれを受けて、右手を握り混んだかと思うと、そう叫び、拳を開きながら腕を左から右へと水平に振り上げる。
すると、バ…バ…バ…バンと断続的な破裂音を出しながら、彼の正面に炎のカーテンが生み出される。
「ふむ…」
それを見た先輩は、一言呟くと
「やはり、お前のそれは、魔法のようだな」
と、告げるのだった。




