TASさん、腕相撲をする。
姿勢を低くして、丸太の上に、がん、と、辺りに響き渡る音を立てて、肘を置く黒光りマッスル男。
「勝負のルールは簡単!丸太に一本、線が書いてあるだろう?そこに肘を置け!そして、相手と腕を組んで、三つ数え終わったら、全力で相手の手の甲を丸太に叩きつけろ!肘が丸太の上から離れたり、両手を使ったりしたら、反則負けだ!足を踏みつけたり、攻撃したりといった、無粋な妨害行為も禁止する!まぁ、嬢ちゃんはそんな事する奴には見えないから、心配は要らないだろうな!はっはっはっ!」
「なんれ、そうおもうんれすか」
「俺の勘だ!はっはっはっ!”目”を見りゃ分かる!その”目”は”信念を持っている奴の目”だ!……ああ!言い忘れていた!妨害をしないのならば、”魔法”や”魔道具”の使用は大いにOKだ!持てる力の全てを、相手の腕にぶつけろ!さぁ、腕を置け!」
私は丸太に肘を置く。
がしり、と、黒光りマッスルは、私の手を握る。
大きい手だ。広げれば、私の顏より大きい。
相手は腰を屈めている筈なのに、私より大きい。
強い圧迫感が辺りに広がる。
いつしか、ざわざわ、としていた観客も、誰一人、口を開かなくなっていた。
「さあ、カウントを始めるぞ!準備はいいな?スリー!トゥー!ワン!ファイッ!」
そして。
———勝負が始まった、その瞬間。
がうん、と。
まるで、空気が震えるような、感覚を感じた。
「うぬぅ!やはり、思った通りだぁ!見た目に反して、トンデモない力を持ってやがるな!はっはっはァ!面白いっ!面白いぞっ!」
「…っ」
この人、強い。
”身体強化”を最大出力で発動しているからなんとか耐えきれているが、恐らく、長くは持たない。
と、そこまで考えた所で、
ぞわり、と、本能に訴えかけるような、嫌な予感。
私は即座に”肉体操作”を行う。
「ふんっ!」
再び、空気に走る、あの感覚。
腕には、強い衝撃。
だが……耐えきった。
「なにぃ!まだいけるのか?!はっはっはァ!良いじゃないか!もっと俺を楽しませろぃ!!」
黒光りマッチョはさらに力を強める。
まだ余裕がありそうだ。
どうやら力では、勝てそうにない。
なら———力比べは、もうやめだ。
私は“思考加速”を行い、”身体操作”をより強力に、より精密に—————そして。
「ぐおっ?!」
がっ、がががっ、と。
黒光りマッチョの、力を強くするタイミングを読み、その直前に、力を込めて、押して行く。そうすれば、相手のペースは崩せる。
力量が違うなら、相手のペースを崩し、これ以上力を入れさせない。
黒光りマッチョは、ペースを崩され、押されて行く。
「ぐぬぬぬ!これはぁ!はっはっはァ!俺もどうやら、本気を出さねばならぬようだな!」
ぬん、と、黒光りマッチョの筋肉が、隆起した。
———その瞬間から。
黒光りマッチョの力が、段違いのモノになった。
震える空気。私の腕が、悲鳴を挙げ始める。
圧倒的な力で、腕を押し返される。ああ、駄目だ。
私は、本能的に理解する。
この力の前には、小細工は通用しない、と。
———負けた。
そう思った。
しかし。
ばきばきばき、と、辺りに音が響いた。
「げぇっ!」
黒光りマッチョが、声を挙げる。
丸太に、三つ程の大きな亀裂が入ったのだ。
その亀裂は、大きく広がって行き、
次の瞬間。
ばぁん、と。
丸太は、木片となり、崩れて行った。
私と黒光りマッチョは、込めていた力の勢いで、がつん、と、肘を地面にぶつけた。
「「……」」
暫くの沈黙。
そして、黒光りマッチョが、口を開く。
「あちゃあ。これは、引き分けってやつか?」
そして、数秒後。
「「「うぉぉぉぉぉ!」」」
見物人から、歓声が沸いた。
引き分け……か。
まぁ、実質、私が全面的に負けたようなものだが、ルールはルールだ。
どちらも同時に、肘を丸太から離してしまった訳だから、引き分け、か。
……ところで、この場合、賞金は一体どうなるのだろうか。
歓声の中、私は、一人だけ、うーん、と、唸りながら、微妙な表情をしていたのだった。




