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星撃ちの魔術師  作者: 星宮 しずく
7章 番外編
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8.救出劇~土砂降りを添えて~

  フィラは、鞄を抱えて古い建物の門らしき所で友人と雨宿りをしていた。


「降ってきちゃったね……」

「ほんと、まじ最悪」


 フィラの隣で濡れた前髪をイラついた様子で上げているのはサクリ。フィラの学生の頃からの付き合いのある友人だ。


 言葉遣いは少し見るものがあるが、一応伯爵令嬢だ。


「てか、フィラ。雨降るって知ってた感じ?」

「知らないよ…知ってたらサクリちゃんと街に行ってないもん」

「あんた…一人で街に行く気なの」

「え、うん…そうだけど。住んでたし」

「絶望的に方向音痴なあんたが?」


 フィラは方向音痴と言う言葉にギクリとする。

 フィラには前科がある。街にちょっと出かけただけでいつの間にか丘に登っていた。あの時はグルグルと丘を回っていたら狩りをしていた人に助けて貰ったのだ。


「今度は大丈夫…多分」

「あんたねぇ…旦那がどんだけ心配するか知ってる?」

「うーん。一割ぐらい?」

「信頼無さすぎてウケるわ」


 サクリはケラケラと笑っている。よっぽど面白いのかずっと笑っている。完全にツボに入ったようだ。


 フィラはムスッとする。笑われるのはそこまで好きではない。


「そんなに笑う?」

「いや、だ、だってあいつ…あんな、はははっ、あんなに分かりやすい…のに、伝わって無くて、おもしろすぎる‼」


 サクリはよっぽど面白いようだ。フィラは呆れて何も言わない事にした。


(晴れてたのになぁ…お仕事、増えちゃったかな。帰ってくるかな…)


 フィラは空を見上げて見る。強めの雨が降り注いでいる。しばらく止みそうにない。


「…雨だなぁ」

「お、雨嫌いな感じ?」

「別に嫌いな訳じゃないけど…」


 曖昧な表現をするフィラ。サクリは面白くなさそうな反応をする。


 雨はドンドン強くなる。もしかしたら雷も鳴るもしれない。


 そんな天気の中、フィラは目の前の川に何かが浮かんでいるように見えた。


 フィラは、鞄をサクリに預け水位が上がっている川に入る。後ろからはサクリの動揺した大声が聞こえる。しかし、フィラは無視し何かを川で受け止める。


「…!サクリちゃん!靴!人、溺れてるかも!」

「はぁ⁉」


 靴だけ落とした可能性もあるが、そんなことはフィラには考えつかなかった。フィラは思いっきり息を吸い、水に潜り込む。


(…!人!女の子?)


 フィラはとりあえず沈んでる子を頑張って持ち上げる。何とか水面に顔を上げるも水流の勢いで中々岸辺に上がれない。


(魔術…た、倒れる…けど使ってサクリちゃんにこの子を渡す…それがいい!)


 フィラは久しぶりに魔術を使う事を決めた。


「…フィラ⁉あんた、どうする気!」

「ま、魔術!サクリちゃん!この子受け止めて!」

「馬鹿かよ⁉あんた気失うって分かってんの⁉」

「分かってるから!」


 サクリの言葉を耳を貸さずにフィラは魔術を使う為になるべく五感を閉じる事にした。魔術が苦手なフィラ。しかし、魔力だけはあるのだ。


(距離…わかんない、5メートル位?何使えばいいの…風、水、炎、土…風かな)


 魔術は、順番が大事だ。まず、距離。目的までの場所を計算し、風の向き、角度も計算する。そして、魔術を掛ける相手の身体の情報。身長からおおよその体重を割り出し、それに耐えられるような魔術を展開させる。最後に魔術の種類。八つの魔術体系から最適解を選び、攻撃術を選んだ場合さらに四つの区分風、水、土、炎から選び、威力も考える。

 魔術は頭を使うのだ。

 色々と思考しているとサクリの唸った声が聞こえた。


「フィラ‼あんた、その娘しっかり抱えてな!」

「え?」

「辻風!」


 その言葉と同時にフィラはちょっと乱暴に岸に着く。足が痛い。


「いったぁ…」

「あたしに感謝しなさい」

「…それより!女の子…。息…してる?」

「こうすれば簡単にわかる」


 サクリは女の子の頭を下げ、顎を上げさせる。学生時代、授業こそ真面目に聞いてなかったが成績は補修しない程度に良いのがサクリなのだ。


「なにぼーっとしてんの。心臓押して、あれだよ…心臓マッサージ」

「わかった」


 フィラはサクリの指示通りに動いていく。

 しばらくすると少し手が動いた。


「生きてる?」

「大丈夫っしょ。まぁ、あっためないと死ぬけど」

「な⁉」


 フィラは慌てて鞄を探る。しかし、暖かいものは無い。


「どうしよう…あ、お屋敷なら暖かい…」

「あー、あんたの家。確か近いっけ」

「うん、お貴族様の別邸…?っていうのが沢山建ってる所」

「あんたも貴族なのにお貴族様…」

「仕方ないじゃん…もう染み付いた癖だもん」


 サクリはしれっと意識を落としている子を肩に抱えてる。フィラはサクリの荷物も持ち、土砂降りの中濡れた状態で二人で歩く。


「いやぁ?あんた、そのお貴族様になって何ヶ月よ」

「…九ヶ月」

「あー、紅葉の月に籍入れたんだっけ」

「うん、秋に」

「なんか夏のイメージ強すぎたわ」


 絶対に土砂降りの中で話す内容では無い。しかし、二人はさも当たり前かのように話している。このようなとても不思議な会話をしながら十五分程歩いているとフィラの自宅に着いた。


「ほい、水の娘」

「はーい。お風呂入る?」

「えーダルいからパス。転移て帰るわ」

「魔力…大丈夫?」

「フィラ並に豊富では無いけど転移くらい出来っから。じゃ、また」


 サクリはそれを告げ、少女をフィラに預けたあと術式陣を展開し、魔術で彼女の自宅に戻った。フィラは抱えて二階の客室に向かう。


(起きてね)


 それだけを願いフィラは少女をベッドに下ろす。


 雨は止みそうにない。

フィラ・プラターヌ

 元・平民、現男爵夫人。見事な出世をしている。


サクリ・リュンカ

 伯爵令嬢。婚約者はいるがほっといている。

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