5.あるもの、無いもの
前回のあらすじ
保護した子の親は同僚でした。
「それでだな…何故娘がここにいるのか聞いてもいいか」
「は、はい……」
セレナはチェーザレの向かいに座り小さくなっている。手を固く握り膝の上に置いている。下手な面接よりもずっと緊張していそうだ。
「そ、その……あの、えっと…」
「ユキナね!セレナおねーちゃんにここにつれてきてもらった!」
「ひぇ⁉」
「セレナ?」
「おねーちゃんやさしくてね!きゃらめるくれたの!」
「セレナ……」
「ちが、違くないけど、違うます!」
セレナはユキナの発言を全力で否定する。しかし、ユキナは何も分かっていないようだ。
「セレナ、あのな説明が欲しい。ユキナの言っていることは本当か?」
「あ、あああの、ご、誤解…」
「壁。そのちっさい人間が言ってることは合ってるぞ」
「ユリ!」
「主はなんかよく分からない甘そうなやつ渡してここに連れて来たぞ」
「ユリぃぃ」
セレナは弁解の余地が無く机に突っ伏す。セレナの様子など知ったこっちゃないと言うように外では遊びの帰りなのか初等学生が笑いながら歩いている。
セレナから見れば羨ましい限りだ。
「…セレナ。自分の口から言ってくれ。頼む」
チェーザレは真剣そのものだ。
「えっと…模試の結果考えながら、帰っていました…」
「模試返ってきたのか。見せなさい」
「いいいい、いえ…むむむむ、無理です……」
天八座にはとあるルールがある。
学生の天八座のメンバーは歳上であるチェーザレと【治癒術筆頭】に模試の結果を見せなければならないのだ。
なんと言ったって学生。学生の本業は学業だからという事らしい。模試の結果が悪ければ天八座総出で面倒を見るらしい。
現にセレナの二つ歳上【幻創術筆頭】も模試の結果と単位を報告しないとらしい。
「……まぁいいだろう。後で見せてくれ」
「うぅ……。それで、その歩いていたらユキナさんが、裏路地から出てきました」
「裏路地?」
セレナとチェーザレは共にユキナの方を見る。話す蝶々に興味があるの沢山話しかけている。チェーザレの教育は安全安心そうなのでユリとの会話も落ち着いてみていられる。これが、危ない言葉を使う人だったらユリに変な言葉を教える事になる。
以前、怒られたばかりなのだ。
「その、それで…泣いちゃって、慰める為にキャラメルを渡しました…」
「渡したのか…」
「それで…相談屋に連れて行こうと思ったらユキナさんが、行きたくないって言って」
「ほう」
「それで、わたしの家でいいって言ったので……案内しました」
セレナが話終えるとチェーザレは顔を覆う。
(…どうしよう…無理…誘拐?騎士団行き…?やだぁ)
セレナがビクビクしているとチェーザレはなんとも言えない顔をして、セレナの方を見る。
「……まず、この状態は知らない人から見れば誘拐だ」
「ひっ」
「俺はセレナを知ってるからいいが今度からは辞めなさい」
「は、はい…」
「まぁ娘を保護してくれてありがとう。感謝している」
チェーザレは深々と頭を下げている。セレナは、アワアワとしている。同じ天八座とは言え貴族に頭を下げさせるのは良くないのだ。
「ほら、ユキナもありがとうと言いなさい」
「セレナおねーちゃん!ありがとう!!!!」
チェーザレが大人の感謝の仕方だとしたら、ユキナのお礼の言い方は子供らしさ満開の元気な言い方だった。
セレナは、少し縮こまりながらペコリとしているとチェーザレは立ち上がる。どうやら買えるようだ。
「さて、ユキナ。母さんを探すか」
「うん!」
「セレナ。本当に助かったありがとう」
「おねーちゃんありがとう!!!!!」
チェーザレはユキナを抱えて扉を開けている。ユキナは父親の肩を手を置いてもう片方でセレナに手を振っている。ブンブンと音が聞こえてきそうだ。
セレナも控えめに手を振り返す。
扉が閉まると夕焼けの太陽が差し込まなくなった。
『お、偉いなセレナー。〇〇〇のお手伝いか』
『うん!おかーさんのおてつだい!』
『偉い偉い』
チェーザレとユキナを見ていると、ふと過去の事を思い出してしまった。セレナは、静かな部屋に佇む本棚の前に立つ。
全てが愛おしい本たち。
セレナの心を安心させてくれる。
セレナは本の背表紙に手を滑らせる。一番多いのは魔術関連の本だ。自身が買ったものもあるし、貰ったものもある。
貰ったもので一番大事にし、一番読んだ本。それは数冊しか出ていない本だ。
セレナよりも二代前の攻撃術筆頭、スティル・サイリック。
チェーザレくらいの年齢以上の人に聞けば直ぐに出てくる名前だ。この人が、本を書いた。
その隣にあるのは古代魔術解析家のユーガ・メリー。この人は沢山の本を書いている人だ。何冊も何冊もセレナは読んだ。
お陰で古代魔術は解明されている分は頭に入っていると言える。
(いつか、いつか……)
本を撫でながら願う。




