4.開始の合図
「ユキナ…?どうしてここに居る。リリーの隣にいなさいと言っただろ……何故ここに居る……いや、本当に…」
「おとーさんかどっかにね。いったあとね、ユキナ、おとーさんのことね、おいかけたの!」
「リリー……母さんは置いてきたのか…」
「うん!」
ユキナは父親らしき人と楽しそうに話している。どうやら、セレナが会った時のユキナは自身の母親をどこかに置いてきたらしい。
「主ー、どうした。壁が来たぞ」
「どどど、どうしよう…待って…本当にどうしよう……」
セレナはユキナの父親から見えないように身を隠している。
──ユキナの父親はセレナの同僚だ。
名はチェーザレ・マルデストロ。天八座強化術筆頭だ。
遠くから見たガタイの良さで薄々察していたが現実を見たくなかったセレナは知らないふりをしていた。
「ユキナね、おねーちゃんのおうちにいるの!」
「……この部屋か?」
「そー!」
「…そうか」
チェーザレはセレナの自宅を知っている。たまに書類を受け取りに来るからだ。
そんなチェーザレが今どうな顔をしているか…予想を付けるのは簡単だ。
「…ウチの娘を保護してくれてありがとうございます」
セレナはギュッと体を抱きしめ縮こまる。怖くて怖くて仕方がないようだ。
「主。壁が話してるぞ」
「む、むりっ…いいい、居留守…」
セレナは居留守を使う気満々のようだ。ユリは、それを受け取ったのか壁ことチェーザレの方へ向かう。
「壁。主は居留守らしいぞ」
「ユリ⁉」
「ちょうちょがはなした!」
セレナはユリに一瞬で裏切られ動揺したのか机から顔を出す。ユキナは突然蝶々が話し出した事に驚いているようだ。
「あ、あああ……」
「…セレナ。すまないが扉を開けてくれないか?」
「ひぃ!あ、ああ、あの…」
「壁。ドア開いてるぞ」
「……入ってもいいか」
「いいぞ」
「ユリぃ」
ユリは自身の主人を売るという大失態を犯しているがそんなのユリが知るはずもない。ユリは家の主ではないのに家に上がる許可を出す。
セレナが机の下で泣いていそうだ。
「…セレナ。入ってもいいか」
「ひ、あ、こ、殺さないで…」
「娘の前で物騒な事は言わないでくれ…。教育に悪い」
「すすすす、すみません!」
沢山謝罪をするセレナの様子を思い浮かべつつもチェーザレはセレナの自宅へ足を踏み入れる。
「おとーさん!」
「…母さんから離れてはダメだろう…今頃探し回ってるぞ…」
部屋に入ると直ぐにユキナがチェーザレに飛びつく。それをチェーザレは抱き抱える。一件ガタイも良く、顔を怖いチェーザレだが、ユキナを抱えているところを見ると父親だと認識できる。
「…セレナ。どうしてそこにいる」
「だだだ、だ、だ…」
「頼む。言葉にしてくれ」
セレナは机の柱を掴み小さくなり、半泣きになっている。
「主は、さっきからこれだ。多分、本渡さないと治らないぞ」
「そんな事あるのか…」
机の下にいるセレナは小動物だ。肉食系の動物に遭遇した、野生の小動物。チェーザレは、ユリの言う事を信じて適当に本棚から本をとる。
そして、セレナに渡す。
「セレナ。本だ」
「ほん!」
セレナは喜んで受取りルンルンと読み始める。機嫌が良くなったセレナを興味深そうに見ているユキナ。チェーザレも安心して見ている。
そうしているとセレナの顔色が変わった。
「チェーザレさん…これ、ここ、これ…」
「どうした。汚れていた…とかか?」
「これ!素敵な文字を書く人なんです!!ほら、ユーガ・メリー!!とっても綺麗な字を書く、才能に溢れた人なんです!!ほら、この字なんて──」
「落ち着け…」
チェーザレは、キラッキラしたセレナを止める。熱を入っているセレナは見られるものではないが、入ると面倒な体質だ。
「おとーさん。ちょうちょはなした!」
「あぁ、そうだな」
「セレナおねーちゃんどうしたの?」
「愛を語っている」
ユキナは沢山の興味を見ているようだ。しばらくするとセレナの熱も収まったのか、あ、と言う顔になった。
「すすす、すみません……その、」
「構わないが、どうして娘がここにいるかだけ教えて貰ってもいいか」
「は、はい」
「おねーちゃん、はい、はいっかいだけだよ」
「ごめんなさい」
年下の子に怒られ、小さくなるセレナ。怒られて感情的になる年は過ぎているが、怒られると小さくなるがセレナなのだ。
「えっと…その、と、とりあえず座ってください…お茶出します」
「あぁ、すまん。助かる」
セレナは台所に向かいティーカップとティーポットを持っていく。中身は紅茶だ。小さいユキナに紅茶は良いのかと悩み結局出てなかった。
しかし、チェーザレは大人だ。多分飲めるだろうと思い持っていく。
「どうぞ」
セレナはなれない様子で紅茶を注ぐ。
以前も来た相手に注いだが、危なかっしすぎたのか客人に入れさせてしまった。
「助かる」
こうして、ユキナの父親チェーザレとの対話が始まった。
セレナにとっては地獄の面接のように感じられた。




