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TASさんは異世界にて自由に生きたいようです。  作者: 粗茶漬け
TASさんが流浪の旅を始めるようです
30/53

TASさん、腕相撲をする。

 姿勢を低くして、丸太の上に、がん、と、辺りに響き渡る音を立てて、肘を置く黒光りマッスル男。


「勝負のルールは簡単!丸太に一本、線が書いてあるだろう?そこに肘を置け!そして、相手と腕を組んで、三つ数え終わったら、全力で相手の手の甲を丸太に叩きつけろ!肘が丸太の上から離れたり、両手を使ったりしたら、反則負けだ!足を踏みつけたり、攻撃したりといった、無粋な妨害行為も禁止する!まぁ、嬢ちゃんはそんな事する奴には見えないから、心配は要らないだろうな!はっはっはっ!」


「なんれ、そうおもうんれすか」


「俺の勘だ!はっはっはっ!”目”を見りゃ分かる!その”目”は”信念を持っている奴の目”だ!……ああ!言い忘れていた!妨害をしないのならば、”魔法”や”魔道具”の使用は大いにOKだ!持てる力の全てを、相手の腕にぶつけろ!さぁ、腕を置け!」


 私は丸太に肘を置く。


 がしり、と、黒光りマッスルは、私の手を握る。


 大きい手だ。広げれば、私の顏より大きい。


 相手は腰を屈めている筈なのに、私より大きい。


 強い圧迫感(プレッシャー)が辺りに広がる。


 いつしか、ざわざわ、としていた観客も、誰一人、口を開かなくなっていた。


「さあ、カウントを始めるぞ!準備はいいな?スリー!トゥー!ワン!ファイッ!」


 そして。




 ———勝負が始まった、その瞬間。



 ()()()、と。



 まるで、空気が震えるような、感覚を感じた。


「うぬぅ!やはり、思った通りだぁ!見た目に反して、トンデモない力を持ってやがるな!はっはっはァ!面白いっ!面白いぞっ!」


「…っ」


 この人、強い。


 ”身体強化”を最大出力(フルスロットル)で発動しているからなんとか耐えきれているが、恐らく、長くは持たない。


 と、そこまで考えた所で、


 ぞわり、と、本能に訴えかけるような、嫌な予感。


 私は即座に”肉体操作”を行う。


「ふんっ!」


 再び、空気に走る、あの感覚。


 腕には、強い衝撃。


 だが……耐えきった。


「なにぃ!まだいけるのか?!はっはっはァ!良いじゃないか!もっと俺を楽しませろぃ!!」


 黒光りマッチョはさらに力を強める。


 まだ余裕がありそうだ。


 どうやら力では、勝てそうにない。


 なら———力比べは、もうやめだ。


 私は“思考加速”を行い、”身体操作”をより強力に、より精密に—————そして。


「ぐおっ?!」


 がっ、がががっ、と。


 黒光りマッチョの、力を強くするタイミングを読み、()()()()に、力を込めて、押して行く。そうすれば、相手のペースは崩せる。


 力量が違うなら、相手のペースを崩し、これ以上()()()()()()()()


 黒光りマッチョは、ペースを崩され、押されて行く。


「ぐぬぬぬ!これはぁ!はっはっはァ!俺もどうやら、本気を出さねばならぬようだな!」


 ぬん、と、黒光りマッチョの筋肉が、隆起した。


 ———その瞬間から。


 黒光りマッチョの力が、段違いのモノになった。


 震える空気。私の腕が、悲鳴を挙げ始める。


 圧倒的な力で、腕を押し返される。ああ、駄目だ。


 私は、本能的に理解する。


 この力の前には、小細工は通用しない、と。


 ———負けた。


 そう思った。


 しかし。


 ()()()()()()、と、辺りに音が響いた。


「げぇっ!」


 黒光りマッチョが、声を挙げる。


 丸太に、三つ程の大きな亀裂が入ったのだ。


 その亀裂は、大きく広がって行き、


 次の瞬間。


 ()()()、と。


 丸太は、木片となり、崩れて行った。


 私と黒光りマッチョは、込めていた力の勢いで、がつん、と、肘を地面にぶつけた。


「「……」」


 暫くの沈黙。


 そして、黒光りマッチョが、口を開く。


「あちゃあ。これは、引き分けってやつか?」


 そして、数秒後。


「「「うぉぉぉぉぉ!」」」


 見物人(観客)から、歓声が沸いた。


 引き分け……か。


 まぁ、実質、私が全面的に負けたようなものだが、ルールはルールだ。


 どちらも同時に、肘を丸太から離してしまった訳だから、引き分け、か。


 ……ところで、この場合、賞金は一体どうなるのだろうか。


 歓声の中、私は、一人だけ、うーん、と、唸りながら、微妙な表情をしていたのだった。

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