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星撃ちの魔術師  作者: 星宮 しずく
7章 番外編
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9.攻防戦という名の押し付け合い

 土砂降りが続いている中、マリノはリーナと共に丘に来ていた。


「やっば。雨降りすぎでしょ」

「この時期ですから」

「にしても多くない?化粧崩れる」


 リーナは珍しくローブについているフードを被っている。よっぽど濡れたくないようだ。


「嫌だ嫌だ…こんななか呼び出すヴォルガーノ最低。今度あったら付き合ってもらうわ」

「潰さないようにしてください」

「あいつが弱いのが悪いんじゃん」


 そんな会話をしていると風が一気に強くなる。自然現象にしては強すぎる風だ。


「…だっっる」

「口が悪いですよ」

「だってどう考えてもユリちゃんじゃん」

「そうですね」


 セレナの使い魔ユリは風魔術に特化している。使い魔は、人間よりずっと高度で威力の高い魔術を平気で永遠と行使出来る。

 きっとそれだろう。


「あー、めんど」


 リーナは杖を多分ユリがいるであろう所に向ける。マリノは下がっている。どちらかと言えば後衛側の人間なのだ。


「サイン。幽閉」


 術式陣を展開し、空間術を行使する。ユリ自身を一度閉じ込め、魔術を抑えるという作戦のようだ。

 そして、無事にリーナが創り上げた壁にユリは閉じ込められた。

 ユリの慌てた声が響いている。


「どうすんのこれ」

「私に振るのですか…」

「え、ウチそーゆーの専門外だから」


 カラッとしているリーナにマリノは呆れる。後処理がドンドン積み重なっている事を密かに感じている。


 ユリを閉じ込めた状態でいると奥から堂々とした足音が聞こえてきた。


「お、リーナ来たじゃん。ついでにマリノ」

「ふざけんなよ。こっちさっきまで魔物ぶっとばしてきて、報告書書いてたんですけどぉ?」


 リーナはヴォルガーノの言い方にイラついたのか杖を振り回しヴォルガーノに攻撃を仕掛ける。しかし、見た目に反してヴォルガーノの体は柔らかかった。


「止まれ!ぶつけられないじゃん!」

「ぶつかりたくねぇえんだよ。わかんねぇのか」

「知るわけないでしょ!ちょ、マリノ!さっさとどうにかして!」

「私ですか…」

「あんたしかいないでしょ!」


 リーナは杖をブンブン振り回しながらマリノに叫ぶ。しかし、どれだけ威勢のいい人でも中に入っていける状態ではなかった。 


「てか、あんたセレナちゃんどうした!掻っ攫ったってルーチェさんから聞いてるけど?」


 リーナは「トドメだ!」とヴォルガーノの腹に杖を投げつける。ヴォルガーノは避けきれず直撃。痛そうだ。


「痛ってぇ!お前なぁ!」

「年上の先輩に向かってお前?オマケにあんたより貴族階級高いですど?」


 リーナは雨水が溜まっている地面に倒れたヴォルガーノを上から見る。どう考えても後輩を虐める色々とマズイ先輩だ。


(何故私がこんな所に…)


 マリノは心底そう思う。絶対にリーナ一人で解決できたが、理由も分からずマリノは書類を捌いていたはずなのに土砂降りの中にいる。世の中、不思議な事だらけだ。


 元々、書類をただ事務的に捌いていただけなのにヴォルガーノからのルシェルが来たのだ。その鷹は淡々と告げた。『緊急。はよ来やがれ。セレナに危機』と。


 ルシェルとは、使い魔を持たない魔術師が使う連絡用魔術だ。その人の属性で出来ているなにかの動物が飛んでくる。ヴォルガーノの場合は鷹だ。

 それを聞いたチェーザレが大慌てで本部を出ようとしていた。それをペルットとマリノは共に落ち着かせていた。そこにリーナが帰ってくるとルーチェがリーナに仕事を任せた。


 チェーザレの感情を落ち着かせた瞬間、マリノはリーナに無理矢理連れていかれた。これが、ここまでの経緯だ。


「で?セレナちゃんは?ここにユリちゃんがいるってことはどっかに置いてきたんでしょ。まじ最低。カス。ロクデナシ」

「言い過ぎだろ」


 ヴォルガーノは危なかっしく立ち上がる。フラフラとしている。そして、ノロノロと向こうへ歩き出した。

 マリノとリーナはついて行く。


(ヴォルガーノさん、魔力を消費してないようですね)


 魔力の有無は魔術師なら感覚で分かる。完全な理解は難しいが大体は当たる。魔術が行使されている事も魔術師なら分かる。

 しかし、上級魔術師程になると相手に察せられないような魔術を使い出すため少し感知は難しくなる。


「ここだ。見てみろ」


 ヴォルガーノが足を止めたのは崖。

 リーナは呑気に身を屈めて崖の下を見る。勢いが良い滝と川がある。


「…マリノ?何した」

「いえ…なにも」


 リーナは後ろにいるマリノに声をかける。何時もなら平然と様子を見ているが今はなんだかおかしい。

 リーナは疑問符が浮かんでいるがヴォルガーノは分かったようだ。

 意気揚々とマリノの背に回り落ちない程度に押し出す。


「おっと、手が滑ったぁ?」


 わざとらしい声がマリノの背から聞こえるが何とか崖のギリギリで止まる。自然と視線は下へ向く。

 視線の先は、川が少ししか見えず己がいる場所の高度を示している。

 ゆっくりとマリノは後ずさりをしている。それでリーナも気づいたようだ。


「え?マリノって高所恐怖症?あ、それとも水怖い感じ?」


 珍しく余裕が崩れているマリノが面白いようだヴォルガーノは大笑いをしている。


「…ヴォルガーノさん、何がお好きですか?」

「は?」


 和かに、いつも通りの微笑みをヴォルガーノに向ける。


「あぁ、高所とかお好きでしょうか?そんなに見たいのでしたら貴方にも同じ体験をさせてあげますよ?」

「おいおい…冗談だろ」


 ヴォルガーノは引いているがマリノは全く動じない。さすが、精神の魔術のトップだ。

 リーナは一歩引いて見ている。後輩達の攻防戦が面白そうにしか見えない様子。ここに酒場であれば酒のつまみにして大量に飲んでいそうだ。


「お、お前が高い所慣れればいいだろ?」

「ご冗談を。学生時代に全てが平面地になれば良いと何度考えたかご存知ですか?」

「過激すぎだろ…」


 ニコニコと木に追い詰めていくマリノに追い詰められていくヴォルガーノ。流石に可哀想だと思ったのかリーナは、わざとらしくゴホンと咳払いをする。


「で?ヴォルガーノ。セレナちゃんは」


 希望の光を見つけたかのようにヴォルガーノはリーナにバッと近づく。そして、崖を指さす。


「あいつは落ちた」

「は?」


 リーナは理解出来なかったようだ。マリノも理解していない様子。


「だから、魔術師が飛び降りようとしてたから手を引いて回してた。そしたら落ちた」


 ヴォルガーノはさも当たり前のように語る。


 リーナとマリノは理解したのか、なんとも言えない表情になる。「お前がどうにかしておけよ」と視線が語っている。


「…セレナちゃん探し、ヴォルガーノやってよ。ウチ戻っから」

「は?なんで俺だよ」

「あんたのせいでしょ。百二十パーセント」


 リーナはもう疲れたのか、考えたくないのか分からないが転移魔術を起動しようとしている。


「いい?セレナちゃん見つかるまであんたは帰ってくんな。見つかったら連絡しろ。報連相。しなさいよ」


 それだけを言うとりはリーナは魔術で転移する。きっと転移先は本部だろう。

 崖に残ったのはマリノとヴォルガーノだけになった。


「なぁ」

「断ります」

「何も言ってないだろ」

「どうせ、代わりにやってくれ。でしょう?」


 図星なのかヴォルガーノはドキリとしている。マリノはそれを見て呆れ果てている。


「頼む!どうかこの通りだ!」

「……」

「この通り!‼」

「……」

「頼む!!」

「…はぁ」


 マリノのため息を聞いてヴォルガーノは顔を上げる。大体押せば引き受けてしまうのがマリノなのだ。それをヴォルガーノは理解している。


「……帰ります」

「は?」

「だから、帰ります」 

「お、おい待て!」


 ヴォルガーノは必死にマリノを止める。傍から見れば捨てないでくれ!とやっている様にしか見えない。それぐらい必死だった。


「待て待て!変わってくれ!」

「何故私が同期の後始末をしないといけないのですか」

「同期だからだ!」

「助ける義理がありませんね」


 バッサリと切り捨てている。さっさと本部に戻って捌ききれてない書類を終わらせたいようだ。しかし、仕事をしたくないヴォルガーノ。


 攻防戦だ。


「この通り!」

「面倒です」

「頼む!!!奢るぞ!」

「そんなに安くは無いのですよ」


 攻防戦は少しの間続く。ヴォルガーノが奢る回数を上げていくもマリノがそれを潰す、無かったことにする。それが続いていた。

 しかし、流石に疲れたのかマリノはため息をつく。


「…交渉しましょう」

「お、なんだ!」

「私が戻るまでは貴方がやってください。戻ってきてからは引き受けましょう」

「は?お前戻る気ないだろ」

「有りますよ。ただ、今の状態じゃこちらもやってられないのです」

 

 マリノはお手上げだとでも言うように両手を上げている。やっていられない、といのは本音だろう。今この時期間違いなく仕事を抱えているのはマリノだ。

 一方、ヴォルガーノは必要な分はするが不必要なものはセレナかマリノに投げている。


 仕事を抱えているのは知っているが「帰る」と言われて帰すわけにはいかない。絶対に帰ってこないのがオチだ。


「怪しいな。帰ってなにすんだよ」

「妻に会いたいだけですよ」

「は?」


 帰ってきたのは、ドが付くほど真面目な声で告げられた良く分からない事。妻に会いたい?信じられねとヴォルガーノの顔は言っている。

 マリノの方は真面目だ。


「こんな面倒な事に時間を使って疲れました。なので、癒しが欲しいのです」

「…なるほど?」

「妻に会ったら戻ります」

「……のった!」


 ヴォルガーノはひとつ、過ちを犯している。


 王国の精神の魔術のトップが、ただの交渉術をするわけがない。


 マリノは戻ってくる気など更々無いのだ。


 しかし、上手いこと言いくるめられたヴォルガーノ。


 しばらくの間、真面目に仕事をしているヴォルガーノが見られたとか…見られなかったとか…。言えることは、二時間後、本部に帰ってきたという事だ。

リーナ・アグレリア

子爵令嬢。報連相しない人嫌い。


マリノ・プラターヌ

男爵令息。癒しがとてもほしい。


ヴォルガーノ・メディウム

男爵令息。仕事嫌い。

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