イゴールは、笑みを浮かべた。
次からTASさん視点に戻ります(´・ω・`)
イゴールは、感動した。
人にしっかりと見据えられる事に、喜びを感じた。
だが、彼の表情は厳ついままである。感情表現が苦手なのだ。
彼はそのまま、目の前の幼女に対し、依頼書の受注に必要なランクについて、注意をする。
それを聞くと、彼女は、布の服のポケットから、ギルドカードを取り出し、イゴールに掲示する。
そのカードは、銅色————Cランクのカードだった。
それを見た冒険者達から、どよめきが広がる。
イゴールは、考え込んだ。
この子は、さっき冒険者登録をしたばかりではなかっただろうか?
自分の思い違いだったのだろうか、と、暫く考え、ある、一つの考えが浮かぶ。
————もしかして、推薦状か、と。
冒険者ギルドのある程度高い役職、又は、Aランク以上の冒険者はこれから冒険者登録をする者に対し、一年に三度だけ、”推薦状”を持たせる事が出来る。
“推薦状”を持ってギルドに登録した者は、ランクCから冒険者を始める事となる。
恐らく、目の前の彼女は、その”推薦状制度”を使ったのだろう。
大体は貴族の子供に対する優遇制度として利用される事が殆どだが、恐らく、彼女は違うのだろう、と、イゴールは判断する。
彼は、彼女に”強者の気配”を感じ取っているからだ。
それに、彼女の歩き方は完璧で、体幹のブレがほぼ無い。相当な実力者だ。
そもそも、貴族の子供は、ただの布の服なんて着ない。
その事実からも、彼女は”実力”で”推薦状”を貰ったのだと推測出来る。
うん。それなら安心出来るな。心配は無いだろうーーーー彼は、そう思い、自分に礼を言ってから、依頼書を持って、受付に向かう彼女を、ぼんやりと眺めていた。
まぁ、側から見ると、全く”ぼんやり”とした雰囲気は感じられなかったのだが。
◆◆◆◆◆
彼は今、草原を歩いている。
————彼は、”あの子供”の様子を見に来ていた。
大丈夫だ、大丈夫だろう、と、心の中で思っていても、か弱そうな見た目をした彼女が、モンスターの出る平原で、採取をしていると思うと、居ても立っても居られなくなってしまった。
そう。彼は、”いい人”で、さらに”お節介焼き”なのだ。
要らぬ世話と分かっていても、大丈夫だと分かっていても、心配になってしまう、彼はそんな性格の持ち主なのである。
そして、暫く歩くと、遠くに小さな人影が見えた。
イゴールは腰につけた双眼鏡を目に当てる。
冒険者ギルドで会った、あの子供だった。
彼は、その場にしゃがみ込み、姿勢を出来るだけ低くして、彼女の事を見守り始めた。
◆◆◆◆◆
彼は、双眼鏡越しに、物凄いペースで薬草を摘んでいく彼女の姿を見て、驚いていた。
彼女は、まるでそこに薬草がある事が分かっているかのように、迷い無く手を草の中に突っ込むのだ。
採取の天才だ。もう、その採取の腕だけで、一生稼いで暮らして行けそうなレベルで、薬草の採取が素早い。
だが、余り摘みすぎるのは、頂けない。摘み尽くしてしまっては、新しい薬草が生えなくなってしまう。
後で注意しておこう、と、イゴールが考えた、その時だった。
彼女の後ろに、何かが見える。
その何かは、段々、薬草を採取している彼女に近づいて行く。
そして、その何かがはっきり見える様になった時。
それは、魔物だった。
————ドリルラビット。
討伐推奨ランク、Bランク指定のモンスターだ。
何故、この平原にあんな奴が、と、イゴールは驚愕する。
この辺りには、討伐推奨ランク、Eランク指定のモンスターしか生息していない筈なのだ。
明らかな異常事態に、イゴールは少し混乱した。
だが、直ぐに思考を整え、彼女の元に走り出せる様に、立ち上がり、姿勢を整える。
そして。
彼女が、後ろを振り返った。
気付かれた、と、知ったドリルラビットは、頭に生えた、捻れた形をした一本の角を、ぎゅぃぃ、と、大きな音を立てて、高速回転始める。
あの角を一撃でも喰らえば、彼女はひとたまりもないだろう。
おまけに、あの魔物は、移動能力が高い。避ける事は難しいだろう。
イゴールは、これ以上はマズイと判断し、双眼鏡を目から離す事なく、彼女を視界に捉えたまま、駆け出すーーーー
そして、数秒後。
彼は、足を止めた。
彼はーーーー目撃した。
彼女が、いつの間にか右手に持っていた、黒い、小さな杭を投げた場面を。
ひゅん、と飛んで行った杭が、ドリルラビットの頭に、びす、と、突き刺さった場面を。
当たり前のように、討伐推奨ランク、B指定の魔物を彼女が屠った場面を。
そして、彼女が、そのドリルラビットの死体を拾いに行き、これまたいつの間にか手に持っていたナイフをソレに突き立て、ソレを、彼女の手から現れた、一メートル程の長さの杭に、まるで、死体を冒涜するかの様に、逆さに磔にした場面を。
その男は、がちゃん、と、手に持っていた双眼鏡を、地面に落とした。
ぱりん、と、内部のレンズが割れた音が、よく響いた気がした。
それは、信じられないような出来事で。
しかし、それは現実で。
いつの間にか、彼は、震えながら、口角を上げ、笑みを浮かべていたーーーー




