2.ふしぎな人
前回の三秒あらすじ
少女は女の人に助けてもらった!
セレナは、フィラが出て行ったあと一人でベッドに座っていた。
何もする事がなく、暇なのだ。
(そ、そういえばユリ、ユリどこ)
キョロキョロと辺りを見渡すも何処にいても目立つコバルトブルーが見えない。
(ユリ……そういえば、落ちた時ユリの声がしたような、してないような…)
記憶が曖昧で参考にすらならない。
ユリの事はヴォルガーノに任せてセレナはベッドに倒れ込む。セレナの家とは異なってフカフカだ。ずっと横になれる気がする。
セレナは、横になったまま外を見る。
まだ、土砂降りのようだ。
(…山、崩れそう)
縁起でもない事を考えているといつの間にか、もう一度セレナは眠りについていた。
✿✿✿
数時間後、セレナは何故かお風呂に浸かっている。
(…おっきいお風呂…費用…高そう)
二度寝から起きた後、セレナはフィラに呼ばれお風呂に連れてかれた。「濡れた状態は良くない!」と言われたからである。
そのため、セレナは現在人生初のシャワー、とやらがついているお風呂に入っているのだ。
(…これ、どうやって使うの)
中々使いにくそうな形をしている。
庶民のセレナには全く分からないので隣にあったバケツを借りていつもの様に頭から被るという方法を取った。
広いお風呂は足を伸ばしても良さそうだが、セレナはいつもの癖で足を畳んでお風呂に浸かっている。
(…違和感が…すごい)
そう感じながらセレナはお風呂から上がった。いつの間にか置かれていた空色の服。女性物なのできっとフィラの物だろう。
セレナは気が引けたが腕を通す。濡れた状態で寝かせてもらっていたので元々着ていた制服はびしょ濡れなのだ。制服に腕を通すと風邪をひくのは目に見えている。
(…魔術…使えるかな)
弱い風を巻き起こして制服を乾かそうとするもいつも通り無詠唱で魔術行使をしようとするも風は起こらない。
諦め、詠唱をして風を起こそうとするもやはり魔術は使えない。
(そんなに魔力ないんだ)
魔術に必要な魔力は術によって異なる。初期魔術は魔力が10でもあれば弱々しいが使える。セレナが使おうとしているのも10位の魔力があれば良い。
しかし、現在セレナは使えない。そのくらい、魔力を消費していたのだ。
セレナは諦め制服を抱えて扉を開ける。
すぐ目の前に入ってきたのは高そうなソファと大きな窓だった。
(窓…お花が見える。さっきの女の人…えっと、フィラさん、の趣味かな…ユリが喜びそう)
セレナは窓の方に近づく。
大きく、セレナが三人いて足りそうな位の窓だ。庭は手入れされているのがよく分かる。
「お、上がったの?」
セレナが後ろを振り向くとそこにフィラがいた。手にはお盆を抱えている。
「お風呂、大丈夫だった?頑張って沸かしたんだけど…」
「えっと…はい」
「良かった。服も合ってそう。良かった…」
フィラはお盆の上に合った食器を机に置いていく。セレナはそれをただ見ているだけだ。
「あ、お風呂の設備使えた?」
「えっと…その、いえ」
「むむっ、それは大変。教えなかったわたしが悪いね…ごめんね」
「い、いえ!その、わ、悪いのはわたしで…その…」
「あの設備難しいよね。初めて見た時わたしも分からなかったな」
フィラは当たり前のようにドンドン食器を並べていく。中身は料理のようだ。小さく小分けにされている食材が数多い。
(こ、こういうのってメイドさん…とかの仕事じゃないのかな…そもそも、人の気配が無い)
辺りを見渡しても人の気配はあまり無い。あまり、どころでは無いかもしれない。
貴族の家は使用人が沢山いるのが常だ。家の主となる人に使え、その夫人にも尽くすイメージがセレナにはある。
しかし、いない。いるのは、庭ですやすやと寝ている犬だ。飼い犬なのだろうか。土砂降りの中なにも無いようにすやすや寝ている。
「あ、あの」
「なぁに?」
「その…し、使用人の方…とかいないのですか。その、お貴族様なら、いても当然だと思うのですが…」
セレナの疑問にフィラはキョトンとした顔をした。その後、すぐに笑顔になる。
「このお家に使用人さんはいないよ。なんでだろうね…慣れちゃったけど今思えば確かに不思議…。お貴族様に使用人さんはいるもんね」
フィラは思い出すようにして話し出す。
(…貴族なのに、貴族じゃないみたい…)
セレナは大分失礼な事を考えたがフィラは気づかない。その代わり、さらりとセレナの腕にあった制服を回収した。
「どうぞ、お食べ下さいな。あ、苦手な物とかは残して大丈夫だよ」
いつの間に並べ終わったのか、フィラはセレナを椅子に座らせる。いつも質素な食事しかしていないセレナにとっては豪華な食事になりそうだ。
(こ、これ…食べていいのかな)
セレナは椅子に座ったはいいものの食事に手を付けない。フィラは、よく分かってないようにしていたが直ぐにポンと思いついたのか、ナイフとフォークを奥から持ってきた。
そして、隅の方を少し摘んだ。
「これでいいかな?お嬢ちゃん、このご飯に毒は入れてないよ」
どうやらフィラはセレナが毒を盛られたと思っていると勘違いしているようだ。セレナは、それを理解した後顔を青くする。
(きき、貴族に毒味させるなんて…し、死ぬ…ど、どどど、どうしよう)
セレナは、腕を胸の前で固く結ぶ。
「…お腹空いてない?」
「い、いえ…空いてはいるのですけど…」
「うーん。食べたくない?」
「た、食べたいです」
誘導されたのか、それともフィラが自然と思ったのか分からないがセレナは自身が空腹なことを言ってしまった。
少しセレナが頬を赤くしているとフィラは、少し微笑んで食器をセレナの前に置く。
「食事は大事だよ!美味しい物は人を幸せにしてくれるんだよっ!」
「……い、いただきます」
セレナは目の前に出されたパンを口に頬張る。とても美味しいものだった。
「あ、良ければお嬢ちゃんのお名前聞いてもいいかな?」
フィラは思い出したかのようにお盆を抱えてセレナの方を向く。セレナは手を付けていたパンを置いてフィラの方を向く。
「えっと…わたしはセレナ、って言います」
「セレナちゃん!素敵な名前……」
フィラはキラキラとしている目でセレナを見る。
(…う、やっぱり変な人…)
フィラに抱く感想は全く変わらないセレナだった。




