貴族二名の優雅な練習タイム
「シャーレイ!これはどうすればいいのよ!!」
シャーレイは自身のクラスで困っている。理由はただ一つ、昔馴染みのアルバが一人でキレれているからだ。
いや、正確には魔術が上手く使えなくてキレていると言うべきか。
「…だから言ったじゃないの。イメージが大事なのよ」
「それが出来ないの!」
アルバはキイッと癇癪に任せて魔術を使う。すると、火球が教室に出現した。
「…術式開放、水流の煌き」
シャーレイは即座に教室全体に水の結界を張り巡らせる。そうでもしないと確実にこの教室は燃える。
「シャーレイ!どうするのよ!」
「言ったでしょう?こうやるのよアルバ」
「それが分からないの!」
「そもそも何故あたくしが教えないとなのよ。貴方のもう一人のパートナーに教えてもらえば良いじゃない?」
「こっちは三組がパートナーなの!!マジで教論最悪」
アルバは聞く耳を持たない。イライラして魔術を使い更にイライラする。悪循環だ。
はぁ、とシャーレイがため息をついて水の魔術を使える方法を考える。
(…そもそもアルバの属性は炎よ。水なんて対極的なものを使うのは勉強が必要…それを分かっているのかしら?)
アルバは真っ直ぐだ。真っ直ぐが故に感情的になりやすい。
「…?シャーレイ。紙」
「え?…あら本当ね」
シャーレイは飛んできた紙を開く。中には万年筆で書かれた小さく丸っこい文字。
『炎属性の人は水属性にあまり向いていません。ですが、練習を積み重ねればきっと…多分できるようになります。短期間で水魔術を取得するのはほぼ不可能ですが、もしかしたら温泉のようなイメージをするといいと思うます。炎を下、水を上とイメージして、沸騰させるということを考えるといいです。初めからヒンヤリとした水を炎の人は出せません。なので、どうしても冷たい水を使いたかったから、沢山練習したりするといいと思います。
勝手な真似をしてしまい申し訳ございませんでした。ご武運を願います』
シャーレイは、読んだあと扉を思いっきり開けた。しかし、人はいない。
代わりにクラスの前に置いてあった魔力測定器が無くなっている。
(魔力測定器を借りるついでに…?にしてもこの字、貴族では無さそうね)
こんなに小さくて丸っこい文字なんて書いていたら社交界の招待状が書けない。貴族は基本的に社交界や家の名誉などを常に考えて生きている。
「シャーレイ、どうしたのよ」
「…なんでもないわ。アルバ。温泉行ったことあるかしら?」
「もちろん!この間なんて──」
「その温泉のお湯をイメージして魔術を使ってみてくれないかしら」
「は?」
アルバは状況を飲み込めていないようだ。しかし、シャーレイの有無を言わせない表情にアルバは、扇子を持つ。
「起動!温泉…!」
バカ正直に温泉と一体アルバ。しばらくすると上空から暖かい雨が降ってきた。クラスは結界で覆われているため問題は無い。
「で、できた!シャーレイ!できた!!!!」
アルバは大喜びだ。飛び回っている。令嬢としては良くない行為だが、アルバが楽しそうなので咎めない。
✿✿✿
アルバとシャーレイが出会ったのはこの学園の初等部入学式の日。シャーレイが迷子になっていたアルバを助けたのが始まりだ。
『ねぇ、あなた。あなたも一年生?』
『うん、入学式典のばしょ、わからないの』
『あんない、するわ』
『いいの?』
『もちろん。ねぇ、あなたのなまえは?』
『あたしはアルバ・パティスティ』
『パティスティの四女ね。しってるわ。あたくしはシャーレイ・シュリスタン。シュリスタンけの三女よ』
お互いに手を差し伸べ合い、入学式場に向かった。そこからアルバとシャーレイは直ぐに打ち解け合い、なんでも話せる仲になった。
そして、高等部の入学式の日。
『うわ、シャーレイと離れたんですけど…』
『仕方が無いわね。来年に期待よ』
『シャーレイは一組志望でしょ?』
『そうよ。いくら三女でも家の顔なのよ』
『じゃあ、あたしも一組狙って魔術の勉強頑張るわ!』
そこからシャーレイはたまにアルバの魔術の練習に付き合うようになった。お互いにいい刺激になっていたのだろう。シャーレイの魔術の腕もメキメキと成長したのだ。
✿✿✿
「…アルバ、そこで踊るのは辞めなさい。令嬢としてはしたないわ」
「あ、ごめん。でも嬉しいわ!!だって、シャーレイと同じように使えるのだもの!」
アルバはキラキラした目でシャーレイを見つめている。シャーレイは、それに照れたのか扇子で口元を隠し視線を逸らす。
(…結局、あの紙の持ち主は誰なのかしら)
嬉しさと困惑の混ざった時間だった。
シャーレイ・シュリスタン
侯爵家の三女。広く、浅い魔術を使える。
アルバ・パティスティ
伯爵家の四女。一点集中型。




