TASさん、初依頼を受ける。
冒険者ギルドの、西側の長い壁。
そこには、いくつもの依頼書が貼られていた。
そして、そこでは、十人ほどの人達が、壁を見つめて、ううん、と、唸り、仲間と思わしき人と、話をしたりしている。
何故、彼等は、悩ましい顔をしているのか。
会話を聞くと、すぐに分かった。
「ねぇ、この依頼どう?」
「うーん、ちょっと報酬少なくね?」
「よし、これにしよう」
「おぅい、その依頼、この依頼と交換しようぜ?」
報酬がいい依頼、悪い依頼。自分に合った依頼、合わない依頼。
冒険者は、それを見極め、的確な依頼を受ける必要があるのだろう。
なるべく、得を出来るように。損をしないように、慎重に依頼を選んでいるのだ。
私は、壁に向かって歩き出す。
周りの視線が私の方に向く。
まぁ、私の見た目は完全にただの幼女だ。浮いてしまうのは仕方ない事だ。別に、気にしない。
私は人と人の間を潜り抜け、壁の前に到着。そして、軽くジャンプして、壁の少し高めの位置に貼られた一枚の依頼書を、べりり、と、剥がす。
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依頼種 採取依頼 推奨ランク D
依頼名 リストロ草の採取
報酬 リストロ草、十本毎につき、銅貨十枚。五十本まで買取ります。
依頼者 リアレ
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「おい、そこのチビ」
背後から、低く、少しくぐもった声がした。
私は後ろを振り返る。
そこには、厳つい顔をした、前世で言う、ヤクザのような男性がいた。
んん?私は何か、不味いことでもやってしまったのだろうか?
それとも、私は今、この人に絡まれてしまっているのだろうか?
「その依頼は、Dランク依頼だぞ。自分より高いランクの依頼は、受けられない決まりだ。お前はさっき、冒険者登録をしたばかりだろう?その依頼は受けられないんじゃないのか」
ああ、成る程。
普通、登録したばかりだと、ランクはFの筈だからな。注意されるのも無理はない。
「いえ、らいじょうぶ、れす」
そう言って、私は厳つい男性に、自分の”冒険者カード”を見せる。
「……!」
私の”冒険者カード”を見て、少し考える素ぶりをした後、
「……ああ、成る程な。”推薦状”か」
と、納得したようだった。
私は頷いてそれを肯定した。
見た目に似合わず、優しい人だった。人は見た目で判断しちゃいけないな。
私は軽く、注意に対するお礼を言ってから、依頼書を受付に持って行く。
「あら、もう選んできたの?」
「はい。あと、ききたいことがあるのれす」
「あら。質問は大歓迎よ。なにを聞きたいの?」
「りすとろそうの、じつぶつって、ありますか?」
「ええ。あるわよ。そこの共用本棚の、”薬草大図鑑”っていう所に書いてあるから、自由に読んで良いわよ。タスさん、文字が書けていたし、時も読めるわよね?」
「はい。かんしゃ、れす」
「いえいえ。これからも分からないことがあったら、どんどん聞きに来て良いからねー」
「はい」
私は受付の女性にお礼を言った後、教えられた本棚の方に行き、行く最中に見つけた”薬草大図鑑”と、背表紙に書かれている書物を迷わずに取り出し、本棚の近くにあった椅子に腰掛け、パラパラと、ページを素早くめくって行く。
……あった。リストロ草。
その薬草は、草がある所には大体生息しているらしい。
形も覚えた事だし、あの草原にでも行けば、見つかるかな。
私は残りのページを覚え終わった後、本を棚に戻し、冒険者ギルドを出た。
◆◆◆◆◆
「ひとーつとーってはめーしのため、ふたーつとーってはやどのため。みーっつとってはおふとんのためー」
そんな気の抜けた、歌とも言えないようななにかを口遊みながら、私は薬草を採取していた。
「ひとーつとーっては……ん」
街の外に出てから、使用していた”探知機もどき”に、なにやら反応が一つ。
私はすぐに、反応のあった、後ろを向く。
頭に細長い角を生やした小さな兎が、ぴょん、ぴょん、と、私の二十メートル後方で、飛び跳ねていた。
かわいい。そう思ったのも束の間。
なんと、兎は頭の角を、ぎゅぃぃぃ、と、音を立てながら、回転させ始めーーー
「きゅぃぃぃ!」
と、可愛らしい声を上げながら、こちらに向かって、飛び跳ねながら、向かってきた。
「……はぁ」
こんなに可愛い生物を殺す事は、心が痛むな。
だが、仕方ない。襲い掛かってきたからには、やらねばなるまい。
私は闇魔法で、掌サイズの杭を作り、それを右手で持ち、軽く投げた。
真っ黒な杭は、ひゅん、と、風切り音を立てて、真っ直ぐ兎に飛んで行く。
びす、と、杭は兎の眼球を砕き、脳にまでに突き刺さった。
頭の角の回転は止まり、ぼてり、と、地面に落ちた。
やっぱり、目玉を潰して、奥の脳を破損させる方法が一番速い。しかも、楽で良い。
私は兎が落ちた場所に歩いて行き、兎の死骸を拾い上げる。
闇魔法で、ナイフを作り、兎の死骸の頸動脈を切る。
首元から、べちゃべちゃ、と、血が溢れた。
私はまたまた闇魔法を使い、大きな杭と、ロープを作り、細長い棒を地面に突き立て、そこにロープを使って兎の死骸を逆さに吊るし、血抜きをする。
真っ黒な杭に縛り付けられた、兎の死骸は、地に赤い血を、杭伝いに流し込んでいる。
破裂した右目に刺さっていた杭は、もう消えており、そこに空いた穴から、ぼたぼた、と、兎の脳が零れ落ちていて……
……なんだか、怪しい儀式を行っているように見える気がするが、気にしない。これはただの血抜きだ。うん。
私は兎の死骸を縛り付けた杭を、消えないように維持しながら、薬草採取に戻る。
そして、その後、暫く薬草を採取した後、血の抜け切った兎の死骸を回収し、街に帰るのだった。
闇魔法で造った物の色は、全て黒色で固定です。
あと、ナイフの形状については、真っ黒な棒に真っ黒な刃を付けて、持つ場所に手に合わせた湾曲を付けただけの、物凄くシンプルな物を想像していただければ。




