TASさん、黒歴史を作る。
投稿直後 改稿
一部の単語を変更し、文章を一文追加しました
2017/1/22 改稿
文章の一部を変更し、サブタイを変更しました
黒歴史が出来る→黒歴史を作る
2017/1/23 改稿
文章の一部を修正しました
「ふぅー。気持ち良かったわ……。やっぱりお風呂に入るとスッキリするわぁ……ねぇ、そうでしょう?タスさん」
「そうれすね……おふろはいいものれす……」
「あら、お風呂、気に入っちゃった?うふふ、此処にいる間は毎日入れるからねー。———どう?やっぱり、ずっと、此処に住む気は無い?」
「……それはれきないれす」
私は、自分の夢に気付いた。
世界を見て回りたい。
ただの情報では満足できない。自分の目で確かめ、それに触れたいのだ。
焦ってばかりじゃ、得られないモノ。
“充実した現実”を、私は求める。
楽しい事ばかりでは無いだろう。
辛い事も、悲しい事も、私はその目に焼き付ける事になるだろう。
だが。それを求める事こそが、私の望む夢なのだ。
急いだりはしない。
私は、この人生、好きにやらせて貰う。
何せ私は、もう、自由なのだから。
「———れすから、わたしはいつか、ここをはなれます」
「……そう。残念だけど、仕方ないわねぇ……でもね、タスさん」
「なんれすか」
「早く服を着なさい。風邪引いちゃうわよぉ?」
……。
◆◆◆◆◆
「ねぇタスさん……そんな恥ずかしがらなくても良いのよ?誰だって失敗はあるんだから……」
「う、うう、そうれすか?」
「そうよぉ?脱衣所で着替えないで、タオルも巻かずにすっ裸で自分の夢について熱く語るなんて、誰だって、人生で一度くらいは……いや、そうそうないわよねぇ……ぷぷっ」
「うううぅ、ううぅ」
私は恥ずかしさの余り、顔を紅潮させる。
ラシーヌさんは口を押さえて笑いを堪えているようだ。
……堪え切れていないようで、クスクスと小声で笑っている。
それを聞いて、私はより恥ずかしくなり、私は下を向いて、泣きそうになる。
それを見て、ラシーヌさんは焦ったらしく、あたふたしながら私の事を慰めた。……黒歴史が一つ出来てしまった。
その後、今回の事を誰にもバラさない事を約束して、私は一旦落ち着いた。
そんなこんなでいつの間にか夜になってしまっていた為、魔法の練習は翌日する事となった。
その夜は、ラシーヌさんと一緒のベッドで寝た。
ラシーヌさんが、先程の黒歴史を黙っていてくれる代わりに提示した対価だ。
今日から私が外に出るまでは毎日、抱き枕になって欲しいとの事。
顔を胸に押しつけるように抱いてくるので、なかなか息苦しかった。これが毎日続くのはなかなかキツイような気もするが、黒歴史を封印する為だ。背に腹は変えられなかった。
そして、翌日。
ラシーヌ宅の扉を開ける。
すると、巨木の真ん中に位置する大樹に空間が繋がる。
健康志向のラシーヌさんは、いつもこの大樹から目的地まで、歩いて行く。
そこから28分15秒歩き、着いた場所は、大きな湖のほとりだった。
「さぁーて、着いたわよぉー!素晴らしく良い天気ねぇー。……いつも変わらず晴れだけど」
巨木の中は、常に晴れている。
雨などは一滴も降らない。風は少しばかり吹いているらしいのだが、木々の葉っぱすら揺らさないレベルで弱い風なので、ほぼ無いと言って良い。
雨が無いのにどうして湖があるのか。というか、雨が降らないのに何故森の木々は普通に育つのか。聞いて見たところ、神樹”ブランシュ”のエネルギーが擬似神域内に供給されている為、それが神域内で水に変換されているのだとか。……どうやらこの巨木は神樹”ブランシュ”という名前らしい事を、ラシーヌさんのステータスを聞いた時から知ってはいたが、呼称を変えるのは面倒なので、これからも神樹”ブランシュ”の事は巨木と称する。こちらの方が呼びやすくていい。
「神樹の妖精っていう種族は、本当は『風』だけじゃなくて、『水』の属性魔法も得意なのだけれど……私の場合、固有技能の所為で、使える属性魔法が『風』だけに制限されちゃうから、神樹内の水供給問題を解決するのには、かなり手間取ったのよぉー?固有技能って、デメリットが大きい事が大多数なのよねぇ……そう思うと、”風の申し子”持ってなくても、全く問題無い気がしてきたわぁ……それどころか……無かった方が……」
ラシーヌさんが虚ろな目で遠くを見つめ始める。
その目には何を写しているのだろうか……少し気になったが、これ以上彼女に虚ろな目で遠くを見させてはいけない気がしたので、私はジャンプして手を伸ばし、ラシーヌさんの視線を遮った。
「……ええ、そうねぇ。今日はあなたに魔法を教える為に此処まで来たんだったわねぇ。ええ!お姉さん、張り切っちゃうわよぉー!」
……正気に戻ってくれたようだ。テンションの起伏が激しい人だ。さっきまでこの世の全てに絶望したような目をしていたのに、もう元気になった。
「よく考えてみれば、タスさんはいつか此処を出て行ってしまうから、魔法を教えても結局私は魔石狩りには行かないといけないのよね……まあいいわ。私の可愛いタスさんの為だもの。魔法なんていっくらでも教えちゃうわ!」
いつから私はラシーヌさんのモノになったのだろうか。まあ、居候させて貰っている立場なので、文句は言わない。
「タスさんは可愛いから、外に出たら、沢山の面倒事が起きると思うのよぉ。もしかしたら、誘拐されちゃったりするかも……そんな事する奴は私が直々に叩きのめしてやりたいのだけど、私は神樹から離れるわけには行かないのよねぇ……」
「そんなー。かわいいらなんて、てれちゃいまふよー」
私は真顔で、明後日の方向を向きながら、声に全く抑揚を付けずに棒読みでそう言った。
「ええ、そうよぉ!タスさん、あなたはとーっても可愛くて、ものすんごくラブリーなのよぉ!だから、自衛手段が必要なのよぉー。その為にも、私はタスさんに魔法を教えるのぉ。くれぐれも、危ないから使用方法には注意するのよぉ?じゃないと、タスさん自身が傷付いちゃうかもしれないから」
どうやら、私が可愛いというのはラシーヌさんの心の中で確定事項のようだ。明後日の方向を向いて、更に棒読みで返事を返したのに、そのままの意味で受け取ってしまった……。ーーーそんなに私は可愛いのだろうか。お風呂場などに鏡が無かったので、私は私の見た目について知らない。ちょっと気になったので、自分の身体を全体的に手で触り、感触などから自分がどんな顔立ちをしているのか、脳内で演算してみた。髪色などは、見えているのでそのまんま着色する。すると、一人のベージュ色に近い茶髪の少女、というか、幼女が目の前に現れる。
……正直、自分なので、これくらいの感想が思い浮かばない。なんというか、しっくり来すぎて、可愛いとも綺麗だともなんとも思えないのだが……
「わかりました。ちゅういしまふ」
まぁ、ラシーヌさんが言うのだし、このまま外に出ると、不審者に攫われてしまう程度には、可愛いのだろう。多分。なら、魔法は覚えた方がいいだろう。旅路にオークとか、そういう化け物がいるかもしれないし。やっぱり力は必要、か。
斯くして、私の魔法の特訓は始まったのだった。




