TASさん、盗賊を狩る。
踝の辺りほどの、背の低い草が、見渡す限り一面に広がっている。
空に目を向ける。眩しい光が目に入った。私は手で目の辺りに影を作り、少しぼやけた視界のピントを合わせる。
ハッキリした視界に映る、雲一つ無い、青空。
五日ぶりの太陽。五日ぶりの大空。
五日前と違うのは、地に足をつけているという事。
ああ、ようやく旅の大一歩を、踏み終えたのだと、そんな気がした。
しかし。ここからは未知の場所。
巨木の頂上から見える場所の、その先。
警戒を解くのは早計だ。気を引き締めないと。
下手すれば、森にいた蛇以上の化け物が出てくるかもしれない。見通しは良いが、この草原が、あの森以上に危険な人外魔境のような地帯である、という可能性もあるのだから。
私は、周りを警戒しながら、草原を進む。
昼は歩みを止める事なく進み、日が暮れた直後に、地面に穴を掘って寝た。
◆◆◆◆◆
"探知機もどき"に反応。
六百七十四メートル先に、複数の影。
形は六つ。
大きな影が一つ。小さな人形の影が六つ。そのうち二つの影は、地面に倒れている。
立っている四つの影。そのうち三つが何かを持っている。流石に距離がある。反射してくる音波にノイズが掛かっていて、よく分からない。
が。想像はつく。恐らく、戦っているのだろう。
どうしようか。逃げた方がいいか?
…いや、あの人形の影が、人間だったとしたら。
もしかすると、街などの場所を知っているかもしれない。もしかすると、食料とか、分けてくれるかも。
そう。私は今、お腹が空いているのだ。狂気的なモノではないが、物凄くお腹が空いている。
それは何故か。この草原、何も居ないのだ。探知機もどきに引っかかる生物の影が、一つもない。
このままでは、またあの狂気に私を蝕まれてしまう可能性がある。早く腹を満たさねば。
そうと決まれば善は急げ、だ。
私は思い切り地面を踏み、影に向かって、走り始める。
ーーーのちに気付いたのだが、私は恐らく、この時にはもう、狂気に蝕まれ始めていた。
私は、腹を満たすという事ばかり、考えていたのだったーーー
標的まで、残り四百メートル。
何やら雑音が入り始める。
次第に雑音は大きくなる。どうやら、これは人の会話のようだ。
三百メートル近付いた辺りで、少しづつ鮮明に会話が聞こえるようになる。
「…へ、お前ら…う…終いなんだよォ」
標的まで、残り二百メートル。会話が鮮明に聞こえるようになる。
大きな影が何なのか、見えてきた。それは、馬車だった。
「さっさと、そこの女を寄越しなァ!そーすりゃ、あんたの命だけは助けてやるぜェ?」
…どうやら、あの馬車の乗員が、盗賊に襲われている、という、構図のようだ。
まぁ、見るからに、悪役は盗賊だな。よし。盗賊をぶっ殺そう。そして、馬車の乗員から食事をせしめるのだ。あんな大きな馬車なんだ、食料だって積み込んでいるに違いない。
距離、百メートル。盗賊に折られたらしい剣をもった人が、驚いた顔をする。
それを不審に思ったらしい盗賊(小柄)が、こちらを向いた。
そしてこう叫ぶ。
「親分!あそこ!あそこを見てくだせぇ!」
「うぉぉっ!?何だ、ケビン!?モンスターか!?」
「いや、どうやら人のようでやんす!ボロボロの灰色マントを着てるでやんす!あれは…子供?!」
チッ。気付かれた。何をやっているんだ、被害者A。
まぁいい。私は兎に角、奴らをぶっ殺して、馬車の中の食糧を被害者AとBから貰うのだ。
私は腰に付けたナイフを抜き取り、投げる。
ひゅおん、と、風切り音を立て、真っ直ぐに飛んでいくナイフ。
その先には。盗賊(小柄)の頭。
ばちょん!と、音を立て、盗賊(小柄)の頭が破裂する。盗賊(小柄)は真正面から飛んで来るナイフだと言うのに、反応すらしなかった。間抜けだったのだろうか。まあいい。
もう一つの標的まで、残り二十五メートル、十メートル、五メートル。
私は勢いに乗ったまま、盗賊の目の前に飛び出し、胸に飛び蹴りを喰らわせる。
盗賊(大柄)は吹っ飛び、馬車に激突。
「ぐぁ、かひゅ、げ、はっ」
口からは血。胸には、飛び出していた馬車の柱が生えていた。
飛び蹴りで勢いを殺した私は、また、足を思い切り踏み込み、盗賊(大柄)に向かって突っ込む。
そして、二本の指を、左右の眼球に一本づつ、ぶち込む。
「ぇあ…あ?、あ…ぇ?…あ…」
弾ける眼球。私は突き刺さった二本の指を動かし、盗賊(大柄)の脳をかき混ぜる。
「ぁ!ぁぇぁ…ぁァ…」
盗賊(大柄)は何度か身体を痙攣させた後、心臓を止めた。
私は二本の指を、盗賊(大柄)だったモノから、指を引き抜く。
下を向いた、盗賊(大柄)の死体の頭。二つの眼窩からは、かき混ぜられた前頭葉と脳漿が、べしゃべしゃ、と、音を立てて零れ落ちた。
私は腕を思い切り振って、指先についた汚物を、馬車の壁に飛ばす。ああ。爪の中に少し入ってる。汚い。手を洗いたい。
私は被害者AとBの方を向く。
被害者Aは折れた剣を持ち、高価そうな純白の装備に身を包んだ、若い男の騎士(?)。
被害者Bは綺麗なドレスに身を包んだ、美人さんな女性。
被害者CとDは、大きな怪我を負って蹲っている。死んではいないようだ。別にどうでもいいが。
「どーも、れす」
私は頭をポリポリと書きながら腰を曲げて挨拶をする。
被害者Aは、私のことを恐れているようで、
「……ば、バケモノ……」
と言って、私に折れた剣を向ける。
親近感が湧くように、謙った姿勢をしてみたのだが…意味が無かったか。
そう思っていると、被害者Bが騎士の前に、手を出して、
「剣を下げて」
と、一言。
「しかし!」
「いいから」
「ぐっ……」
騎士は、折れた剣を、腰につけた鞘に戻す。
「この度は、助けて頂いて有難うございます。何かお礼として、私たちに出来る事があれば「たべものをくらさい」
「貴様!姫様のお言葉を遮るとは何事だ!」
うるさいな。
「いいからはやく、たべものをくらさい」
早く。食べ物を。早く。
「ひっ!」
被害者Aが恐怖に染まった表情を浮かべる。
何かあったのだろうか。どうでもいいから食べ物を。早く。
「分かりました。すぐに食事を作りますので、どうか、怒りをお収めください」
…私は怒ってなんかいないが、まあ、食事が出来るならそれでいいか。
私はこうして、安定した食糧調達経路の入手に成功した。




