1.嵐、到来
前回のあらすじ
誤解が解けました。
「ききき、聞いてないです…こんなの!」
「言ってないもんな!」
「なんでそんなに誇らしげなんですか!」
約三年ぶりのゲリラ豪雨に打たれているのは、半泣きで杖を抱えているセレナと、杖を持ちながらもどこか堂々としている男。
「ほら、本業だろ?」
「何がですか!わた、わたし…帰りたいです!」
「竜討伐さっさとしろよな」
「嫌だ嫌だ嫌だ…」
何故、こんなにもセレナが嫌がっているのか、何故、こんな豪雨に打たれているのかは、数時間前に遡る。
✿✿✿
数時間前、まだ太陽が西に傾いていない時セレナは天八座の本部で正座をしていた。ユリもセレナの肩に止まっていた。
そんなセレナの前には非常に高圧的なチェーザレが模試の答案を見ていた。チェーザレの隣には控えめだけど目に留まる女性がいた。
「…セレナ、その…だな。なんと言うべき…なんだろうな」
チェーザレはなんとも言えない表情をして模試の結果を眺めている。セレナはどんどん小さくなっている。
「ふふ、まぁまぁチェーザレちゃん。ほら、語学はいいわよ」
隣から指摘したのは女性。
天八座治癒術筆頭、ルーチェ・セグレタだ。
「…確かに…語学は良いが…いや、だがこれは」
「ふふ、大丈夫よ。セレナちゃんだもの、ね?」
「は、はい…」
ルーチェは微笑みながらセレナの方を向いてくる。
(ててて、天八座って笑顔で圧かけてくる集団なの…⁉)
セレナは乾いた愛想笑いを浮かべていた。ルーチェは和かに近づき、セレナの顎に指を当てて半強制的に目を合わせさせる。
「でも、これはどうにかしましょうね?」
そう言って見せてきたのはセレナの名前が書かれた科学と世界史の結果だ。どちらも六段階評価のうちの二を取っている。
「ふふふ、セレナちゃん語学できるなら世界史くらいはもっと取れるはずよ」
「ひ……ひぇ……」
「ふふ、返事は『はい』か『分かりました』よ」
「わ、わか、わかりました…」
「そうでなくっちゃ」
ルーチェは満足そうにセレナから離れる。
チェーザレはため息をついている。
(るるる、ルーチェさん…怖い…怖いよ…)
普段の天女の様な容姿からは想像出来ないが、ルーチェは怒ると怖いのだ。セレナが一番嫌な怒り方をしてくるのだ。
優しくて、でも、逃げ場を確実に潰してくる怒り方だ。
「…ルーチェ…やりすぎだ…」
「あら?そうかしら。この位やらないとダメよー。チェーザレちゃんは甘すぎるのよ」
「いや…変わらないと思うが」
そんな会話を目の前で繰り広げているルーチェとチェーザレ。セレナは足が痺れてきたので早く立ちたそうにしている。
ユリはルーチェの前だと全く話さなくなるので正真正銘、この部屋にはチェーザレとルーチェの話し声しか響かない。
そんな中、ドカンと扉から聞こえるとは思えない音がした。
「あー寝みぃ…」
「あら、ヴォルガーノちゃんじゃない。今日は早いわねー」
「うっせぇなルーチェ」
セレナは痺れた足を持ち上げ急いでチェーザレの後ろに隠れる。
柄の悪い扉から入ってきた男は天八座魂術筆頭、ヴォルガーノ・メディウムだ。年上だろうが年下だろうが呼び捨ての男。セレナの苦手なタイプ片手には入る性格をしている。
「お、セレナいんじゃん」
「ひっ……」
ヴォルガーノは、チェーザレの後ろにいるセレナの方に向かってくる。セレナはヴォルガーノの目の前に来るように動く。絶対に捕まりたくない様子だ。
二人はチェーザレを挟んで向かい合っている。
「逃げんなよ。ガキなら大人しく捕まっておけ」
「いやです……」
「俺は大人だぞ?大人の言うことは聞けって言われなかったか?」
「い、いえ……き、貴族の言うことは聞けって、同級生からは、言われてます……」
「じゃあ貴族の言うことを聞け」
「い、いや…です。ヴォルガーノさん、貴族って感じしませんし…」
「馬鹿にしてるのか?あ"あ"?」
「ひぇ……」
セレナは縮こまる。その隙に、とヴォルガーノは動き出したのだが。
「…俺を柱にするのは辞めなさい」
二人が柱にしていたチェーザレが気まずそうに咳払いをする。ヴォルガーノは止まりこちらも気まずそうにしている。
「すすす、すみせん…今、今から帰りますので」
「は?帰んのかよ。待ちやがれ」
セレナは慌てて窓から飛び降りようとしているがヴォルガーノに捕まった。ユリはいつの間にかチェーザレの頭に乗っている。
「セレナ。ちょっと付き合え」
「いやだ、いやです…」
「とって食ったりしねぇからな?」
セレナはヴォルガーノに引き摺られ本部を出た。
「……例の竜のやつか?」
「うーん。どうかしら?ヴォルガーノちゃんには頼んだけど……」
チェーザレとルーチェは二人が消えた扉を見ながら互いに首を傾げていた。




