大妖様とのお買い物
ナツがあやかしの世界に来てから一週間。
ナツは、あやかしが人間と大きくは変わらない生活をしていると知った。
食事、洗濯、掃除の勝手もナツが福田家でやってきた通りだ。
ナツは、昼間、ユキが仕事の間は時間を持て余してしまうので、ユキに頼み込み、食事の用意と洗濯を任せてもらった。
その甲斐あって、マツとユユとは、仲良くなった。
マツとユユには、人間界のお菓子のことをいろいろ話した。
昔、母が買ってくれた和菓子の話をすると「食べてみたいわー!」とマツとユユが喜んだのだ。
「いつか、和菓子をこの目で見てみたいわ〜ってごめんなさい。あやかしの世界のことも、ナツ様に知っていただかなくてはよね」
「そうよ! 私たちばっかり教えてもらっちゃったもの」
「私の話をお二人が楽しそうに聞いてくださるので、つい嬉しくて……」
恥ずかしそうにもじもじするナツを見て、マツとユユは「かわいすぎです、ナツ様!」と抱きついた。
「おい、何をしている」
「……?」
ナツが振り返ると、そこにはユキがいた。
「旦那様、今日のお帰りは早いのですね」
「えー、ユキ様、もう帰ってきちゃったのー」
「これから、ナツ様と話そうと思ってたのにー」
マツとユユがブーとほっぺを膨らませた。
「ナツから離れろ。嫌がってるだろ」
「ユキ様、ヤキモチですか?」
「ふふふ、かわいー! ユキ様」
ユキが嫉妬しているようなそぶりを見せたので、マツとユユはすかさずユキにツッコんだ。
ナツは、相変わらずぽかんとしている。
「いい加減にしろ!」
「「はいはーい」」
(ヤキモチって……旦那様は、マツさんかユユさんのことをお慕いしているのかしら……)
「ナツ、この後時間はあるか?」
「は、はい」
(夕食までは時間があるし、いつもお二人とおしゃべりしている時間だし……)
「街へ出かけよう。マツ、ユユ、準備を頼む」
「街ですか?」
「ああ」
「承知しました。ユキ様」
「では、ナツ様。お部屋で準備をいたしましょう」
◇◆◇
ナツは、夏らしいひまわりの着物に着替えた。
髪はかわいらしく結ってもらい、いつもの美人な雰囲気から、かわいらしい雰囲気へと変身した。
マツが「薄い色の透明感のある口紅をつけましょう。夏らしくてナツ様もお似合いになるかと」と言って、口紅を丁寧に塗ってくれた。
「お待たせいたしました。旦那様」
ユキが門の外で待っていて、ナツは少し早歩きになる。
ユキは顔に白い布を巻いていた。
目だけが見える状態だ。
「……」
「旦那様、どうかされました?」
「い、いや。なんでもない」
(ナツは、黄色の着物も似合うのだな……。というか、かわいすぎないか……)
「旦那様?」
ナツの唇がうるうるとナツの太陽に当たって光る。
「あ、ああ。悪い。行こうか」
ユキは、ほてった顔に気づかれないように歩き始めた。
ナツは、ユキの二、三歩後ろを歩く。
(旦那様はどこに向かわれているのかしら。お顔を隠していらっしゃるし、お顔を見られるとまずいお買い物……?)
ナツは、ユキに行き先を聞いたほうがいいか悩みながら、後をついていく。
しばらくして、街の通りに出た。
すると、お屋敷にいる人たちとは
全く違う、あやかしだとわかる容姿の生き物がたくさん街に溢れ、道を行き来していた。
「わあ! すごい」
ナツは、あやかしに驚くどころか、賑わう街並みに感動した。
魚屋や八百屋、呉服屋などが立ち並び、店先で客と店員が楽しそうに話している。
ユキはナツがワクワクした表情をしているのを見て、たまらなく嬉しくなった。
そして、後ろを歩くナツに、
「お前、何も持たずに屋敷に来ただろう。今日は必要なものを買ったらいい」
と、提案した。
それに対して、ナツは「……必要なものですか?」と考え込む。
「でも、ほとんど旦那様が準備してくださって……」
「あるだろう。何かしら買いたいものが」
「……そ、そうですね……」
ナツは、考えてみたものの、何も思いつかない。
ユキは、ナツのために着物や身の回りのものなどをすべて準備していたが、何か贈り物をしたいと思っていたのだ。
「もうよい、俺が勝手に買う」
「……申し訳ありません……」
「それに、なぜ後ろにいる?」
「……へ?」
「隣を歩けば良いだろう」
「は、はい。失礼いたしました」
ナツは、家族と歩くとき、使用人のように二、三歩後を歩かされたので、その癖が自然と出てしまったのだ。
ナツが隣に並ぶと、ユキは満足そうに微笑んだ。
誰かの隣に並んで歩くのが久しぶりだったナツは、緊張してうまく歩けない。
すると、路地から出てきた歩行者がナツにぶつかりそうになった。
「危ない!」
ユキが、ナツを引き寄せる。
ナツは「キャっ」とかわいらしい声をあげた。
ユキはぎゅっとナツを抱きしめる。
「申し訳ありません。旦那様、私の不注意で……」
ナツが上目遣いでユキの顔を見つめるので、ユキは「気にするな」と目を逸らした。
そして、ユキはナツの手をしっかり握って、
「こうすれば、大丈夫だろう」
と、歩き始めた。
「は、はい……」
ナツは、男性と手を繋いで街を歩くのは初めてで、緊張からか、鼓動が速くなる。
(なんだか、顔が熱いわ……)
ナツは、ほてった顔を手を繋いでいない方の手で仰いだ。




