2.素直な子
前回の三秒あらすじ
ルナと魔術の特訓をしました
セレナが小走りで戻るとルナはユリと話していたようだ。
「お、お待たせしました…」
「待ったぞ主」
「待ってないよー」
ルナとユリは全く違う回答をする。性格がよく出ている。
「セレナ。それ…」
「魔力測定器…です。これに指、置いてみて」
ルナは困惑しながらも平たい面に指を置く。するとゆっくりと針が動いていく。
ユリは既に居なくなっていた。また、何処かに遊びに行ったのだろう。
(…ユリって自由気ままだよね…)
セレナがそんな事を考えているとチリンと鈴のような音が鳴った。魔力が測り終わった証だ。
「六十三…さっきの魔術の魔力量も合わせると……百二十ってところかな」
「進級の時、そのくらいだった気がする!」
一般的に魔術師は五十以上の魔力が無ければ魔術師になれない。そして、魔力は二十歳まで増え続ける。きっとルナは順調に行けば百五十は優に超えるだろう。
(マリノさんは百九十と少しだから…ルナもきっといくな)
ルナの兄であるマリノ。天八座では少ない方の部類にいるが一般的に見れば多い方だ。上級魔術師の平均魔力量が百五十なので十分すぎるくらいに超えている。
「セレナ、測って何になるの…?」
「えっとその…ルナにあう魔術に変えようかな…と思って」
「……?私の適性は攻撃術だけど…」
ルナは困惑している。当然だろう。突然、遠回しに適性を変えると言われているのだ。無理もない。
しかし、セレナはどこか本気だった。
「攻撃術は、皆さん使えるので……困った時に言われると思った方がいいと思う…」
「…え?」
「人って成長するから、その過程で適性も変わる事があるの。その……だから、小さいうちは皆攻撃術って言われてる…のです」
「で、でも私中等部でと攻撃術って言われたよ…?」
「中等部は、その……色々変わる時期なので多分測った後に変化したと、思います」
「…今までのは無駄って事?」
ルナは少し半泣き状態だ。勉強していたのが無駄かも、とは誰も思いたくない。
「ち、違う……その、攻撃術は、古代魔術から直接発展してる…ので、その、八つの魔術に全部応用、効きます」
セレナはゆっくりと敬語といつもの口調が混ざりながら話す。
ルナを悲しませないように慎重に言葉を選んでいるように感じられる。
「だから…無駄では無いです。むしろ、自分で新しい応用、作れるかもしれないよ」
「…たしかに…そうかも?」
ルナは無事に納得してくれたようだ。セレナは無意識下にホット胸を撫で下ろす。
「セレナ、私の適性って分かる?」
「えっと…ちょっとまってて」
セレナはルナに言うと思考に潜り込む。
ルナの性格的に幻創術は向いていない。貴族なので美的センスはあると思うが人を魔術で魅了させられるかと言われると微妙だろう。
魂術も向いていない。そもそも今回の魔術戦では魂術の使用はほぼ不可能だ。詠唱に二十分も誰もかけられないし、掛けたくない。
結界術は少し難しいだろう。結界は数字と文字の世界だ。ルナはそこまで研究者気質ではないし、数式にも文字にもあまり関心が無さそうだ。
おおかた、考えられる中で向いているのは強化術、精神感応術、治癒術だろう。
しかし、魔術戦で強化術を使うのかと問われると答えは、いいえ、だ。強化するものがあればセレナが行使するだろう。
セレナは学園では魔術の落ちこぼれの三組。ルナの後衛として目立たぬように頑張るつもりだ。何か補助が欲しければ全力で行う。そのため、ルナが強化術を使う事はないだろう。
「…治癒術と精神感応術かな」
「精神感応術は何回か言われたけど治癒かぁ…初めて言われた」
この二つの共通点といえば魔力の消費がそこまで激しくないという事だ。
「…セレナ。その二つって攻撃…出来なくない?」
ルナの考える事は正しいと言えるだろう。精神感応術は攻撃…といえば攻撃だろうが、物理的では無く精神攻撃になる。精神は見えないものだ。正しく評価をされるかは微妙だろう。
治癒術は文字通り傷を癒すものだ。どこからどう見ても攻撃とは無縁そうに見える。
しかし、それだけではないのだ。
「その、えっと…じゃあ、わたしは治癒術、教えるね…。その、攻撃術も教えられるけど…治癒術の方優先にするね。あの、精神感応術は、マリノさん…お兄さんの方に教えて貰った方が、いいと思う」
「はぁーい」
ルナは、フワッとした返事をする。あまり納得してい無さそうだ。
その時点でルナの迎えが来た。この日は解散となった。
✿✿✿
「ただいま」
「ただいま主!」
セレナとユリは自宅に足を踏み入れる。相変わらずの部屋だ。
「ふぁ…眠い」
「主、最近変な本読んでるよな」
「変じゃない!」
セレナは珍しく声を少し荒らげる。セレナに本関連の良くないことを言うのは地雷なのだ。
はぁ、とため息をついているとセレナの視界に手紙が入った。窓に置かれてある。きっと配送の人が置いたのだろう。
「……る、ルーチェさん」
差出人の名前を見てなんとも言えない表情をしているセレナ。ユリも興味があるのか覗いている。
セレナは恐る恐る手紙を開けてみる。
『こんにちはセレナちゃん。学園生活どうかしら?
今度本部に来て欲しい用事があるの。早めに来てね。
そう、後は今度の学園の魔術戦見に行くわ。ロワンちゃんが五月蝿いのよ。そろそろ弟子でも取りなさいってね。失礼しちゃうわ。そんな歳じゃないのよー。わたし。
そうそう、魔術戦はリーナちゃんにマリノちゃんも行くわ。この二人はわたしが誘ったのよ。意外と乗り気だったのがびっくりね。後は、時間があればもう一人一緒に行くわ。
セレナちゃんの活躍楽しみにしているわ』
ご丁寧に活躍楽しみにしているとまで書かれてある。セレナはその手紙を読み終えた後、酷く青い顔になる。思っていた以上に同僚が来るのだ。死にそうになるのは目に見えている。
「主ー、これ、これなんと言うんだ」
ユリが泊まったのはロワン、という字。一番簡単に書けそうだから選んだのだろうか。セレナには分からない。
「ロワン……国王陛下」
「はると?」
「このお国の……王様」
「おうさま!偉い人だな!」
「…うん」
国王にも『ちゃん』をつけるルーチェ。
一体何者なのだろうと人知れず思うセレナであった。




