イゴール、探しに行く。
冒険者ギルド内、酒場カウンター前にて。
今朝まで、ある程度の清潔感があったはずのその場所は、夥しい量の血液が撒き散らされ、机や椅子、壁や床、天井までもを真っ赤に染めている。
机の上には酒場店主の頭。
そして、机の前には、立ったまま首を無くした、イゴールがいた。
首を無くしたイゴールの身体は、ピクリとも動かない。
そして、そのイゴールの前に立ち、話しかける、機関長こと、エリック。
「……おうい、戻ってこうい。もう終わったぞ?お前、いつまでその状態で突っ立ってるんだ?そろそろ治る頃合いなんじゃないのか?そうだろう?」
「……『再生するときは”頭”を基準にしているから、”胴体”に話しかけても意味が無い。再生中は頭に話しかけろ』。お前、”パーティ時代”に俺が散々教えた事を、もう忘れちまったらしいな」
背後から響く、只ならぬ重圧感の乗った声。
エリックは、声がした方へ、振り向く。
傷一つ負っていないイゴールが、そこに居た。
「はっはっは!俺がそんな細かい事を覚えているはずがないだろう?付き合いの長いお前なら、分かるはずだぞ?」
「ああ、そうだった。お前は”生粋の馬鹿”だったな……」
イゴールは、手を額に当て、はぁ、と、溜息をつきながら、そう言った。
エリックは”馬鹿”と言われた事に、特に何も感じて居ないようで、いつもの様に、口角を吊り上げ、ナイスガイな笑顔を浮かべたまま、会話を続けた。
「お前の言う”パーティ時代”ってのは、もう十数年も昔の事だろう?誰だって忘れるだろう?」
「他のメンバーはどうにせよ、俺とお前は、今も、偶に”樹園”に狩りに行く時があるだろうが」
「はっはっは、だとしてもだ。お前が首を吹っ飛ばされた事なんて、昔に数回あっただけだろう?」
「まぁ、な。致命傷を与えられたのは、六年ぶりくらいか」
「致命傷————か。珍しいじゃないか、保身的過ぎて常に警戒心剥き出しのお前が、油断するなんてな。そうそう、ある事じゃあない」
油断するなんて。それを聞いて、イゴールは横に、首を振る。
「油断はしていなかったぞ」
「……んん?あの程度の奴に、お前が殺られるはずがないだろう。いきなりだとしても、油断でもしていない限り、お前に奇襲は通用しないはずだろう?」
エリックは手で顎をつまみ、考える仕草をする。
「まぁ、そうなんだが……あ」
何かを思い出したように、イゴールが立ち上がる。
「ん、どうした?」
「……ちょいと、用事を思い出した。行ってくる」
「おう、何処へだ?」
「少し拾い物をーーーーな」
「?」
エリックは、より深い角度まで頭を傾げる。
そして、頭上に疑問符が浮かび上がりそうなほどに、不思議そうな表情をした。
そんなエリックを放置して、イゴールは冒険者ギルドの扉を、ぎぃぃ、と、開き、外へ出た。
エリックは、ふと、酒場のカウンターの方を向く。
首の無くなったイゴールの胴体は、いつの間にか形を崩し、その全てが灰になっていた。
あたりに散らばる灰。じろり、と、恨めしそうな目でこちらを見つめる、今は亡き、酒場の店主の頭部。壁に大きく散らされ、こびり付いている、酒場の店主の臓物。そして、血に濡れて赤い、壁、天井、床。
それらを見て、エリックは一つのことに気付く。
そして、顔を歪ませ、とても嫌そうな表情をする。
彼は気付いたのだ。
この後始末をするのは、自分なのだ、と。
通常、こういった場合、掃除をするのは月一でランダムに指名される”掃除当番”なのだが、今月の”掃除当番”である受付嬢は、化け物の”処理”時に怪我を負い、医院に搬送されている。
ギルド内でのルールで、何か役目を負った人が、用事で出掛けていたり、死傷したりして欠けた場合、その場に居る者が、何か賭け事をして決めるという事になっている。
しかし、エリックの周りに人影はいない。騒ぎの事もあるが、今は昼時だ。依頼を受けた冒険者は皆、出払ってしまっている。賭ける相手が居ないのだ。
つまり、この場合。
強制的に、この場の後始末をする者は、エリックという事になる。
「……」
暫くの沈黙の後、エリックは、はぁ、と、一つ、大きな溜息をつく。
そして、彼は座っている椅子から立ち上がり、ギルドの掃除用具置き場に向かう。
いつも笑顔を絶やさない、ナイスガイである彼にしては珍しく、少し気怠そうな足取りだった。
おくれてごめんね(´・ω・`)ゆるしてちょ
もう暫くは不定期投稿となります。




