3.第一関門
前回の三秒あらすじ
メイド服を着ることになった可哀そうな主人公です。
「ママ!せいじょさま!!」
「お、籠絡の聖女!」
「相変わらずお美しい…」
大学に足を踏み入れると一気に視線が集まる。セレナは足元に視線を下げて視線から逃れる。本来はルーチェに集まっている視線。
それは、後ろにいるセレナにも集まる。
「聖女様!本日はどのようなご要件で…」
「ふふ、休養室のお手伝いよ」
『籠絡の聖女』とはルーチェの別名だ。これは、いいのか悪いのか…セレナには分からない。元々は貴族がつけていたのだが、ルーチェは村にも行き、治療をしているので平民にも広く普及している。
「ふふ、今日も皆元気そうね」
「……」
セレナはどんどん視線を下げていく。
「視線」
「は、はい!」
ルーチェに言われ視線をあげる。上げると、人の顔が見えてしまう。周りは熱心に何かを配っている人や説明をしている人がいる。
大体が男の人だ。
「…お、男の人ばっかり…」
「ふふ、大学校は男の子が行く場所よ。本来、女の子は立ち入りすらできないわ」
「え、じゃあ、なんで…」
「特別によ」
ルーチェはドンドンと歩いていく。セレナはなるべく人と目を合わせないようにルーチェの後ろについて行く。
「ふふ、それと、言葉遣いは丁寧にしてちょうだいね」
「え…」
「セレナちゃんは今日だけのメイドちゃんだけれど、貴方の様子で家のメイドちゃんに迷惑をかけちゃうわ」
「は、はい…」
「ふふ、わたしをロワンちゃんみたいに扱うといいと思うわ」
「ひぇ…」
ルーチェはさらりと国王陛下と同じように扱いなさいと言ってきた。セレナにとっては難問だ。敬語すら怪しいセレナは、基本的国王との対面でも話さない。
それなのに、それを知っているのに、敬えと言う。
(どどど、どうしよう…)
セレナかオロオロしていると「姿勢」とまた声が飛んでくる。
「お、殿下だ」
「本当だ!」
「パパ。あれがおうじさま?」
人々が同じ方向に視線を向ける。大学見学会に来ていた貴族に連れられてきた子供達が口を揃えて言うのは「殿下」という言葉。
「あらぁ、エリアスちゃんじゃない。アルルちゃんもいるわ」
アルルは殿下の、エリアスの隣にいる。話しているようだが、視線は外を向いている。流石、護衛係だ。
「ふふ、さぁて行くわよ」
「ど、どこにですか…?」
「ふふ、アルルちゃんとエリアスちゃんにご挨拶よ」
「え、ええ…い、行くんですか…?」
ルーチェはセレナの声を聞かずに歩き出す。セレナは荷物を持ち直しルーチェの後に続く。何が入っているのか分からないトランクケースを持たされているのだ。
『ふふ、メイドちゃんだからね』
『セレナ様。わたくしはそこに入っていますので何かあれば開けてください』
ルーチェとベガに言われた事だ。そんなに簡単なことでは無い。
「ふふ、こんにちは。アルルちゃんにエリアス様」
「あ、ルーチェさん。来たんですね」
「…治癒術筆頭…さん。こんにちは…」
アルルとエリアスはそれぞれ違った反応をする。アルルは知り合いを見つけたテンションで、エリアスは声が低く、全てを警戒しています、と言わんばかりの反応だ。
「あれ、ルーチェさんの後ろって…」
「ふふ、家のメイドちゃんよ」
「え?いや、メイドっていうか…」
「メイドちゃんよ」
ルーチェはセレナの背を叩き前に出す。アルルは凄く覗いてくる。凄く、凄くだ。
エリアスは分かっているのか分かっていないのか表情が暗い。
セレナは息を整えて鞄を横に置き、跪く。
「お、お初目にかかります。アステリア王国第三王子、エリアス・シュリン・アステリア様。天八座、幻創術筆頭、アルル・バンビーノ様。わた、くしは、ルーチェ・セグレタ様のメイド…です」
セレナは頑張って叩き込まれた作法をやり遂げる。
本来、立場が平民であるはずのセレナは作法を頭に初めから叩き込んでいる。平民が貴族に逆らったら無傷ではすまないからだ。
しかし、セレナは平民でありつつも天八座になるまでは貴族と無縁の世界で生きていた。そして、天八座になってからは、貴族にも跪くことは無かった。
天八座は公爵家と同等の扱いを受ける。そのため、必然的に天八座が仕え、敬い、頭を下げるのは王族だけになる。
「…顔を上げろ」
セレナはエリアスの言葉で顔を上げる。アルルはやは動揺しているようだがエリアスは気が付いていない。
そもそも、セレナはエリアスの顔自体初めて見た。
エリアスもセレナの顔を知らない。姿くらいは新年会の時に見たかもしれないがそれだけだ。セレナと同じくらいの身長の人なんて沢山いる。
「ふふ、でお二人さん頑張ってちょうだいね。わたしは休養室にいるわ」
ルーチェの言葉でセレナは鞄を持ち、後ろについて行く。
しばらくした後、セレナはホッと息を吐いた。第一関門突破だ。
「あら。それくらいでバテちゃダメよ。お仕事はこれからなんだから」
「…わ、わかって、おります…?」
「言葉はましになったわ。ふふ、カタコトなのはやめてちょうだい」
「は、はい…」




