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TASさんは異世界にて自由に生きたいようです。  作者: 粗茶漬け
TASさんが流浪の旅を始めるようです
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イゴール、焦る。

 俺が今、手に持っている小さな矢印のついた円盤。


 これは、賭け事の時に、賽子の代わりに使われる、”ルーレット”と呼ばれる物を、俺の知り合いの魔導具作成師が改造したモノである。


 確か、名前は……”やじるしくん三号”、だったか。


 ひどい名前である。


 しかし、これが今日は大いに役立つ。


 この魔導具の効果はーーーー対象の所在地の特定。


 親機と、いくつかの子機を併用する。


 親機は今俺が持っているコレだ。


 子機は、半径二センチの円状で、紙のようにシールになっていて、貼ったり剥がしたり出来る。


 ”粘着魔法”とかいう訳の分からない魔法を使っているらしく、粘着力が落ちたりはしないのだそうだ。使用回数に制限が無い。


 さらに、張り付いた場所の色と同化する、ステルス機能付き。これは”転写”魔法の応用だ。こちらも使用回数制限は無い。


 流石に経年劣化はあるが、乱暴に扱わず、連続使用を避けて、たまにメンテナンスすれば、恐らく十年ほどは持つ、と、これを作った奴は言っていた。


 有効距離はなんと、およそ五十キロメートル。


 名前だけ聞くと、子供の工作のように思えるのだが、探知系の魔導具の中でも破格の有効距離だ。


 受送信するシグナルの送信パターンが特殊だとか、そんな事を解説されたのだが、魔導具関連は俺の専門外だ。なんとなく理解は出来ているが、詳しい所までは解らなかった。


欠点としては、方向は分かるが、距離は測れないという所くらいだ。


それでも、五十キロメートルという有効距離は破格だ。普通、このタイプの探知系魔導具の有効距離は、三キロメートル程がいい所である。十キロメートルを越えれば、国宝に認定されてもおかしくないといったモノなのである。色々とおかしい。


 まぁ、とにかく。


 この魔導具があれば、事前にチビすけに貼り付けておいた(こんなこともあろうかと、というやつだ。……これ程早く使う事になるとは思っていなかったが)、子機から発せられる特殊な魔力信号を親機で辿る事により、彼女を直ぐに探し出す事が出来る。


 さて、早速使うとしよう。


 数年前に起動して、それっきり使っていなかったが……ちゃんと起動するのだろうか。


 確か……矢印の軸を押せばいいんだったか?


 俺は”やじるしくん三号”の矢印の軸を、右手の人差し指で押す。


 ぽちり。


 じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃーん!


 ルーレッツ!ストゥァート!


 やけにテンションの高い、トチ狂ったような声(製作者の声だった。ちなみに製作者は女性だ)が辺りに鳴り響き、ぎゅああああああ、と、物凄い音を立てながら矢印が回る。


 周りの通行人が揃って此方を見る。そして、俺を直視。すぐに元の方向に向き直った。


 ……忘れていた。そういえば、こんな謎演出もあったな。

 お陰で大恥をかいた。”あいつ”、後で一回殴る。


 そして、うるさい音を立てて回転していた魔導具も、少しずつ回転速度が落ちて行き。


 ばぁぁああん!


 じゃじゃじゃじゃじゃーん!


 ぴろぴろぴろぴろぴろーーーー


「うるせぇ!」


 俺は”やじるしくん三号”を地面に叩きつけた。


 ばぎん、と、大きな破砕音。


 しかし、五月蝿い効果音(製作者ボイス)は止まなかった。


 砕けたのは"やじるしくん三号"ではなく、"石畳の歩道"の方だったのだ。


 何が、”乱暴に扱わないでよね〜”、だ。今のように、軽く投げつけた程度ではビクともしない。


 "軽く"、といっても、”Aランク冒険者"の"軽く"、だ。


 魔導具は精密なモノで、非常に壊れやすいものなのだ。


 普通なら、今の行動で壊れている。”やじるしくん三号”は、相当頑丈に作られているのだった。


 俺は一回舌打ちをして、傷一つ付いていない”やじるしくん三号”を拾い上げる。


 取り敢えず、”あいつ”を一回、思い切りボコボコにする事は決定した訳だが、しかし、今はタスの事の方を優先しなければ。


 そして、俺は拾い上げた”やじるしくん三号”の指し示す方向を見てーーーー驚愕し、目を見開いた。


「————嘘、だろ?」


 “やじるしくん三号”が指し示したその場所は。


 Aランク以上の冒険者か、許可を取ったもの以外、立ち入り禁止の危険区域。


 “樹園”————


「——くそっ!」


 俺は”やじるしくん三号”を服の小物入れに乱暴にぶち込む。


 そして、両脚をバネのように使い、思い切り力を込める。


 石畳の通路に大きな亀裂が入った。修理費がかさみそうだが、今はそんな事どうでもいい。


 跳躍。


 短時間の無重力を味わった後、ばん、と、着地した場所は、道に沿って建てられている、建物の屋根の上。


 俺は屋根を飛び移りながら、全速力で、矢印が指し示す方向へと向かった。

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