TASさん、"狂気"を理解する。
説明回です(´・ω・`)ます
目覚め。
私が起きてから、先ず目にしたものは、木の枠組みに、白い布を貼り付けた、簡素な天井だった。
がばり、と、私は上体を起こし、周りを見る。ここはどこだ?
私の周りには、天井と同じ様な作りの白い布の壁。あちこちが破けており、所々に赤い染み。
床は木製。研磨加工がされているのだろう、触ってみると、つるつるとしていた。
膝元には、白くて綺麗な毛布。あったかくて、ふかふか。ずっとくるまっていたくなる。……いかんいかん。状況を把握しないと。
まぁ、ぼんやりと、予想はついている。恐らく、ここは馬車の中だ。
壁の赤い染みは、恐らく私が殺した盗賊の血だろう。派手にやったからなぁ。私は一体何やってるんだか。
ああ、鮮明に、思い出してきた。
昨日、盗賊に襲われていた馬車を助けて、ご飯をせしめたのだったか。うん、そうだった。
私はーーーまた、あの”狂気的な空腹”に、襲われたのか。
正気の沙汰ではなかった。
なんの恨みもない盗賊に対して、とんでもない殺し方をしたものだ。ナイフで頭を破裂させたり、指で目玉潰して、そのまま脳天かき混ぜるとか、悍ましいな。いや、まぁ、私がやったのだが。
被害者A(青年)もビビるに決まってる。チビっていてもおかしくないだろう。いや、いくらなんでもそれは無いか。
まぁ、それは置いといて。
今回の事で、ようやく、あの”狂気的な空腹”の原因の推測が付いた。
———あの空腹の原因は、主に、”探知機もどきの所為だ、と。そう、私は結論づけた。
いくら私の脳内処理能力が高いといっても、それには限界がある。
私のステータスの、INTの項目。
—————
INT-2123(通常時)
—————
"(通常時)"。私はこの意味について、こんな仮説を立て、実証した。
”(通常時)”のINT。これは、私の肉体が”通常”な状態で演算を行える、ギリギリ限界の数値である、と。
結果。その考えは当たっていた。
INTの値を超えるか超えないか、そんなギリギリの演算を行うと、酷い頭痛に見舞われ、鼻血が止まらなくなる。まぁ、巨木で訓練をしてからは、そこまで酷い症状は出ないようになっていたが。
なら、基準を大幅に超える速度や量の演算を行うと、どうなるか。
恐らく、危険な目に遭うだろう、と考え、検証するのをやめておいた。なので、それについては分からなかった。
だが。もう分かった。痛い程に、理解した。
“それ”をすると、”狂ってしまう”。
“処理能力”を”機械的”に高める代わりに、私の”精神”が、”人としての本能”に囚われる。
人の三大欲。”食欲”、”性欲”、”睡眠欲”。
まず、私の精神には例外がある。三大欲の一つが、ぽっかり、と、欠けているのだ。それは”性欲"である。
ネット上にあった知識で、私の脳に圧縮されて保存されているものの中には、性的な知識やら成人向けの本やらが、少なからず貯蔵されている。
その欲に少し興味を持って、色々読み漁ってみたのだが、全く”性欲”といえるそれは、私の精神には湧かなかった。まぁ、そういった人格なのだろう。私は。人間には少なからず、性欲を全く持たない人がいるらしいし、私もそういった分類なのだ。多分。
結論を述べると、私には性欲が無いらしかった。
そして、睡眠欲。これは私にも普通にある。……というか、これは生理的な現象だ。脳が疲れると、眠くなる。だから、寝る。
修行を初めて最初の頃は、高速な演算に耐え切れず、気絶……所謂、”寝落ち”というものを経験したりもした。が、それについては、どうやら耐性が付いたらしく、今では制御が効く。
そう。制御が効くのだ。無理矢理な、制御が。
本来は休まないといけない。なのに、無理矢理それを叩き起こして使用する。
睡眠欲を押さえつけすぎると、段々とそれに代わって、別の欲が湧く。
私には性欲が無い。そのため発生する過剰な欲も、それらが全て”食欲”へと変換されるようで。
私は”理性”を”食欲”に喰われる様な形で、段々と、狂っていく。
———"探知機もどき"。それを使用する事自体には、問題はない。私の肉体的な”脳”の処理能力の受容量で処理は出来る。
が。それと並行して”肉体操作”の”脳から発せられる電気信号の解析”や、”思考加速”といった、脳に負担を掛けまくる行動を同時に重ねて処理してしまったり、探知機もどきを余りにも長時間使い続けた場合、それは”通常時”のINTを超える働きが必要となる。
私は、五日間もの時間、探知機もどきを使い続けていた。眠っている間も、定型として、常時発動させていた。
そこで、私は無意識の内に、睡眠欲を押さえつけ始めた。
すると。代わりに他の”欲”が強くなる。
本来なら”性欲”と”食欲”の二つの欲に分割されるのだが、私には”性欲”という”欲”を根本から持っていない為、その分までもが”食欲”に加算。
結果、私は発狂し、後は語るまでもない。
兎の脳天を破裂させたり、盗賊を残虐な殺し方で殺したり。
一時的な”狂人”の誕生である。
……残虐な殺し方で思い出した。確か、私は指を盗賊の眼窩に突っ込み、目玉を潰し、脳をかき混ぜたりしていたはずだ。
私は、目覚めた後、シンキングな人のポーズを、取っていたりしたのだが。
他にも、先程まで、親指を口に咥えていたりしたのだが。
あれ、つまり、盗賊の大脳が。
……うそん。
私は指を、恐る恐る、目の前に動かす。
綺麗な指先が、私の目に映し出される。
……よかった。爪の間に盗賊の脳天は挟まっていない。それどころか、私の身体には、大量に浴びた筈の返り血が、一滴たりとも付いていなかった。恐らく、私が助けた人達が綺麗にしてくれたのだろう。いやはや、良かった。本当に良かった。ナイスプレー、被害者さんたち。
よくよく私の姿を見てみると、服も変わっていた。ただのボロ布から、普通の布の服とズボンを、私は着ていた。サイズが大きいのでぶかぶかだが、ボロ布よりはマシである。ありがたい。助けた人達がくれたのだろうか。
ラシーヌさんから服を持っていく様に言われて、何着か服を用意されていたな。ほかにも色々渡されていたのだが、巨木から出て落下する際に、全て落としてしまっていたので、すっかり忘れていた。ああ、服。勿体無いが、諦めるしか無いだろう。というか、やはり、気を付けていないと、物忘れはしてしまうようだ。注意しないと。
まぁ、それはともかく。
私は、昨日、”狂人”な状態で、何の罪もない”被害者さんたち”に会った訳で。
私は、物凄い形相で、私の身体を綺麗にしてくれた”被害者さんたち”を睨みつけ、食料をせがんだ訳で。
私は、私に服までくれたらしい、”被害者さん達”の作ったご飯を、白眼を剥きながら、獣の様に、喰い散らかした訳でーーー
◆◆◆◆◆
私が馬車から降りて、まずした事は、地面に頭を擦り付け、最大限の謝罪の意思を、"私に対する恐怖"という精神的な被害を受けた"被害者さんたち"に伝えることであった。




