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星撃ちの魔術師  作者: 星宮 しずく
番外編
78/83

ユリとセレナ

 ルナは魔力測定器を取りに行ったセレナをユリと共に待っていた。ユリはいつもは元気そうにセレナと話しているが、ルナと二人のため全く話さない。


(き、気まず…)


 ルナは、顔を青くしユリの方を見る。いつも通りふわりふわりと飛んでいる。


「ね、ねぇ、ユリさん」

「なんだ人間」


 ユリはルナの前に飛んでくる。ルナを人間呼びしているのは変わらない。


「あの、セレナと出会ったのっていつなの?どんな感じだった?」

「聞くか!主凄いんだぞ!」


 そうすればユリは意気揚々と昔の話を始めた。


「ユリが名前を付けてもらったのは主と出会ってからだ!」



✿✿✿

 


「雨!!!なんでだ!!!」

 ユリは空腹の状態で山を頑張って降りていた。いや、降りると言うよりも頑張って羽を動かしていた。

 蝶は雨に弱い。それは当時名前がなかったユリも同じだ。


「お、羽を休めそうな場所だ!ついでに花があれ!!」


 ユリは希望に満ちて羽を何とか動かし洞窟に入った。しかし、先客がいた。


 人間だ。


「人間じゃないか。ケッ、食事にならねぇ」


 ユリは思わず話しかけてしまった。人間はゆっくりと振り返る。そこに生気は無かった。ただ、ユリを…名もない蝶を異物として見ていた。

 肩に揃えられていた金髪、空色の煌きは今日の天気の様に暗い。そんな一人の人間がいた。


「まぁ、いっか。消せば全て解決だもんな」


 ユリは自身の得意な魔術、風を行使した。


(ユリの場所だ!邪魔はさせないぞ!)


 ユリはただ、その一心で魔術を使っていた。


 すると人間も術式を展開し始めた。ユリは知っていた。人間は術式陣を編み上げている時が一番油断していると。


「人間は単純だよな。魔法陣なんて避けたら意味ないんだよ!」


 ユリは背後に周り風で作り上げた大量の針を人間に刺そうとした。


 しかし、何故だかユリは一瞬で視界が暗くなったのだ。


 

 ユリが羽を動かし始める。すると、パチパチと言う火の音が聞こえてきた。見れば人間が火を使い温まっている。


「あ、起きた…おはよう」


 人間は呑気に挨拶とやらまでしてきた。ここまで来ると流石のユリでも分かる。


 ──この人間は普通では無い。


 ユリは羽を動かし、人間の元へ行く。


「おい、人間」


 ユリは、人間の近くで話しかける。しかし、人間は一瞥しただけだった。


「お前の秘密全部暴いてやる。だから、使い魔にしろ。魔術師だろ」


 ユリは本気だった。この人間の近くにいれば自分は強くなれる自信があった。そして、もしかしたらお腹も空かないのでは無いかと考えたのだ。


「嫌だ」


 しかし、ユリの話はあっけなく散る。人間が断ってきたのだ。ユリは納得できなかった。普通、魔術師は、使い魔を欲しがる。ユリも魔術師に会うと「使い魔になってくれ」と言われてきた。全て蹴散らしてきたが。だから、わざわざ使い魔になると言ったのだ。


「なんだよ!お願いしているだろ!」

「嫌だよ。目立つかもしれないなんて…」


 ユリは怒りに任せて人間に怒った。しかし「人間が返した返答は目立ちたくない」だった。ユリは疑問符が沢山浮かんだ。ユリの中では人間は承認欲求の塊だと思っている。実際、ユリは承認欲求なんて言葉を知らないため、目立ちたがり屋イコール人間のような状態になっている。その公式を壊すように現れたのが人間だった。


「…おい、お前に興味が出た!」


 ユリは、帰りの支度をする人間に声をかける。どうやら雨は上がったようだ。


「絶対に目立つことはしないと約束する!だから、使い魔にしろ‼」


 ユリは必死に、必死に人間を説得する。しつこく、しつこくだ。ずっと話していると人間はため息をついた。


「…目立たないなら、うん、いいよ」

「ほんとうか!!」


 わーい、とユリはパタパタと人間の周りを一周する。大喜びだ。


「あなた、名前なに?」


 人間に聞かれる。しかし、ユリはずっと意識を持ち始めてからずっとひとりぼっちだったのだ。誰にも使えず、誰にも媚びず、誰にも助けて貰えない。そんな日常を過ごしていたのだ。


「名は無い!」


 ユリは正直に答える。ウジウジしたって仕方がない、とユリは分かっていたのだ。


「む、こう言うのは主が決めるものだろ」


 そして、ユリは人間及びこれからはユリの主人となる人に名前の命名権を上げた。ユリは「優しいどろ!!」とドヤっていたが、人間はとても戸惑っている。


「主ってわたしの事…?」


 人間は困ったようにして考え出す。そして、ユリに告げた。


「じゃあ、ユリシス」

「嫌だ」

「なんで」

「長い」


 初めに名前をつけられたのはユリシス。しかし、長くてダサくてユリは嫌だったのだ。命名権をあげたのはユリなはずなのだが、ユリにはそんな事どうでもよかった。とにかく、長くてダサいのは嫌なのだ。


 人間はさらに唸る。


「ユリ」

「ゆり?」

「そう、ユリシスよりも短いし、何より言いやすい」


 ユリは、「ゆり、ゆり、ユリ…」と自身につけられた名前を何度も復唱する。


「ユリ!気に入ったぞ!」


 ユリは嬉しくて飛び回る。初めて貰ったものが嬉しくて堪らない様子だ。


「そう、なら良かった」


 人間もどこかほっとしている。そして、人間は洞窟を抜け出した。


「人間!人間の名前はなんだ?」


 この時だろう。初めてユリが自分から何かを聞いたのは。人間は少し考えた後、口を開く。


「セレナ・リブロ…です」

「主な!分かったぞ!」

「聞いた意味…」


 ユリの主人セレナ。聞いてみれば彼女は九つだと言う。ユリは主と共に山を下る。

 ──ユリは、主と一緒なら強くなれるぞ!


 その気持ちを抱えてユリは初めて魔術王国アステリアの街に行ったのだ。

 

✿✿✿

 

「こんな感じだ!主、強いだろ!」

「へぇ…なんというか、運命的な出会いだね」

「うんめい?なんだそれは」


 ユリは意気揚々とセレナの事を語った。そうしているとセレナがやってきた。


「お、お待たせしました…」

「待ったぞ主」

「待ってないよー」


 ユリは、セレナが来たあとまた、学園を見に行く。


 ──いつか、主に勝ってやる!


 今日もユリは競争心を胸に主と生きているのだ。

ユリ

蝶。主には6戦6敗中


ルナ・プラターヌ

男爵令嬢。使い魔はいらないなと思っている


セレナ・リブロ

平民。挑まれ続けている不憫な人



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