5.地獄の魔術戦
前回の三秒あらすじ
お揃いにちょっと浮かれました
魔術戦のルールは至って簡単だ。
ただ、魔術を行使し相手の魔力を全て枯渇させる、もしくは審判が白旗を上げたら終わりだ。ルール上だけで見れば簡単な競技だが、魔術はとても繊細で難しい。
詠唱一つ間違えれば自身に危害が来る事もある。周りを見ずに好き放題魔術を放てばいつか、狙い撃ちを食らう。
「王立魔術学園の魔術戦の試合は最後の一組になるまで続きます。ルール違反者や失格者は上空の騎士団が白旗を上げます。上げられた時点でその組は終了です」
声は淡々と説明をしているだけだ。しかし、実際の会場の空気は重すぎる。皆、自身の将来に関わるからだろう。ピリピリとしている。
魔術の落ちこぼれ、三組の人達もだ。
「うぅ…死にそう」
「簡単に死なないから大丈夫。…それより、例の作戦で本当に大丈夫なの…?」
ルナは小声で心配そうにセレナに耳打ちをする。
死にそうと言ってる割には作戦をしっかりと練っていたセレナ。これにはルナも驚いた。
「…うん。大丈夫。成功、させてみせる」
「…かっこいい…頼りにしてるよ相棒!」
「あ、相棒…」
「あ、ユリさんが相棒か。じゃあ、わたしは相棒二号って事で!」
ユリはきっと四人の天八座の所にいるだろう。使い魔だと貴族の中には分かる人がいるはずだ。ユリには事前に天八座の所にいて、と年を押していた。
ユリは実に不服そうだった。
「では、王立魔術学園の魔術戦開始です!」
アナウンスと共に誰かの駆使した魔術が飛んでくる。セレナも得意とする光の矢だ。
「…こっち」
セレナはルナの手を引き駆け出す。派手では無く、控えめにだ。セレナの運動能力的にもだが、相手に逃げていると悟られないようにするためでもある。
「きゃ、魔術戦こわ…」
ルナは視線を誰かが行使している魔術に目を向けている。セレナは少し上空を見上げる。既に四組が失格になっているようだ。
(多分、初めは皆三組同士のパートナーを狙う。だから、今のうちに見晴らしのいい所へ)
魔術の雷か落ちる音がした。悲鳴も聞こえる。おおかた、水を撒き散らした後に雷でも行使したのだろう。
「おっとぉ⁉開始三分経たずに十三組が脱落⁉」
アナウンスは相変わらず元気そうだ。
「せ、セレナ。ほ、本当にあれやるの⁉今の見てたら出来る気が…」
「大丈夫。成功、させるから」
「成功させるのは私なんだよぉ…」
セレナとルナは開始地点から大分離れた所で足を止める。
上空には雲らしき何かが浮かんでいる。あそこに脱落者は行くようだ。
「…ルナ、来る」
「わ、わかった」
セレナが、ルナを下げて指を突き出す。いくら落ちこぼれの三組にいても結界くらい貼っても違和感は無いだろう。
「展開。瑠璃の箱」
セレナが告げれば周囲は正方形上に結界が貼られる。それとほぼ同時に岩石が降ってくる。
「きゃ」
ルナは反射的なのかしゃがみ込む。セレナは、立ったままだ。
「おい、アーサー!いけるとか言ってただろ⁉」
「仕方あるまい。この状況を見ろ。君ももっと頭を使いたまえ。だから万年最下位なのだよ」
「うっせぇ黙りやがれガリ勉⁉」
結界を挟んで目の前にいるのは一組のベネディクトとアーサーと言う男。どちらもセレナは見た事がある。
「さぁ、ルナ嬢。大人しく失格とさせてもらおう」
アーサーは、術式陣を結界の前に編み上げる。このままいけば確かに木っ端微塵。セレナもルナも無事ではすまないだろう。
相手が普通の魔術師であればの話だ。
「ルナ、いける?」
セレナは極力小さな声でルナに声をかける。ルナは小さくなっていたが立ち上がった。
「…いける」
「わかった。じゃあ…作戦開始、だね」
セレナはルナに確認を取ったあと、結界を解除する。突然、解除された結界に動揺したのか二人が展開していた術式陣は崩れた。
魔術は感情にも左右される繊細なものだ。その間にルナは距離を取り、指を向ける。
「シャフト!ハイビスカスの噴水!」
ルナが告げれば地面から大量の水とハイビスカスの花が現れる。文字通り、ハイビスカスの噴水だ。
アーサーとベネディクトの視線がそちらに行った一瞬でセレナも二人から距離を取りルナの背後に回る。
「展開、大地の芽吹き」
ルナの後ろで身をかがめながら詠唱を唱える。すると、土で覆われていたグラウンドは一瞬にして草原になってしまう。
セレナが草原にした理由は一つ。ルナに華を持たせるためだ。
一週間ほど練習はしたが、何も無い土からは植物を生やすことも成長させる事を出来なかったルナ。そのため、ルナが視線を一瞬奪っている隙にセレナが一面を草原にしようと考えたのだ。
貴族達に見られぬように先に視界に入らない結界は貼っておいた。それに、攻撃術筆頭と言えばこれという術式陣を封印しセレナが即席で作り上げた術式陣を使っている。魔力の調整もし、術式陣の大きさも変えた。
セレナの中では完璧な作戦であった。
「な⁈」
「いつの間に…」
アーサーとベネディクトの視線はルナに行く。
ルナは腰に刺していた扇子を取り出す。そして、二人の方へ突き出す。
「ちっ、おいアーサー!なんか来るぞ!」
「ルナ嬢の適性は確か水だ。お前が火で蒸発させろ」
「ふっ、任せておけ!!!ピースサイン。深紅の愛!!」
ベネディクトが叫べば術式陣と火の玉が宙に二つほど浮かぶ。学生にしては出来るほうだ。
「…常々思うが、お前の詠唱ダサいよな」
「は⁉かっこいいだろ!!!」
「厨二病全開で無理だ」
「ガリ勉やろう…試合が終わったらぶちのめす!!!!」
ベネディクトは怒りに身を任せたまま、ルナの方へ火の玉を投げつけてくる。
「セレナ!」
「うん。展開。鏡の合図」
セレナとルナは役割があった。ルナは、治癒術での反撃と攻撃。セレナは、後ろからの援護だ。そして、結界ももちろんセレナの役割だ。
簡単には割ることは出来ない、鏡の結界が張られた。
「⁉おい、反射きた!」
「ダサいぞ。ライト。終演の音」
アーサーが強化術で客席中の声をセレナとルナの方へ送ってくる。容赦ない。
「…セレナ、頭…」
「…まってて。すぐに終わらせる」
セレナは、ルナの前に出る。アーサーとベネディクトは大層油断しているようだ。当たり前だ魔術行使できるルナは戦力外。セレナは三組。
「今やるか‼」
「そうだな。ルナ嬢には悪いが」
「おい、女!歯、食いしばっておけ!!!」
ベネディクトは、元気いっぱいに魔術を使っている。
「…十五秒」
「…セレナ?」
「もう少し、耐えて」
セレナは何かを確信していた。




