TASさん、一時の別れを告げる。
いつも前書きが改稿の報告で凄くもっさりしていますので、今回から報告しない事にしますた(´・ω・`)
狼との戦いの翌日の早朝。
私は、ラシーヌ宅の出口の扉の前に立っていた。
後ろを振り返り、ラシーヌさんの方を向く。
ラシーヌさんは、どこか寂しそうな表情をしている。
「行ってしまうのね、タスさん…」
ラシーヌさん。
私は、この人が居なければ、きっと今頃死んでいただろう。
どこかの人が中途半端に召喚を失敗させた所為で、私はこの巨木の頂上へと呼び出された。
その時の状況も、ここに呼ばれた訳も、幸いに女神様の説明を受けられたお陰で知っていた。
自分の経歴も、自分の正体も、召喚後、直ぐに思い出す事が出来た。
だが。この人が居なければ、私は決定的な死を迎えていた。
オークの追っ手からは、ステータスのAGIの値がたまたま最初から高かったから、あそこまで逃げ続けられたが、ラシーヌさんの助けがなければ、私は疲労で足を止めてしまい、オークに殺されていただろう。
…いや、もっと酷い事になっていたかもしれない。オークの住処に連れて行かれ、一生子を産み続けるだけのために生かされる、そんな奴隷の様な生活をさせられていたのかもしれない。まぁ、そんな生活は、死んでいる事と同義だと私は思う。
私がそんな事を考えていると、想像そのままのシーンが頭の中に構築される。高解像度で、ほぼリアルに近い3D映像である。おまけに音声付きだった。私は直ぐに映像にモザイクを掛け、音声をピー音に切り替える。おぇ、吐き気がする。
私は両手の平でほっぺを、ぺち、と軽く叩いて、脳内の思考をリセットした。
…話が変わるが、先程のように、機械的な脳の処理速度が、私という人格を無視するかのように、勝手に働く事が偶にある。
まるで、私が私でないかのような、そんな感覚を感じる事がたまにあるのだ。
機械的な意識に、人間的な意識が引き摺られるような、感覚。
もしかすると、私は多重人格なのかもしれない。旅に出たら、一度病院に行った方がいいな。この世界にそんな施設が有るのかは知らないが。
話を戻す。
…旅に———出る。
そう。私は旅に出る。
その行動は、命の恩人であるラシーヌさんに寂しさを与えてしまうだろう。だが、それでも、私は世界を見て回りたい。
ラシーヌさんには幾ら感謝してもし切れない程に、恩を受けた。恩を返すのも忘れない。ラシーヌさんの身に何かあったなら、私は直ぐに巨木へと戻って来るだろう。ラシーヌさんの盾になって死ぬのなら、私は喜んでそうするだろう。いや、流石に喜びはしないか。だが、嫌だとは全く思わない。
それでも。それでも、私はーーー
「…やっぱりタスさんは、なんだか、不思議な子ね。あんまり表情を見せないから、感情の起伏が小さいのかなぁ、って、一緒に暮らし初めて最初の頃は、そう思ってた。でも、笑う時は笑うし、怒った時は、むすっとする。さっきも、何故か急に青褪めた顔をしたりしたし、ほら、今も…」
私は気付けば、涙を流していた。
それに釣られるかのように。
先程まで我慢していたものが溢れ出るかの様に。
ラシーヌさんもぼろぼろ、と、涙を流し始めた。
「私はね…タスさんがここに来てくれて、本当に良かった、と思ってるわぁ…ここ二百年、誰とも会って居なくて、…何だか、心が空っぽになっていくみたいで…それを、怖いって、そんな事すら、思えなくて…タスさんが、オークに追われてた時、私はあなたの事を、その時は知らなかったけど、それでも、とっても焦って…」
ラシーヌさんは、ぐず、ぐず、と泣きながら、そんな事を語った。
その姿は、どこか幼い子供の様で。普段のお姉さんなラシーヌさんからは、想像出来ないほどに、弱々しかった。
「うぅ、だ、からぁ。また、ここに来てくれる、よね…ぐずっ、だまには、帰って、きてくれる、よねぇ…わたしたぢ、ともだち、だよね…」
私は、泣きながら、即答した。断言した。
ただ一言、勿論です、と。
そう答えると、ラシーヌさんは私に飛び掛かってきた。
いつもなら避ける所を、私は、避けずに、ラシーヌさんに抱き着かれた。
私は倒れ込んで、尻餅をついた。
そのまま、ラシーヌさんは、私の胸の辺りで、泣き噦った。
私は、ラシーヌさんの頭を、ぽんぽん、としながら、自分でも、涙を流し続けた。
どれだけの時間泣いていたのか、思い出せない。
ラシーヌさんは、童心に還ったように泣き続け。
私は人生で初めて号泣した。




