TASさん、冒険者カードを作る。
前話の"マ◯チコピー機"を"レジスター"に変更させていただきました。
詳しくは前話の前書きをどうぞ。
「……うわぁ」
私は思わず、そんな声を漏らす。
木製のカウンターの上に乗せられた”魔導具”らしき物は、前世(?)で、コンビニエンスストアや、スーパーの受付、その他商業施設のほぼ全てに置かれている精算機械、”レジスター”のような見た目をしていた。
プラスチック製のボディは、石造りの壁に、木製の床といった、冒険者ギルドの内装に全く似合っておらず、異様な存在感を放っている。
「あら?どうかしたのかしら?」
受付の女性が、不審そうに聞いて来たので、
「いえ、なんれもないれす」
と、誤魔化す。
これ程までに露骨な場違い感を発している物を見るのは、人として、この世界に生まれてから初めてだ。声を漏らしてしまうのも、無理はないだろう。
受付の女性は、暫く私を、じっ、と、見つめた後、
「まあ、いいわ」
といって、視点を机の上の魔導具の方に移す。
そして、説明を始めた。
「使い方は、ほら、この魔導具から延びてる管の先に、小さな四角い箱の形をした道具がくっ付いているでしょう?それに入っている線を境目に、管が繋がってない方を右回りに捻ると、小さな針が出てくるのよ」
魔導具から延びている一本のコード(これまたプラスチック製である)の先に繋がっている、指先ほどの大きさのキューブ。
私は上下二つのパーツに分けられて組み立てられているそれを手に持ち、くいっ、と、捻る。
すると、鋭い針が、三本程出てきた。
「それを、指先に刺しちゃって。どの指でもいいわ。ちくっとするけど、あまり痛くはないから、安心して」
衛生面などに問題は無いのだろうか?とか、魔法などを使えば、人の血を悪用したりできるんじゃないのか?と、暫く考え込む。
衛生面に関しては、見た目、清潔にされていそうだったし、何より、私は今、色々と疲れているのだ。腕相撲やら、ギルドのツートップとの遭遇やら、まだ、今日は起きてから三時間も過ぎていないと言うのに、色々な事が起こり過ぎだ。登録を早く終わらせて、依頼を受け、それを達成し、宿のお布団ですやすや眠りたい。
そう考え、私は受付の女性の言う通り、針で指を刺す。
ぷす、と、針が指に突き刺さる。
受付の女性の言う通り、痛みはあまり無かった。
「そのまま三十秒くらい、刺し続けてねー」
そう言われ、三十秒後。
「はい、もう良いわよ。普通に抜いちゃってね」
「あらったりしないんれすか」
「針を戻せば、箱の中で勝手に洗ってくれるらしいわよ?いやぁ、本当に、この魔導具、一体どういう仕組みになってるのかしらね。皆目見当も付かないわぁ」
構造も分かっていない物を、使って良いのかと、かなりしんぱいになったが、今まで長い間使われ続けている物らしい。
「噂じゃ、この魔導具は、作られてから、もう三百年は経ってるらしいわよ?まぁ、ただの噂だから、信ぴょう性は無いんだけど……。どうにも、この魔導具、それくらいの年月、耐えられるくらいには頑丈みたいなのよねぇ。この前、うっかりコーヒー零しちゃったんだけど、全然問題は出てないし」
「……こーひー、こぼしちゃったんれすか」
「あら。つい口が滑っちゃったわ。この事は内緒にしてね?じゃないと私、クビになっちゃうかも」
「……」
そんなやり取りをしながら、受付の女性は、カウンターに戻り、何やら魔道具のボタンを、慣れた手つきで、かちゃかちゃ、と、押し、最後に、ったーん、と、キーを叩いて音を鳴らした。
すると。
魔導具が、おかしな挙動をし始める。
それは、小刻みに震え始めたと思えば、何やら音を鳴らしながら、カウンターの上を跳ね回り始めた。
がちゃがちゃがちゃがちゃ。
ぎぃ、ぎぃ、ぎぃ。
ごちゃん、ごちゃん、ごちゃん。
ちちちちちち。
ぴよ、ぴよ。
どがぁん!
そんな、ギャグ漫画のような効果音を大音量で垂れ流した後、魔導具から、ゔぃー、という音がして、何かが、かちゃり、と、落ちる音がした。
受付の女性は、その、落ちたらしい物を取り、私に渡した。
それは、文字が刻まれた、銅色の金属板だった。
どうやら、これが”冒険者カード”らしい。
記載されていた情報は、
——————————
名前 タスさん
職業 ?
ランク C 実績 なし
——————————
と、いった、シンプルな物だった。
「それが”冒険者カード”よ。書いてある事を簡単に説明するわね。名前はそのまま、あなたの名前の事ね。職業は、主に、自分の戦い方を表す表示ね。これは後から登録申請が出来るわ。ランクはF、F+、E、E+、D、D+、といった感じで続いていって、それがA+まで続いて、そして、最後にSランクで終わるわ。Sランクは、凄く強い人しかなれないランクよ。ちなみに、あなたは”推薦状”を受けていたから、Cランクからのスタートよ。ランクによってギルドカードの色が異なったりするのだけれど、これは実物を見た方が早いだろうから、あっちに置いてある見本カードの色を見て覚えてね。実績っていうのは、あなたが冒険者として成し遂げた事を表す表示。これは、達成したギルドの依頼なら、申請すれば表示させる事が出来るわ。まぁ、これくらいかしら。分かった?」
「はい」
「うん、それならオッケーよ。……はぁ、それにしてもこの魔導具、カードを作っている時は、やけにうるさいのよね……。音に何か秘密があるのかしら。本当に謎が多いわ。けれど、それを解いてこそ……うふふふ」
何やら、黒い笑みを浮かべて、受付の女性が笑っている。
それを暫く見つめていると、彼女はこちらを向いた。
「あらら。ごめんなさいね。そうそう。私は今、仕事中だったわね。うふふ、”冒険者カード”を持ったあなたは、これからは”冒険者”として認識されるわ。まぁ、見た目で人を決めつける人もいるから、苦労するでしょうけど、頑張ってね」
「はい」
「じゃあ、あっちの人が集まってる方に、依頼の紙が貼り付けてあるから、それを剥がして、ここに持ってきて頂戴。……あら、他の人が来ちゃったわ。もうちょっと話をしていたいところだけど、私は他の人の応対をしなきゃならないわ。それじゃあ、冒険者生活、頑張って」
「はい。たすかりました」
「いえいえー」
そうしてようやく、私の冒険者登録は終わった。
さて、早速、依頼を受けないと。推薦状のお陰で、登録料は支払わずに済んだが、装備なども整えないといけないとなると、銀貨一枚では足りないだろう。お金を稼がねば、そのうち宿にも泊まれなくなる
私は、暖かいお布団で眠るため、野宿をする羽目にならないために、依頼の貼り付けてある壁に、”冒険者”として向かうのだった。




