TASさん、黒光りマッチョに出会う。
がうっ!がうっ、がうっ!
脳内に鳴り響く、大型犬の鳴き声。
「ほわっつ?!」
私は、ばちっ、と、大きく目を見開き、がばっ、と、被った布団を掴み、右の方に放り投げ、大きく後ろに退避行動をする。
がつん。
私は壁に、大きな凹みを作った。
ベッドの上で、頭を抱えて蹲る。
頭を強く打ったらしい。非常に痛い。そうしている間にも、犬の鳴き声は止まらない。
……ああ、”セルフ目覚まし時計”か。そういえばセットしてたっけ。
私は暫く後頭部の痛みに悶絶した後、なんとかベッドに座り、両手で頬を、ぺしり、と、平手で叩く。
音はようやく止まった。
その後、頭頂部を右手の握り拳でこつん、と、叩きながら、私は考える。
ーーーもう、掛けるのやめよう。このアラーム。
まぁ、森の中にいる時とか、気が狂ったりしていた時は、結構役に立ったのだが、私は正気な状態である限り、規則正しく、一定の時間で目覚める事が出来る。今は必要ない。
気が狂っている時とか、必要な時だけ、使う事にする。
というか、スリリングな目覚めにも程がある。誰がこんな”定形”作りやがったのだろうか。責任者を出せ。ぶん殴ってやる。あ、私か。
私は痛む後頭部に”回復魔法”を掛けて、ベッドから降りる。
ーーーここはとある街の宿屋の一室だ。
街に着いた後、私達は門番の人に宿屋の場所を聞き、ここを勧められたので、ここに泊まる事にした。
”姫様のような高貴なお人がこんな平民の止まるような宿に泊まってはなりません!”とか言って、ぎゃぁぎゃぁ、と、騒いでいる人が若干一名程いたが、バイロウさんが”金が無い”と一言言って、黙らせてくれた。ナイスプレーでした、バイロウさん。
そして、宿併設の食堂で遅めの夕食を取った後、一夜を明かし、今に至る。
私は、私が寝ていたベットとは違う、もう一つのベッドに近寄り、布団の上から、そこに寝ている人を起こそうと揺らす。
ゆさ、ゆさ。
「ぅー」
起きない。
私は揺らす勢いを強くした。
ゆっさ、ゆっさ。
「ぅー」
まだ起きない。
私は布団を引き剥がし、そこに表れた下着姿のアーレンさんの顔を、平手で叩く。
ぺちり。
「ぅー」
何やら、むっ、とした表情になっているが、それでも、アーレンさんが起きる気配は無い。
うーん。
……まぁ、それだけ疲れている、という事だろう。
無理に起こす必要もないか。
私はそう考え、私は引き剥がした布団を、そっ、と、掛け直してあげた。
アーレンさんは幸せそうな、笑顔を浮かべた。
私はどこか、ほっこりした気分になった。
これが母性か?
◆◆◆◆◆
私は部屋を出て、ドアを閉めた直後、私の部屋から二部屋ぶん右のドアが開いた。
「あ、おはようございますー。タスさんも、今起きた所ですかー?」
そこから出てきたのは、一人部屋に泊まっている、ペルシカさん。
「はい、そうれす」
守られるべき対象が一人部屋に泊まっていて良いのだろうか?と、ペルシカさんに聞いてみると、
「あぁ、それなら、バイロウさんとカイルさんが、私の隣の部屋を、挟むように泊まっていますから、何かあれば、すぐ気付いてくれますので、大丈夫です。それに、男の人と同じ部屋に泊まるのは、流石に、その、あれですし」
成る程。だが、それでも、アーレンさんがいるのではないだろうか、と、聞いてみると、
「んー。彼女、ずっと馬車を移動させているので、多分疲れているんですよね……。疲れて寝ている時の彼女は、起こそうとしても起きませんし……。ほら、彼女、眠っている時は、すごく幸せそうな表情をしているんです……。きっと、働き詰めだから……」
「なるほど、れす」
私は理解した。
「あ、一緒に朝ご飯、食べに行きます?」
「いきまふ」
私はペルシカさんと一緒に、朝食を食べに行くのであった。
◆◆◆◆◆
宿屋併設の食堂で、朝食を食べながら、仕事が見つかるような場所は無いか、と、ペルシカさんに聞いてみた。
そう。仕事。
旅をするにあたって、日銭を稼ぐ事は重要だ。一ヶ月ほど前から旅をしてきたペルシカさんたちなら、いい日銭稼ぎを知っているのではないか、と思ったのだ。
お金がなければ、食事が出来ないし、宿に泊まることもできない。
それは困る。自給自足が出来ないわけではないが、それは最終手段だ。
自分で料理をするにしても、調味料などがなければ、味気のないものになるし、何よりも、もう、穴を掘ってそこに埋まるとか、そんな野宿を毎日繰り返すのは嫌だ。
たまには宿屋のベッドで寝たいのだ。その為にも、お金は必要である。
そう言うと、ペルシかさんは、”冒険者ギルド”という施設を紹介してくれた。
そこでは、一日で終わるような短期間の依頼や、何日か遠征をするような依頼、魔物を討伐するような、危険な依頼から、屋敷の広い庭の雑草刈りのように、安全な依頼まで、多種多様な依頼を仲介しているのだそう。
まぁ、ゲームやライトノベルでよくある類の施設だ。
私はまず、そこに行くことにした。
その途中の道に、何やら、わらわら、と、数十人ほどが、道の壁辺りに半円のように集まって、騒いでいる場所があった。
私は人混みの間を、ひょい、ひょい、と、通り抜けて行く。こういう時、背が低いと便利だ。いや、正確に動かないと、人の脚の間などを、軽くは抜けられないのだが、私はTASさんである。全く問題はない。
そして、やがて人混みの先頭辺りに出る。
そこには、輪切りにされて、縦に置かれた木の丸太と、皮膚が黒光りしている、筋肉ムキムキのマッスル男。
「へーいへいへい!お前ら、ヘボすぎるぞ!どんどんかかって来いやぁ!この俺様と腕相撲をして勝てたら、大銀貨を一枚やるぜ!」
おお、丁度いい。
ペルシカさんから、冒険者ギルドの登録には、登録料が必要だと聞いている。
全くお金を持っていない人の為に、登録の時に、前借りが出来るらしいが、あまり借金などはしたくない。
ペルシカさんが、”私が出しましょうか”とも言ってくれたが、それも断った。
自分の旅の日銭くらい、自分で稼いでいかないと、この先やっていけない。
よし。この腕相撲、挑戦しよう。
私は、前へと出る。
「ほう?次の相手は嬢ちゃんか?はっはっはっ、面白い!参加費は持ってるか?」
あ。参加費が必要なのか。なら無理だな。
私は回れ右をして、人混みの方に戻ろうとするが、
「待ってくれ、嬢ちゃん!何事にも恐れずぶつかって行く、その挑戦者の心意気、気に入った!参加費無しで、勝負してやろう!」
「まじれすか」
「おう、マジだとも。それに、嬢ちゃんからは”強者の気配”がするからな……!はっはっはっ!熱い勝負を楽しめそうだ……!」
そう言って、グーサインをしながら、ニッ、と、白い歯を見せて、その男は笑った。
強者の気配……。私から何か、感じ取ったのだろうか?
まぁ、いい。参加料無しなら、この勝負、やらない理由は無い。絶対勝って、私の寒い懐を、潤してみせる。
私は丸太の前に戻る。
こうして私は、目の前の黒光りマッスル男と、腕相撲勝負をする事となった。
これから出てくる主要な男人物の半分位が
ムキムキマッチョマンになりそうな気がする




